鬼の炎帝、妖の異界を統べる

くりねこ

文字の大きさ
5 / 10
ポップタウン

たぬきの定食屋

しおりを挟む
 暖簾をくぐり店内に入ると、熱気で僅かに焼けた樫の木の壁に、料理の品書きが書かれた僅かに黄ばんでいる紙が貼られている
 次に俺の鼻をくすぐったのは、甘辛く焼け焦げたような肉の香りだ
 
宝『ここが、オススメの定食屋か?』
ミレ「定食屋"肉たぬき"、駆け出しの冒険者の間で一番人気な定食屋なんだにゃ!」

 ミレがしっぽを激しく振り、目を輝かせて喉をゴロゴロと鳴らしながら言う
 相当この定食屋のことが気に入っているらしい

宝『確かに、美味しそうないい匂いだな』

 俺はミレに導かれるままに長いカウンター席に隣同士で座る 
 目の前では分福茶釜と思われる小太りなたぬきの店主が肉に甘辛いタレをかけて焼いている

ミレ「ここはね、色んな動物の肉を使った肉料理が食べられるポップタウンで唯一の店なんだ」
宝『いつもここに通ってるのか?』

 うん!と、ミレが元気よく頷いた

ミレ「私のオススメはねー、小猪のむね肉かな」
宝『小猪、あぁ……あの平原にいたやつか』

 ミレが見せてきたメニュー本には、美味しそうな焼き色がついた猪の肉に、粉吹き芋が添えられた"店主イチオシ!"と書かれている一皿だった
 周りを見てみると、ほぼ四割の客が白いご飯と共に猪肉をかき込んでいる

宝『それにしてみようかな』
ミレ「わかったにゃ!すみませーん!」 

 ミレが厨房に向けて声をあげると、奥の方から"はいよ~"という間延びした声と共にいかにも食堂のおばちゃんという風貌のタヌキの女性が来た
 その手には赤い提灯のようなものを持っていて、ほのかな明かりが店内を照らす

ぽん子「あらぁ~ミレちゃん、将来の旦那様を連れてきたの~?」
ミレ「ち、違うにゃ!」
宝『え?、将来の旦那?』 

 俺が困惑で目をぱちくりさせている横でミレが焦りながら顔を真っ赤に染めて首を横に振る

ミレ「私はご主人のパーティメンバーにゃ!」
ぽん子「あら~、そうなのね~」

 あせあせしながら訂正するミレに対し、おばちゃんはやんわりと返した
 
ミレ「それで、注文にゃけど」
ミレ「小猪のむね肉定食を二つお願いしますにゃ」
ぽん子「あいわかったよ」

 おばちゃんが注文を受け付け、厨房に戻っていく

宝『この店一番の看板メニュー、楽しみだな』
ミレ「本当に凄い美味しいから!楽しみにしててにゃ!」

 厨房からパチパチと薪が爆ぜる音、そしてジューシーな肉を焼く音が聞こえてくる
 そして、肉が焼ける香ばしい香りに甘辛いタレの匂いが乗って俺の鼻腔をくすぐる

宝『いい匂いだな』
ミレ「でしょ!、みんなここの定食が大好きなんだにゃ!」

 ミレがあれだけ推してくる理由がよくわかった気がする、これは確かに大人気になる店だ

ぽん子「はいよ!小猪のむね肉定食二人前だよ」
 
 それから程なくして、俺とミレの前に注文した品物が出された
 
 ひと口大にカットにされて甘辛いタレがかけられたイノシシのむね肉が皿のど真ん中に鎮座し、その隣に粉吹き芋とレタスが添えられている 
 隣に座する白いご飯はふっくらと炊き上がって美味しそうな湯気をあげていた

ぽん子「たんとお食べ!」
 
ミレ「美味しそう!いただきますにゃ!」
宝『いただきます』

 俺は真っ先に猪のむね肉を口に運ぶ
 噛んだ瞬間に肉汁が口の中に広がり、遅れて甘辛いタレの味が俺の口の中に拡がった

宝『美味いな』
ミレ「でしょ?、ん~やっぱり美味しいにゃ!」

 ミレは隣で満面の笑みを浮かべて耳をぴくぴくさせながら白米を頬張っている

ミレ「ほかほかにゃ♪」
ぽん子「美味しそうに食べてくれて、嬉しいねぇ」

 横を見ると、ミレはあっという間にむね肉定食を完食していた

ミレ「美味しかったのにゃ♪」
宝『早いな』

 俺もその後すぐにたいらげて会計に移る

ぽん子「二人前で648銭だよ」
宝『はい、ちょうどだ』

 俺はストレージから銭が入った袋を取りだし、おばちゃんに手渡した
 おばちゃんはにっこりと笑顔をうかべる

ぽん子「まいどあり~」
ミレ「また来るのにゃー!」

 ミレはおばちゃんに手を振りながら、俺たちはたぬき定食屋を後にした

ーーーーーー

 定食屋を出ると外は既に暗くなっていて、町中に行灯や提灯のあかりが浮かぶ妖艶ながらも幻想的な風景を浮かべていた
 街行く人たちも民間人中心から、軍服を着て軍刀を携えた警察隊のような人物の割合が増えている

ミレ「暗くなってきたにゃね」
宝『あぁ、そろそろ今日の宿屋を探すか』

 隣を見ると、ミレの瞳孔が広くなっていた

宝心『そういえばミレは、猫の獣人だったな』
ミレ「オススメの宿屋は……」

 ミレは周辺をキョロキョロしながら泊まれそうな宿屋を探している
 
 その時だった

警察隊「君、ちょっといいかな」

 軍刀を携えた警察隊が、俺に話しかけてきた
 その目には僅かに疑いと警戒心が滲み出している

宝『どうしたんだ?』

 俺は己の服装を見て、なるほどなと納得した
 
 俺の服装は黒色のワイシャツに赤色のジャケットという、明治日本にはあまりにも不似合いな服装だったからだ
 これでは、怪しまれても当然だな

警察隊「君、ここの世界の人じゃないようだけど、どこの世界から来たんだい?」
ミレ「そういえば、さっき言ってたにゃんね」

 最初の質問で確信をついてくる

宝『よく分かったな、俺はネオバースから巻き込まれてここに来た、鬼燈 宝だ』
警察隊「なるほどな、通りで見たことの無い服装なわけだ」

 警察隊は疑念が晴れると、俺たちから少し離れた

警察隊「この国の政府には私から伝えておくから、君は早いうちに旅館を見つけておきなさい」
宝『あぁ、感謝する』

 そう言うと警察隊は、夜の街のパトロールに再び戻って行った

宝『さてと、早く宿を見つけとくか』
ミレ「……」

 俺は警察隊と別れた後、宿屋を探しながら隣でミレが黙りこくっていることに気付く

宝『ん?、どうしたんだミレ』
ミレ「どうやって、こっちの世界に来たのにゃ?」

 ミレはそう言いながら、興味と期待に溢れる瞳で俺の顔をじっと見てきた

宝『あぁ、巻き込まれた感じだけどな』
宝『正直この世界も結構好きだぞ』

 その答えでミレは確信を得たような表情に変わり、こう言ってきた

ミレ「なら……私と一緒に、この国を救って欲しいのにゃ!」

 強い決意が籠った瞳からは、暗闇の中で一筋の光を感じた、そんな気配を感じた
 その時、俺たちの目の前に少し古びたような外見ながらも清潔感のある旅館が現れる

宝『ここなら話しずらいだろう、』
宝『話は、旅館の中で聞くとにしようか』

 俺はそう言い、ミレを連れて旅館の中に入った
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...