乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
167 / 191
アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム40

しおりを挟む
 数曲踊る頃には、ちらほらとダンスの輪から抜け出す生徒が出てくる。
 輪から抜けた生徒達は、会場のすみに用意されたビッフェ形式のご馳走をつまみながら、談笑しはじめる。最初からダンスになぞ参加することなく、ひたすら食べ物に夢中な生徒も……て、キエラ、ダンスそっちのけで滅茶くちゃ食ってる。ひたすら高級そうな料理から片っ端に手をつけてる。

 ちょ、隣りのパートナーくん可哀想だろ。踊れよ、ちゃんと! ルカにもお仕置き画像送れないじゃないか!

 そんなことを考えながら、ひたすら優雅に体を動かしてるけど、いい加減だるくなってきたわ。……そろそろ潮時かもしれん。


「――オージン殿下」

「うん? なんだい、ルクレア嬢」

 私は躍りを僅かに乱すこともないまま、上目遣いで小首を傾げてみせた。
 間近で絶世の美女(私)のこんな仕草見せられたら、普通の男ならどぎまぎするだろーに、オージンは至って平静に返してくる。……どこまでもつまらん男だ。

「私、今までこんなに人が密集した舞踏会に出たことがありませんでしたので、少々人酔いしてしまいましたわ。休んで来ても良ろしいでしょうか?」

 言外に『こんな有象無象どもの中で踊ってられるか』という高飛車な主張を滲ませると、オージンは苦笑するように目を細めた。

「うん、分かった。――『ラストダンス』は一緒に踊ってくれるかな? 君とパートナーになれた、記念すべき今日という日の思い出にさ」

 せつなげに嘆願するように言っているが、ようは閉幕間際の最後の一曲までは好きにしてろということである。
 必要以上に踊りたくないのは、お互い様というわけだ。いやはや、ものは言い様だね。このいかにも譲歩してやってる感がむかつくけど!

「……勿論ですわ、殿下。それでは、ラストダンスに」

 まあ、でも願ったり叶ったりだ。
 優雅に礼をして、ダンスの輪から離脱する。


 ダンスから離れた途端、大貴族令嬢と親しくなる好機を伺っていた生徒達が群がってきたが、疲れたから一人になりたいと切り捨て、ただ一人でホールを離れて外になる。
 冷たい秋の夜風を肌で感じながら、大きく息を吐き出して、空を見上げた。

 見上げた空には、白く輝く満月が見えた。前世と異なる世界であっても、そのベースは結局は元の世界。月の形も、その美しさも、前世と変わらない。この世界に特別な呼び名のようなものはないけれど、ちょうど中秋の名月といった様子だ。

 月を眺めながら、ただ、思う。

 ……デイビッドは今、どこでアルクと鬼ごっこをしているのだろうか。
 どんな状況なのだろう。
 捕まりそうなのだろうか。余裕で撒いてしまっているのだろうか。

 ――逃げ回りながら、こうやって同じ月を今、見ているのだろうか。

「――ルクレア」

 そんな物思いは、不意に背後から呼びかけられた声に引き戻された。
 その声は、待ち望んでいたものではなかった。だけど、予想していた声でもあった。

 だって、私はあまりにフラグを立てすぎてしまったから。
 ここまでフラグを消化してしまった以上、舞踏会というイベントで、彼が関わってこない筈がないのだから。

 何も、起らない筈がないんだ。だって、ここは乙女ゲームの世界なのだから。

「マシェル……」

 覚悟を決めて振り返った視線の先には、案の定、酷く真剣な表情を私に向けるマシェルの姿があった。
 マシェルは暫く黙って私を見つめた後、何かに耐えるように目を伏せて、そして静かに空を見上げた。
 マシェルに吊られるように向けた視線の先にあるのは、ただ変わらずに白く輝く満月。


「――月が、綺麗だな」

 独り言のようにぽつりと発せられたマシェルの言葉に、まるで締め付けられたかのように胸が苦しくなった。

 ――前世の私の世界でその言葉を、「Ilove you」の訳にした文豪がいたなんて、そんなこと当然マシェルは知るはずがないって、分かってはいるのに。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました

チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。 王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。 エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。 だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。 そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。 夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。 一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。 知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。 経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...