乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム37

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 ……もしバレた時の為に一応聞いておいた方が良いよね?
 あくまで単純な好奇心に見せかけて、さりげなーく。それとなーく、ね。

「あの女とか? そりゃあ決まってるだろ」

 そんな私の問いかけに対して、デイビッドは僅かの躊躇いもなく、きっぱりと返した。

「下僕化した後に、首輪つけて、鎖で繋いで犬として飼う。二足歩行も手の使用も許可しねぇ」


 ……目 が ま じ だ。


 こいつ、本気で言ってる……! 本気で私の正体知ったら、人間やめさせる気でいやがる……!

 何という鬼畜思考。イ、イカれてるぜ……。
 ……絶対にバレるわけにはいかない。私が人間でいる為にも……!


「――まあ、でもんなのは、まだまだずっと先の話だけどな。まずはその糞女がどれほどの有力貴族だとしても対等に話す機会を得られるような身分になんねぇといけねぇし、そもそもその女の現状すら分かっていない状況だしな」

 肩を竦めて息を吐くデイビッドに、思わず視線を反らす。

 ………うん、もうとっくに対等に話してるよ。てか既に下僕化しちゃっているよ。知らぬ間に復讐成功してしまっているよ。
 口が裂けても教えないけどな!


「……存外既に接触してたりして、な。この学園には随分とお偉い身分の奴らが多いようだし」

 ぎっく―――!

 目を細めながら続けられた一言に思わず体が跳ねそうになるのを、意志の力で抑え込む。
 ば、ばれてる? もしかして本当はばれてるのに、知らないふりして嬲っている?

「……それは、ありえるね。ここの学園来ることは貴族のステータスみたいになってるし。でも結構な学費かかるから、もしその女の子が中流貴族以下で、かつ家の跡継ぎじゃないならこの学園通うのは難しいかもしんないけど」

 しかし。演技派な私はそんな動揺なんか微塵も見せずに、さらりと返答する。
 ……おおう。素の私モードでも必死にやろうと思えれば、ちゃんと演技できるもんだな。流石私。流石ハイスペック。出来る女。

「そうだな。俺が見た限り、服装とかは中流貴族っぽかったし微妙なところだな。……まあ、いたとしてもそう簡単に近づけるとは限らねぇしな。学園生活では期待しねぇで、将来に賭けるとするか」

 ぼやくように行ったデイビッドの言葉に、思わずこっそり拳を握る。

 ……うっし、おそらくきっと、今はこれで誤魔化せている筈……!

 しかし油断したら、動物的直観が鋭いデイビッドに、復讐対象が私であることを悟られてしまいそうだから、うっかり自爆したりしないようにこの先も注意していかないとな……。
 うう。秘密を胸に宿すポジションって、フィクション的には美味しいと思ったけど、実際自分がなってみるとしんどいな。……果たしてちゃんと守り通せるだろうか。

「――つーわけで、良かったな。ルクレア」

 不意に頭に乗せられたデイビッドの手。
 思わずきょとんと眼を丸くする私に、デイビッドはにぃっと口端を吊り上げて、私の髪をくしゃくしゃに髪を掻き回した。

「今暫く、俺の犬という栄誉あるポジションはお前だけの物だぞ。嬉しいだろう?」

 ……いや、まだちゃんと人間である下僕ポジはともかく、犬ポジは正直ちょっと思うところがあるといいますか。ちょっと、とてもご遠慮させて頂きたいと思わなくもないんですが。

 しかしそんな思いも、急に機嫌が直ったらしいデイビッドの顔を見ていると、だんだん霧散していくのが分かる。

 やっぱり、こういう顔の方がいいな、デイビッドは。
 憎悪に目をぎらつかせている顔よりも、こうやって無邪気に笑っている顔の方がずっといい。

 ……だけどそんな笑みを滅多に浮かべなくなったのって、元はといえば私のせいなんだよな。

 そう思うなり、罪悪感で胸の奥が苦しくなるのを感じる。
 だけど、胸に湧き上がるのは、罪悪感だけじゃなくて。罪悪感より、下手したら強いかもしれない、別の感情が次から次に湧き上がって来て。

 ――ああ、私は酷いな。

 自覚はあったけれど、改めて自分が性格が悪いことを再確認して思わず自嘲の笑みが浮かぶ。

 罪悪感はあるのに――それ以上に、デイビッドの初恋の相手が自分であったことが嬉しいなんて。

 それが憎悪であっても、十年以上もずっと意識され続けられたことに、喜びを感じてしまうなんて。

 本当、どうかしている……いや

『イカれてる』、わ。
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