乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
178 / 191
それぞれの恋の行方

それぞれの恋の行方2

しおりを挟む
 ルクレアは精霊のことを覗いても、それでもなお私の劣等感を刺激するような、そんな嫌な女だった。

 分家筋の私とは異なる、ボレア本家直系という正統な血筋。
 いつも後少しの所で届かない、私の一つ上を行くような高い学力。
 人を引き付け従わせる、カリスマ性。

 ルクレアを構成するありとあらゆるものが、私を苛立たせた。

 腹が立つなら嫌悪するなら接触を避ければいいものを、それでも私は何故かルクレアが視界に入る度、目で追わずにはいられなかった。視線が合って、見ていたことを気付かれた瞬間、ルクレアの神経を逆なでするような言葉を吐かずにはいられなかった。
 それは負の感情であったが、気が付けばいつも、私はルクレアのことばかり考えていた。

 ずっと、見ていた。
 だから、すぐに気が付いてしまった。目撃してしまった。
 傲慢な顔の下に隠された、ルクレアのもう一つの顔を。

『――ああ、もうお前ら超大好き! 超超超超愛している!!!』


「それ」を見た時、私のうちから湧き上がったのは、衝撃よりも一層強い「怒り」だった。
「だまされた」と、まずそう思った。

 ――だま、された

 だまされた騙された騙された騙された騙された……!

 なんだ、その締まりがない緩んだ顔は……! なんだ、その甘ったるい口調は!

 それが貴様の本性なのか!? そんな本性をずっと隠して、周囲を騙して、貴様は生きて来たのか!?

 ――最低だ。

 やはり、貴様は最低な女だ……!

 演技で取り繕って、それに踊らされている周囲の反応を愉しんでいるお前は、やっぱり最低の女だ……!

 ちゃんと、あるがままの姿で、周囲に向き合え、性悪女!

 その、笑みを

 その、声を

 ――同じように私にも向けろ……! ルクレア……!


 胸中に湧き上がってくる、理不尽な糾弾の言葉の数々。
 それをただ、必死に飲みこんで堪え、黙ってその場を走り去った。
 次々に溢れだす負の感情は、どうしようもないまでに恋情と似ていたが、当時の私は気づかなかった。

 妬心は、憧れだった。
 敵愾心は、執着だった。
 憎悪は、渇望だった。

 紙一重の感情は、その正体があやふやなままに、ただひたすら時が経つごとに私の胸の奥で膨らんでいった。

 コインの表裏一体のように、それらはいつも寄り添って存在していたから、些細なきっかけ一つで簡単にひっくり返った。
 一度ひっくり返ってしまえば、自覚してしまえば、もう溢れ出す気持ちを抑えることは出来なかった。


 ――ルクレア、お前は天使なんかじゃない。

 お前がそんな綺麗な、神聖なものなはずがない。そんなことは、知っている。
 お前はただの人間だ。汚くて醜いところもたくさんある、矮小なただの人間の女でしかない。お前が天使のように特別な存在だなんて、人を正気から逸脱させるような、この甘ったるくて熱い感情に脳内を浸食されてもなお、一度も思ったことはない。思う筈が、ないだろう。

 お前は、天使なんかじゃない。

 ――天使じゃないお前に、どうしようもないほど恋をした。




 ……ああ、嫌だ嫌だ。怖い、怖くて仕方ない。正直、逃げたい。
 時間よ止まれ。……いや、ワープしてくれ。全てが終わって、解決した一番良い時間まで、ビュイーンと一気に私をワープさせてくれ!

 そんな風にいくら切望しても祈っても、時はいつものように当たり前の流れを止めてくれない。

 授業終了の鐘が響いたのを聞いた瞬間、私は湧き上がる絶望感に襲われながらも、それでも覚悟を決めて席を立った。

 約束を、果たしに行かないと。

 ちゃんと、逃げずに向かわないと。

 昨日、マシェルと別れた、あの場所まで。

 いつもより重い足を引きずりながら、帰宅途中の生徒の間を縫って、約束の場所へと向かう。
 私がその場所に辿り着いた時、既にそこには私を待つマシェルの姿があった。

「――ルクレア。ちゃんと来てくれたんだな」

 私の姿を目にするなり、嬉しそうに笑うマシェルの姿にどうしようもなく、胸が痛む。

 これから私はマシェルを、きっとひどく傷つけるに違いないのだから。
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...