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それぞれの恋の行方
それぞれの恋の行方2
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ルクレアは精霊のことを覗いても、それでもなお私の劣等感を刺激するような、そんな嫌な女だった。
分家筋の私とは異なる、ボレア本家直系という正統な血筋。
いつも後少しの所で届かない、私の一つ上を行くような高い学力。
人を引き付け従わせる、カリスマ性。
ルクレアを構成するありとあらゆるものが、私を苛立たせた。
腹が立つなら嫌悪するなら接触を避ければいいものを、それでも私は何故かルクレアが視界に入る度、目で追わずにはいられなかった。視線が合って、見ていたことを気付かれた瞬間、ルクレアの神経を逆なでするような言葉を吐かずにはいられなかった。
それは負の感情であったが、気が付けばいつも、私はルクレアのことばかり考えていた。
ずっと、見ていた。
だから、すぐに気が付いてしまった。目撃してしまった。
傲慢な顔の下に隠された、ルクレアのもう一つの顔を。
『――ああ、もうお前ら超大好き! 超超超超愛している!!!』
「それ」を見た時、私のうちから湧き上がったのは、衝撃よりも一層強い「怒り」だった。
「だまされた」と、まずそう思った。
――だま、された
だまされた騙された騙された騙された騙された……!
なんだ、その締まりがない緩んだ顔は……! なんだ、その甘ったるい口調は!
それが貴様の本性なのか!? そんな本性をずっと隠して、周囲を騙して、貴様は生きて来たのか!?
――最低だ。
やはり、貴様は最低な女だ……!
演技で取り繕って、それに踊らされている周囲の反応を愉しんでいるお前は、やっぱり最低の女だ……!
ちゃんと、あるがままの姿で、周囲に向き合え、性悪女!
その、笑みを
その、声を
――同じように私にも向けろ……! ルクレア……!
胸中に湧き上がってくる、理不尽な糾弾の言葉の数々。
それをただ、必死に飲みこんで堪え、黙ってその場を走り去った。
次々に溢れだす負の感情は、どうしようもないまでに恋情と似ていたが、当時の私は気づかなかった。
妬心は、憧れだった。
敵愾心は、執着だった。
憎悪は、渇望だった。
紙一重の感情は、その正体があやふやなままに、ただひたすら時が経つごとに私の胸の奥で膨らんでいった。
コインの表裏一体のように、それらはいつも寄り添って存在していたから、些細なきっかけ一つで簡単にひっくり返った。
一度ひっくり返ってしまえば、自覚してしまえば、もう溢れ出す気持ちを抑えることは出来なかった。
――ルクレア、お前は天使なんかじゃない。
お前がそんな綺麗な、神聖なものなはずがない。そんなことは、知っている。
お前はただの人間だ。汚くて醜いところもたくさんある、矮小なただの人間の女でしかない。お前が天使のように特別な存在だなんて、人を正気から逸脱させるような、この甘ったるくて熱い感情に脳内を浸食されてもなお、一度も思ったことはない。思う筈が、ないだろう。
お前は、天使なんかじゃない。
――天使じゃないお前に、どうしようもないほど恋をした。
……ああ、嫌だ嫌だ。怖い、怖くて仕方ない。正直、逃げたい。
時間よ止まれ。……いや、ワープしてくれ。全てが終わって、解決した一番良い時間まで、ビュイーンと一気に私をワープさせてくれ!
そんな風にいくら切望しても祈っても、時はいつものように当たり前の流れを止めてくれない。
授業終了の鐘が響いたのを聞いた瞬間、私は湧き上がる絶望感に襲われながらも、それでも覚悟を決めて席を立った。
約束を、果たしに行かないと。
ちゃんと、逃げずに向かわないと。
昨日、マシェルと別れた、あの場所まで。
いつもより重い足を引きずりながら、帰宅途中の生徒の間を縫って、約束の場所へと向かう。
私がその場所に辿り着いた時、既にそこには私を待つマシェルの姿があった。
「――ルクレア。ちゃんと来てくれたんだな」
私の姿を目にするなり、嬉しそうに笑うマシェルの姿にどうしようもなく、胸が痛む。
これから私はマシェルを、きっとひどく傷つけるに違いないのだから。
分家筋の私とは異なる、ボレア本家直系という正統な血筋。
いつも後少しの所で届かない、私の一つ上を行くような高い学力。
人を引き付け従わせる、カリスマ性。
ルクレアを構成するありとあらゆるものが、私を苛立たせた。
腹が立つなら嫌悪するなら接触を避ければいいものを、それでも私は何故かルクレアが視界に入る度、目で追わずにはいられなかった。視線が合って、見ていたことを気付かれた瞬間、ルクレアの神経を逆なでするような言葉を吐かずにはいられなかった。
それは負の感情であったが、気が付けばいつも、私はルクレアのことばかり考えていた。
ずっと、見ていた。
だから、すぐに気が付いてしまった。目撃してしまった。
傲慢な顔の下に隠された、ルクレアのもう一つの顔を。
『――ああ、もうお前ら超大好き! 超超超超愛している!!!』
「それ」を見た時、私のうちから湧き上がったのは、衝撃よりも一層強い「怒り」だった。
「だまされた」と、まずそう思った。
――だま、された
だまされた騙された騙された騙された騙された……!
なんだ、その締まりがない緩んだ顔は……! なんだ、その甘ったるい口調は!
それが貴様の本性なのか!? そんな本性をずっと隠して、周囲を騙して、貴様は生きて来たのか!?
――最低だ。
やはり、貴様は最低な女だ……!
演技で取り繕って、それに踊らされている周囲の反応を愉しんでいるお前は、やっぱり最低の女だ……!
ちゃんと、あるがままの姿で、周囲に向き合え、性悪女!
その、笑みを
その、声を
――同じように私にも向けろ……! ルクレア……!
胸中に湧き上がってくる、理不尽な糾弾の言葉の数々。
それをただ、必死に飲みこんで堪え、黙ってその場を走り去った。
次々に溢れだす負の感情は、どうしようもないまでに恋情と似ていたが、当時の私は気づかなかった。
妬心は、憧れだった。
敵愾心は、執着だった。
憎悪は、渇望だった。
紙一重の感情は、その正体があやふやなままに、ただひたすら時が経つごとに私の胸の奥で膨らんでいった。
コインの表裏一体のように、それらはいつも寄り添って存在していたから、些細なきっかけ一つで簡単にひっくり返った。
一度ひっくり返ってしまえば、自覚してしまえば、もう溢れ出す気持ちを抑えることは出来なかった。
――ルクレア、お前は天使なんかじゃない。
お前がそんな綺麗な、神聖なものなはずがない。そんなことは、知っている。
お前はただの人間だ。汚くて醜いところもたくさんある、矮小なただの人間の女でしかない。お前が天使のように特別な存在だなんて、人を正気から逸脱させるような、この甘ったるくて熱い感情に脳内を浸食されてもなお、一度も思ったことはない。思う筈が、ないだろう。
お前は、天使なんかじゃない。
――天使じゃないお前に、どうしようもないほど恋をした。
……ああ、嫌だ嫌だ。怖い、怖くて仕方ない。正直、逃げたい。
時間よ止まれ。……いや、ワープしてくれ。全てが終わって、解決した一番良い時間まで、ビュイーンと一気に私をワープさせてくれ!
そんな風にいくら切望しても祈っても、時はいつものように当たり前の流れを止めてくれない。
授業終了の鐘が響いたのを聞いた瞬間、私は湧き上がる絶望感に襲われながらも、それでも覚悟を決めて席を立った。
約束を、果たしに行かないと。
ちゃんと、逃げずに向かわないと。
昨日、マシェルと別れた、あの場所まで。
いつもより重い足を引きずりながら、帰宅途中の生徒の間を縫って、約束の場所へと向かう。
私がその場所に辿り着いた時、既にそこには私を待つマシェルの姿があった。
「――ルクレア。ちゃんと来てくれたんだな」
私の姿を目にするなり、嬉しそうに笑うマシェルの姿にどうしようもなく、胸が痛む。
これから私はマシェルを、きっとひどく傷つけるに違いないのだから。
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