乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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それぞれの恋の行方

それぞれの恋の行方13

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「……っ」

 それはあまりに分かりきっていた筈の事実だった。成長期の少年が、女装を続けるなんて無理がある。
 あまりに分かりきっていた筈の事実なのに、私は今までそのことを考えたことすらなかった。

 想像もしていなかったんだ。――デイビッドが、私の傍からいなくなるかもしれない未来だなんて。

「……まあ女装生活なんて黒歴史だけど、思えばいい経験したよな」

 全身の震えを押し殺す私に気付かずに、デイビッドは掴んでいた手を離して淡々と言葉を続けた。

「逆ハー計画? は失敗して望む下僕は作れなかったけど、普通は貴族じゃねぇと勉強出来ねぇ文官になる為の知識も得られたしな。……お蔭で来年の文官試験はかなり有利になった」

 もう、来年のことを考えているのか。そんなにあっさり学園を出た後のことを考えられるのか。……そう思ったら、泣きたくなった。

 デイビッドにとっては、私と一緒に学園で過ごすことに何の意味もないんだ。……一緒にいたいのは、きっと私だけで。

「……でも、でもデイビッド、良いの?」

「何がだ?」

「本当にエンジェちゃん、学園に来て大丈夫なの? 危険じゃ、ないの?」

 発した問いかけの言葉は、まるで縋る様な響きを持っていた。
 大丈夫じゃないと。危険だからやっぱり姉を通わせることは出来ないと。そんな返答が返ってくるはずないなんて分かりきっているのに、言わずにはいられなかった。

 そんな私の言葉に、デイビッドは肩を竦める。

「二年になったら、俺に執着しているアルクは卒業する。オージンは、愚姉の意志を尊重して卒業までは、あいつが望む距離感を保とうとするだろう。ルカに至っては、惜しい所まで行ったとはいえ、それでも大勢の前できっちり負けたんだ。銀狼狙いの奴から敵意を持たれてはいない。文官コースなら高い身体能力を期待されることもねぇし、その能力を披露する場もねぇから、武術大会を見ていた連中に能力の差を訝しがられることもない。……何が、問題があるんだ?」

「っ問題、あるよ……!」

 反射的に答えてから、必死にエンジェちゃんが恐れていることを脳裏に浮かべるする。
 攻略対象との接触。向けられる敵意。他には……。

「――私が、いる!」

 ――悪役令嬢:ルクレア・ボレアによる、虐め。

「私が、デイビッドがいなくなったら、エンジェちゃんを虐めるかもしれない……っ! ほら、隷属の印だって、主人が遠ざかったら効果は薄れるよ! だから、だから……」

「――お前が?」

 しかしそんな私の破れかぶれな訴えは、すぐさまデイビッドに一蹴された。

「ねぇな」

「っなんで、分かるの……! あるかもしれないじゃない……!」

「分かるに決まっている。――半年以上、ずっとこうやって交流してきたんだから」

 そう言ってデイビッドは、呆れたように小さく溜息を吐いた。

「今のお前が、愚姉苛めなんか出来るわけねぇよ。……それがあいつにとって、デメリットしかねぇ行為だって分かっているから。何だかんだでお人よしなお前は、『周囲の人間の好感度を上げてやる為』という大義名分がない限り、苛めなんか出来るわけがねぇ。寧ろ、お前は同じ転生者?なあいつに同情して、手を貸そうとすんじゃねぇのか?」

「……う……」

 デイビッドの言葉は、正直言って、かなり的を得ていた。
 もろもろの事情が分かっている今、私は当初のデイビッドの時のように、エンジェちゃんを虐めることなんて不可能だ。それが、誰にとっても不幸しかもたらさないと分かっているから。
 それこそエンジェちゃんがボレア家に害をもたらそうとでもしない限り、私が自らの手で彼女を害すことはない。

 だけど今、それをデイビッドに口にして欲しくは無かった。
 本来だったら嬉しいはずの向けられる信頼は、今この状況では何の意味も成さない。
 縋る僅かな可能性すら消し去って、私を増々追い詰める。

「……そんなの、分からないじゃん……」

 無駄な足掻きのように発した言葉は、自分でも驚くほど力なくて、説得力が欠けていた。
 それでもまだ、否定の言葉を吐き続ける私の姿に、デイビッドは苦笑する。

「だから分かるっつーの。俺は、お前がけしてエンジェに手を出す訳ないって信じている。――だから、もういいんだ」

 不意に伸ばされた手に、咄嗟に反応が出来なかった。
 デイビッドの手が、私の首元に掲げられる。
 デイビッドが何をしようとしているか気付いて身を捩った時には、もう遅かった。

「……もうお前が俺の下僕で居つづけなくても、良いんだ。ルクレア。……俺に縛られないで、好きな相手と、好きに生きろ。――【解】」

 あげた筈の悲鳴は、音にならなかった。
 体の隅々から吸いだされるかのよう何かが駆け廻り、首元に集中してそのまま外へ抜けていく。
 光の勢いに耐えきれないように、首につけていたチョーカーがパキリと音を立てて割れた。

 抜け出したそれは外に出た瞬間光となって一瞬鮮やかに輝いて、そしてそのまま宙に四散していった

 四散する光が、私の全身を包んだ。だけど光は徐々に弱くなり、やがて完全に消えてしまった。
 光が無くなった瞬間、全身から力が抜けてがくりとその場に座り込む。

 呆然と見上げる私を見降ろして、デイビッドは切なげに笑った。

「喜べ。ルクレア。――これで、お前は自由だ」

 割れたチョーカーが落ちて、露わになった首元に手を当てる。
 自分の首元は自分では、どうなっているのかは見ることは出来ない。

 ――だけど、目で見て確かめるまでもなく、そこにはもう先程まであった印が存在しないのだということを、私は確信していた。
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