乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
186 / 191
それぞれの恋の行方

それぞれの恋の行方10

しおりを挟む
 ベッドに寝転がりながら、携帯電話を開いてスクリーンをひたすら睨み付ける。
 ディスプレイに表記されている名前は、「悪魔様」最初に登録した頃のまま変わっていない。

 ……あれ、この状況なんかデジャブ。

 だけど、あの時と決定的に違うのは、私の心境。あの時と違って、今の私は確かにデイビッドに恋をしている。恋をしている自覚がある。
 だからこそ、よけい電話をするのが躊躇われる。……デイビッドは、実家に帰ることを私には教えてなかった。もし今私がデイビットに関わることが、迷惑だと思われていたらどうしよう。そう考えると、どうしても通話ボタンを押すことが出来ない。
 思わず、口から溜め息が漏れた。

 ――恋をすると、人は臆病になるっていうけど、本当だ。
 たかだか、電話。以前は単に自分のプライドが傷つくのが嫌だっただけなのに、今は電話をすること自体が、怖い。それが原因で、デイビッドに嫌われたらなんて、そんなマイナス思考に陥ってしまう。

 ……ああ、もうこんな自分が嫌だ。うじうじうじ考えても何も変わらないっつーの。
 現状を確かめるなら確かめるで、きっぱり諦めて帰還を待つなら待つで、いい加減心を決めろよ! 私!

 しかし内心でいくら自分を叱咤しても、結局考えは堂々巡り。ただひたすら携帯を睨み付けるだけで、時間が流れて行く。

「……そもそも、デイビッドが悪いよね」

 自分を責めるのは精神衛生上、あまり良くないと思うので、敢えて場面を見ないようにして携帯電話を指先で弄りながら、全ての責任をデイビッドに丸投げして拗ねることにする。

 私に一言もなく、勝手に実家に帰るデイビッドが、そもそも悪い。そんなことをするから、不安になるんだ。ちゃんと言ってさえくれていれば、私も良い子で行儀よくステイできるんだ。
 私を不安にさせた責任を持って、デイビッドよ、どうか――

「っ!」

 不意になりだした携帯音に、慌てて携帯を見直す。
 スクリーンに表記された、名前は「悪魔様」

 ……天に願いが通じたあああ―――!!!
 なんというナイスタイミング! 神様、悪魔様、ありがとうっ!

 思わず顔がだらしなく緩みだすのを、自身のほっぺたを叩いて落ち着かせながら、着信音が切れる前に慌てて電話に出る。

「――デイビッド?」

『……ルクレアか』

 電話ごしに聞こえる、デイビッドの声に胸の奥が疼く。

 ……うわあ、デイビッドだ。久しぶりの、デイビッドの声だ……!

「デイビット、実家に帰ってるんだって? 大丈夫なの? 何か、あった?」

『……ああ、大丈夫だ。もう解決した。明日には、学園に戻る』

 ……良かった! 特に何も問題ないっぽい!
 いや、問題あったかもしれないけど、もう解決したっぽい!
 そして、明日にはちゃんとデイビッド戻って来るんだ……! 良かったー。本当良かったっ!

 口元がにやけるのを抑えられない。……何だ、何も心配することは無かった。
 明日から、また、同じ日常が返ってくるんだ。
 森に出向きさえすれば、いつでもデイビッドに会いに行ける、そんな当たり前の日常が。

『で、だ。……明日の放課後、お前に話したいことがあるんだ』

「え?」

『明日の放課後、森に来れるか? 場所はそうだな……先日茶をした切り株の辺りでいいか?』

「っ行く、行く! こないだの、あそこね! 明日授業終わり次第、すぐに向かうわ」

『ああ、頼んだ。……それじゃあ、明日な』

 耳元で、ぷつりと携帯電話が切れる音を聞きながら、暫し呆然とする。
 呆然としながら、じわじわと胸の奥にどうしようもない程の歓びが湧き上がってくるのを感じていた。

「……やったああああ!」

 携帯を放り投げた、湧き上がるパッションに任せてベッドの上をごろごろと転がる。

 明日、デイビッドと、会える……!

 久しぶりにちゃんと、話が出来る!

 そう考えたら、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。……あまり自覚は無かったがどうも思っていた以上に、デイビッドが不在の一週間に参っていたようだ。

 なんだよ、さっきまでウジウジしてたのに、デイビッドの声を聴いた瞬間、こんなにはしゃいじゃって。馬鹿じゃないの、私。どこの恋する乙女だよ。柄じゃないってば。

 そう思うのに、口元のニヤニヤはどうやったって止まらない。

 ……良いの。私、17歳だから。前世の記憶があっても、私自身の体も情緒も、17歳だから。
 17歳は、乙女の分類に入っても許される年齢だから、私が恋する乙女になってたとしても別にかまわないでしょう?

「……しまった。こんなことをしている場合じゃない!」

 ハッと我に返って、慌ててベッドから身を起こした。
 明日、デイビッドに会うなら、あらかじめコックに言ってまたパフェを作って貰わないと。
 あ、せっかくだからメイドさんにいつもより少し時間を掛けて、髪を結って貰おう。お洒落したい気分なんだって、そう言えば気合を入れた髪型にしてくれるはず。
 まだ、就業時間中だから、今ならコックもメイドさんも、持ち場にいる筈。急げ、急げ。

 ベッドから降りて、気の置けない使用人たちに頼みごとをすべく、いそいそと部屋を後にする。

 明日、デイビッドに会ったらまず、開口一番で黙って実家に戻ったことの文句を言わなけば。
 それで、状況確認して、ちゃんと話して。
 二人でパフェ食べて。
 それから、それから、えっと……


 ――久しぶりのデイビッドとのコンタクトに浮かれる私は気づかなかった。

 電話口のデイビッドの声が、不自然なまでに固かったことを。

 森に誘う声が、どこか痛みに耐えるように苦しげだったことを、私はその時少しも気づくことなく、翌日の邂逅が愉しいものであることを信じて疑っていなかった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

処理中です...