乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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それぞれの恋の行方

それぞれの恋の行方11

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 ちゃんと、コックに作ってもらったパフェを、バスケットに入れて、収納魔法を使って小さくした状態で学園まで持ってきた。
 髪の毛はメイドさんに頼んで丁寧に編みこんで結い上げてもらい、美貌1.5倍増しだというお墨付きをイイ笑顔で貰った。(うちの使用人は、皆ボレア家の人間を好きすぎて困る)
 化粧は……さすがに学生の分際でやり過ぎだからしなかったけど、代わりに昔お父様から貰った特別なコロンを一振りふりかけておいた。髪が靡くたびに、ふわりと香る上品で甘い香りに思わず口元がほころぶ。

 ああ。一日がすごく、長い。
 いつもはそれなりに興味を持てるはず講義も、完全に上の空だ。

 早く、放課後にならないかな。

 気が付けば、ノートの隅にデイビッドと話したい内容を羅列していて、慌てて消しゴムで消し込む。

 ノートに落書きをするルクレア・ボレアなんて、イメージ違う!
 落ち着け、私! 平常心! 平常心!

 しかし、いくら授業に集中しようとしても、ついつい意識は放課後の方へ向いてしまう。

 ……まあ、いいか。今日くらい。

 普段ずっと優等生やっているんだ。偶にこんな風に物思いに耽る日があっても、先生たちもきっと許してくれるだろう。今日くらいは、例え授業を碌に聞かずにデイビッドのことを考えていても…

「……そこでぼんやりしている、ルクレア・ボレア。私はお前がいかに名家の者だからといって特別扱いなぞしないぞ。先程私が話していたことを、復唱してみろ」

「――1453年に起こった、ヘルデフォンケルの内乱についてお話されていましたわ。天使の後継者を名乗る偽物を仰ぐ【アンゲプレ】と名乗る宗教団体と、当時の王家の対立の話ですわね。首謀者の処刑は仕方ないにしても、【アンゲプレ】が勢力を持っていた土地の住人まで罪人のように扱った王家の処遇は、あまりに無情なように思ってしまいますわ。まあ、それだけ【アンゲプレ】がかの地に与えた影響が大きかったのだと思いますけど。――サーカスト先生?アンゲプレが存在した土地の名前も全て復唱した方がよろしいですか?」

「……っいや、良い。ちゃんと話を聞いていたなら構わない……講義を続けよう」

 ……それに、多少ぼんやりしていた所で、ハイスペック過ぎる私の脳みそは、ほとんど通常と変わらない状態で動いてくれるしな……っ!

 ……ふはははは、サーカストちゃんめ、顔真っ赤にしちゃって無様!

 今なら、普段から気に食わない私をやり込められると思ったか? 私が、質問に答えられなくてあたふたするとでも、本気で思ったのか? それで、サーカストちゃんが密かに抱いている、低身分コンプレックスを解消できるとでも本気で期待したの?

 ねえ、ねえ、今どんな気持ち? やり込める筈だった生徒に、完全にやりこめられた今、どんな気持ち?
 ねえ、教えてよ?

 特別扱いしないとかほざきながら、身分で生徒を勝手な色眼鏡かけて逆依怙贔屓ばっかりいるから、そうなんだよ。ざまあ!!!

 屈辱に呻くサーカストちゃん(歴史教師:29歳独身。現在嫁絶賛募集中)の姿に癒やされながら(嫌味だけど、思っていることがすぐに出る単純人間だから、実はそんなに嫌いじゃない。今も授業しながらうっかり涙目なっている。……愛すべき愚か者だと思う)ただひたすら放課後を待ち望む。

 終業の鐘がなった途端、挨拶もそこそこに教室を飛び出していた。

 早く、早く、早く

 少しでも早く、デイビッドに会いに行きたい。

 一歩足を進めるごとに、一歩目的な場所に近づくごとに、胸の奥の高揚が増して行くのが分かった。
 ばくばくと高くなる心臓は、走っているせいなのか、心が高揚しているせいなのか、分からない。だけどその鼓動の音は、一秒ごとに確かに早くなっていく。

「……あ、まずい」

 森に入る直前で、自分がまたしても完全に無防備な状態で、溢れ出すパッションのままに森に突入しようとしていたことに気が付く。
 ……危ない、危ない。
 自身の周りに、即座に防御膜としての結界を貼り巡らす。

 併せて精霊のお供は……まあ、いいか。今日くらいは。
 後で拗ねられたり怒られたりするかもしれないけど、今日はやめておこう。

 だって精霊達は大好きだけど、今日くらいは二人っきりでデイビッドに会いたいもん。責めは後で甘んじて受け入れる……!

 その場にいない精霊達に心の中で手を合わせながら、彼らが自分の意志ではこっちに来れないようにしたうえで、そのまま森に突入する。

 待ち合わせの切り株。ついた頃には、既にもう待ち合わせの人物は来ていた。

「……デイビッド」

「……よう」

 いつものようにトレーニング用の服を着て、すっかり男の子の格好をしているデイビッドの姿を見た瞬間、顔がにやけた。

 久しぶりにようやく、会えた。

 ――会いた、かった。
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