乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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ルカ・ポアネスという不良

ルカ・ポアネスという不良43

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「……おい、ルクレア。いい加減帰って来い」

 かけられたデイビッドの声に、ハッと我に返る。

 ……しまった! また、デイビッドの存在忘れてしまっていた……! なんという、失態……!

 全てはシルフィが可愛すぎるが故だ……可愛さっていうのは本当に罪だな。

「……改めて謝罪するよ。デイビッド」

 緩み切った顔を引き締めて、デイビッドと向き直ると、私もまた先刻のシルフィ同様に深々と頭をさげる。

「……私が未熟が故に、デイビッドが真剣に行っていた試合を妨害することになってしまい、申し訳ありませんでした」

「……だから謝罪はいらねぇって……」

「――そして、本当にありがとう」

 顔をあげて、真っ直ぐにデイビッドと視線を合わせながら、微笑む。

「ディビッドのおかげで、私は自身の至らなさに気付けた。ディビッドのお蔭でシルフィと、仲直り出来た。……本当に感謝している。ありがとう」

 心の底から湧き上がる感謝の言葉だった。

 デイビッドには申し訳ない事態だったが、今回のことがあったお蔭で、私はシルフィと以前より確かな絆を結べた気がする。
 デイビッドの野望の代償だから、けして喜んでいいことではないのは分かっているが、それでも嬉しいものは嬉しい。

 謝罪を要らないというのなら、せめてこの感謝は受け取って欲しいと思う。


「……んな風に感謝されることでもねぇよ」

 デイビッドは私の言葉に、不機嫌そうに顔を歪めて、自身の頭を掻いた。心なしか、その頬は僅かに染まっている。

「元はと言えば、全部俺の言葉のせいだし……お前には悪いことをしたと、思っている」

 小さな声で発せられた予想外の謝罪の言葉に、思わず目を剥いてしまう。

 ……デイビッドが、謝っただと!?

 先程のシルフィの謝罪以上の衝撃が私を襲う。

 あの、何様俺様デイビッド様な、デイビッドが、素直に謝罪するとか、一体何の天変地異の前触れ!?
 え、本当悪いもの食べたの!? キャラ変わってない!?

 しかし、そんな何気に失礼な混乱も、続くデイビッドの言葉でたちまちに消え去った。


「――最初から契約解除する気なんかさらさらねぇのに、ルカを下僕に出来たら契約解除を考えてやるっつったのがそもそもの原因だもんなぁ。……いや、悪かった。悪かった」

 ……は?

 え、今、なんて言った?


「……え、契約解除する気無いって、え? どういうこと?」

 私の問いかけに、デイビッドは呆れたように溜息を吐いて、自身のこめかみの辺りを立てた人差し指で軽くたたいてみせた。

「よくよく考えてみろよ、ルクレア。ルカを公衆の面前で従えて敵だらけになった時ほど、お前のボレア家っつー地位が役に立つ状況なんか他にねぇだろう。そりゃあ、オージンもある程度使えるが、あいつ自身にだって敵は多いし、けして万能な手札じゃねぇ。んな状況で、俺がむざむざ使える手札を放棄すると思うか?」


 チーンと、頭の奥でお鈴を鳴らすような音がした。

 ……言われてみれば、確かにその通りである。

 オージンは皇太子であるが、その地位は絶対的なものではない。
 油断すれば、オージンを皇太子の地位から追い落とそうとする、王弟ショムテの陰がいつも傍には付き纏っているし、ショムテ以外にも、恋が故に革新を起こそうと画策するオージンを面白く思わないものも多いだろう。
 王族だからといって、簡単に誰もが従うわけではない。

 だが、そこにボレア家である私の存在が加われば、敵となる存在はグッと減る。
 ボレア家の身内びいきは非常に有名な話だ。ボレア家である私を傷つけることは、地位的には優勢であるオージンに手を出す以上に危険な賭けなのだ。

 オージンを害した場合、それが益となるショムテが、オージンを害した罪を隠蔽する可能性はある。
 ショムテはオージンと同じ王族だ。オージンが死ねば、死人に口なし。ショムテの発言こそ重視され、陰謀は全て闇の中へ葬られることになるであろう。

 だけど、私を害した場合、その罪を隠蔽できる存在なんていない。隠蔽した時点で、その存在はボレア家の敵になるからだ。
 一族の者が理不尽に他者に害された場合、ボレア家の者は皆が皆怒り狂い、持つ権力をフル稼働させて、害した存在を罰しようとする。どんな手を使っても、犯人を見つけだして報復しようとする。それは損得勘定は一切関係ない、ボレア家故に生まれ持つ本能的行動のようなものであるが故に、誰にも止めることは出来ない。

 ボレア家を敵に回したくはないと考えているであろうショムテは、おそらく一切の協力を拒否するだろう。対抗できる後ろ盾もないまま、私に手を出すことが出来る命知らずなんて、まずそういるはずがない。

 私を下僕で従えることは、ただそれだけでデイビッドの身の危険を減らすことになるのだ。そんな便利な存在、デイビッドが簡単に手放す筈がない。


 そう気づいた途端、頭の中が真っ白になった。真っ白に、そう、まるで頭の中から、真っ白な、灰に変わっていくような気分だった。


「……え、じゃあ、何で、契約解除するなんて……」

 発した声が、弱弱しく掠れて、震えている。どう考えてもろくな回答が待っている気が、しない。

「契約解除するなんて言ってねぇ。解除を『考えてやる』って言ったんだ」

「……契約解除を考えてやるなんて何で……」

「――んなもん、決まっているだろう」

 そう言って、デイビッドは小さく肩を竦めた。


「んなもん、俺がルカに勝った時に解放されると思って浮かれるお前に、契約解除する気なんかさらさらねぇこと告げて、どん底に突き落としてやろうと思ってたからに決まっているだろう」

 案の定、ろくでもない回答だった。

 ……っの鬼畜女装野郎ぉ―――っっっ!!!! 悪魔ぁ―――っ!!!

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