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それぞれの恋の行方
それぞれの恋の行方12
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「もう、デイビッド! なんで私に……」
実家に戻ることを教えてくれなかったの? と続けるはずだった言葉は、喉の奥で詰まって言葉にならなかった。
「……なんだ? 途中でやめて」
「いや……その……」
怪訝そうな視線を向けられて、思わず口ごもってしまう。
駆け寄ってから、ようやく気付いた。
何かが、違う。
そこにいるのは、確かにデイビッド本人で間違いないのに、態度も表情もいつも通りな感じなのに、対峙した瞬間、妙な違和感を感じた。
……違和感というべきか、威圧的というべきか。
ピリピリと引きつるような、緊張をはらんだ嫌な空気を、デイビッドは纏っていた。
……あれ、もしかしてデイビッド、なんか怒ってる?
いやいやいや、怒られる筋合いないし。怒るとしたら、こっちの方だし。
……筋合い、ないはずだよね? 何だか急に不安になってきたぞ……。
「っ、その! デイビッド、実家に帰ってたんだって? キエラに聞いたよ?」
嫌な空気を振り払うように、妙にテンションが高い上ずった声で、尋ねる。
そんな私をデイビッドは何故口をつぐんだまま、じっと見つめてきて、焦る。
「えっと……何しに帰ってたの? 一週間くらい? 結構長かったよね!」
「………」
「み、水臭いなあ! 帰るなら、帰るで、予め私に教えてくれれば良かったのに! ……心配したんだから!」
「…………悪かったな」
やっと返された言葉に、ホッと溜め息が漏れる。
デイビッドが何も返してくれないから、何かすごく嫌な汗流れて、服ん中気持ち悪いよ! 本気で私何かしちゃったかって、めちゃくちゃ焦ったよ!
安心から笑みを浮かべる私に返すように、デイビッドも笑った。
だけどそれは、どこか歪で複雑な笑みだった。
「愚姉を説得してたんだ。――いい加減、引きこもりをやめて学園へ来いって」
「え……」
……学園へ行けじゃなくて、学園に来い?
愚姉って、エンジェちゃんのことだよね。
……え、え、え。
「あいつもなかなか強情だったがが、数日掛けてようやく説得に成功した。……まあ。あいつのことだから、まだ数か月あるから取りえず先延ばしにしようと逃げただけだとは思うけどな。言質を取った以上、絶対前言撤回なんかさせてやらねぇ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。デイビッド」
言葉を発した唇が震えた。
それじゃあ、それじゃ、まるで
「説得って……何の説得?」
……まるでデイビッドの代わりに、エンジェちゃんが学園に来る、みたいじゃないか。
「……んなもん、二年になったら、身代わりの俺じゃなく、エンジェ本人に学園に通わせる説得に決まっているだろ」
否定してほしかった私の想定を、デイビッドはあっさり肯定する。
「二年になったらーー俺は、正真正銘ただのデイビッド・ルーチェに戻るんだ」
全身に冷や水を浴びせられたような気分だった。
エンジェちゃんが学園に通うことはすなわち、デイビッドが学園をいなくなること。
デイビッドが、私の前からいなくなることを意味していた。
「……なんで! 何で、急に!」
「ーー急にも、何も俺は最初から身代わりは一年だけのつもりだったぞ」
感情のまま詰め寄る私に、デイビッドは呆れたように溜息を吐いて首を横に振った。
「どう考えたって、卒業するまで愚姉の振りをし続けるなんて不可能だろう。一年が限度だ」
「そんなことないよ! 今だって、誰もデイビッドの正体なんて疑ってない……! 今まで大丈夫だったんだから、卒業までくらい全然平気だよ!」
デイビッドの女装は完璧だ。観察眼が鋭いオージンですらデイビッドが実は男だなんて気付いている様子なんか全然見れないくらいだ。このまま続行しても、何も問題はないはずだ。
デイビッドが入学してから今に至るまで、約八か月。その間、全くバレる様子がなかったんだ。三年間くらい、このままきっとバレずに過ごせるに決まっている筈。
何とかデイビッドを学園に留まらせようと必死な私の手を、デイビッドは静かに握って自分の首元に押し当てた。
「――お前はこれを触ってもまだ、んなことが言えんのか?」
「……っ」
手にあたった確かな喉仏の感触に、何も言えなくなった。
「……幸か不幸か俺は女顔なうえ、早生まれな分もあって同年代の野郎より発育が遅れている。ーーだけど、それでも俺は男だ。この八か月の間、徐々に声も低くなってきたし、背だって伸びている。夜中になると、成長痛で全身が痛ぇ。まだ困っちゃいないが、そのうち髭だって生えてくるだろう。……どう考えても、この先もずっと女装を続けていくなんて不可能だ」
実家に戻ることを教えてくれなかったの? と続けるはずだった言葉は、喉の奥で詰まって言葉にならなかった。
「……なんだ? 途中でやめて」
「いや……その……」
怪訝そうな視線を向けられて、思わず口ごもってしまう。
駆け寄ってから、ようやく気付いた。
何かが、違う。
そこにいるのは、確かにデイビッド本人で間違いないのに、態度も表情もいつも通りな感じなのに、対峙した瞬間、妙な違和感を感じた。
……違和感というべきか、威圧的というべきか。
ピリピリと引きつるような、緊張をはらんだ嫌な空気を、デイビッドは纏っていた。
……あれ、もしかしてデイビッド、なんか怒ってる?
いやいやいや、怒られる筋合いないし。怒るとしたら、こっちの方だし。
……筋合い、ないはずだよね? 何だか急に不安になってきたぞ……。
「っ、その! デイビッド、実家に帰ってたんだって? キエラに聞いたよ?」
嫌な空気を振り払うように、妙にテンションが高い上ずった声で、尋ねる。
そんな私をデイビッドは何故口をつぐんだまま、じっと見つめてきて、焦る。
「えっと……何しに帰ってたの? 一週間くらい? 結構長かったよね!」
「………」
「み、水臭いなあ! 帰るなら、帰るで、予め私に教えてくれれば良かったのに! ……心配したんだから!」
「…………悪かったな」
やっと返された言葉に、ホッと溜め息が漏れる。
デイビッドが何も返してくれないから、何かすごく嫌な汗流れて、服ん中気持ち悪いよ! 本気で私何かしちゃったかって、めちゃくちゃ焦ったよ!
安心から笑みを浮かべる私に返すように、デイビッドも笑った。
だけどそれは、どこか歪で複雑な笑みだった。
「愚姉を説得してたんだ。――いい加減、引きこもりをやめて学園へ来いって」
「え……」
……学園へ行けじゃなくて、学園に来い?
愚姉って、エンジェちゃんのことだよね。
……え、え、え。
「あいつもなかなか強情だったがが、数日掛けてようやく説得に成功した。……まあ。あいつのことだから、まだ数か月あるから取りえず先延ばしにしようと逃げただけだとは思うけどな。言質を取った以上、絶対前言撤回なんかさせてやらねぇ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。デイビッド」
言葉を発した唇が震えた。
それじゃあ、それじゃ、まるで
「説得って……何の説得?」
……まるでデイビッドの代わりに、エンジェちゃんが学園に来る、みたいじゃないか。
「……んなもん、二年になったら、身代わりの俺じゃなく、エンジェ本人に学園に通わせる説得に決まっているだろ」
否定してほしかった私の想定を、デイビッドはあっさり肯定する。
「二年になったらーー俺は、正真正銘ただのデイビッド・ルーチェに戻るんだ」
全身に冷や水を浴びせられたような気分だった。
エンジェちゃんが学園に通うことはすなわち、デイビッドが学園をいなくなること。
デイビッドが、私の前からいなくなることを意味していた。
「……なんで! 何で、急に!」
「ーー急にも、何も俺は最初から身代わりは一年だけのつもりだったぞ」
感情のまま詰め寄る私に、デイビッドは呆れたように溜息を吐いて首を横に振った。
「どう考えたって、卒業するまで愚姉の振りをし続けるなんて不可能だろう。一年が限度だ」
「そんなことないよ! 今だって、誰もデイビッドの正体なんて疑ってない……! 今まで大丈夫だったんだから、卒業までくらい全然平気だよ!」
デイビッドの女装は完璧だ。観察眼が鋭いオージンですらデイビッドが実は男だなんて気付いている様子なんか全然見れないくらいだ。このまま続行しても、何も問題はないはずだ。
デイビッドが入学してから今に至るまで、約八か月。その間、全くバレる様子がなかったんだ。三年間くらい、このままきっとバレずに過ごせるに決まっている筈。
何とかデイビッドを学園に留まらせようと必死な私の手を、デイビッドは静かに握って自分の首元に押し当てた。
「――お前はこれを触ってもまだ、んなことが言えんのか?」
「……っ」
手にあたった確かな喉仏の感触に、何も言えなくなった。
「……幸か不幸か俺は女顔なうえ、早生まれな分もあって同年代の野郎より発育が遅れている。ーーだけど、それでも俺は男だ。この八か月の間、徐々に声も低くなってきたし、背だって伸びている。夜中になると、成長痛で全身が痛ぇ。まだ困っちゃいないが、そのうち髭だって生えてくるだろう。……どう考えても、この先もずっと女装を続けていくなんて不可能だ」
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