龍の力を持つ冒険者、理想が合わなくなったパーティーを抜けて自由に活動していきます

Corlas

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第二十二話 野営地へ

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「ということは、村民は全員村からは避難できてるのか?」
「はい、近くに野営地を設置してそこに待機しているという報告を受けています。我々の役目は避難した村民を安全に東都まで送り届け、そして村を占拠しているモンスターを掃討することです」
「なるほど、一応最悪の事態は免れているわけか。やることがそう複雑ではなさそうで安心したよ」

 馬車の中では大我の代わりに孝希が説明を担当する。
 当の本人は「周囲を警戒しておく」と言ってずっと馬車の外に出て騎手と周囲の警戒に勤めていた。
 村がモンスターに占拠されているならあの辺りは一帯が危険域に変貌しているだろうし、野営地も厳密な場所は把握できていないようなので確かに必要ではあるだろうが、何だか少し様子がおかしかった。
 孝希もそれを感じているのか、会話の途中もしきりに大我の居る方に視線を向けていた。

「二人とも状況は大体わかったか?」
「はい、私は問題ないですわ」
「・・・」
「れん、聞いてるか?」
「・・・え?・・あ・・・ごめんなさい」

 様子がおかしいと言えばれんもそうだ。
 ほとんど会話に参加しないどころか隅でうずくまったまま上の空で何か考え込んでいるようだった。

「何か悩んでるなら今の内に聞くぞ。そんな状態じゃ依頼に支障が出る」
「・・・ごめんなさい、でも大丈夫です。戦いが始まったらちゃんとできますから」
「なら別にいいが・・・」

 れんは何かに悩んでいることが多いのは常々思っていたが、今回は少し妙だった。ギルドで依頼のことを聞いた時は普通にしていたはずだ。由衣や莉彩も笑顔で送り出していた辺り異常はなかったとみていい。それが現れ始めたのは、騎士団の本部に来た辺りだろうか。
 騎士団と何かいざこざでもあったりしたのだろうか。さすがに無関係ではなさそうだが、さすがに何なのかまではわからない。

「皆さん、そろそろシュミールの村付近の森に到着します。少し離れたところで降りて野営地を探すので、準備してください」

 考えていると外で周囲を見ていた大我が顔を出す。あまり時間が経っていない気がしたが、さすがは馬車だ。
 東の村、「シュミールの村」は周囲が森に囲まれている。5人は森の外で馬車を待たせ、そこからは歩いて森の中に入ることにした。

「野営地の場所に検討はついているんですか?」
「おそらくそう村から離れてはいないと思います。なので、村の外周を円状に歩けばその内見つかるでしょう」
「何だか適当ですわね」
「面目ない。でもこれが一番早いんだ」

 この森は最大でCランクのモンスターが生息するそれなりに危険な地帯だ。
 ただ肉食ではなく草食の数が多いことからこれまで村はほとんど襲われることはなかった。
 作物を狙ったとするなら草食のモンスターでも人間の居住区を襲うことはありえるだろうが、占拠までいって騎士団が苦戦しているあたり群れで襲撃したのだろう。
 そんな奴この森にいただろうか。森に入ると記憶もスムーズに引き出されていくが、中々思い当たる奴は出てこなかった。
 大我の予定通り村の周囲を円を描くように歩いていたが、ふとれんが諒のコートを引っ張って呼び止める。

「諒さん、近くに何かいるみたいです」
「そうか・・・どこから気配がする?」
「・・・あっちです」

 れんが右を歩いていた琴音の方を指さす。
 モンスターか人か、何かは分からないようだ。気配がすると言っていたが諒は言われてもいまいちピンとこなかった。
 大我に視線を送ると、彼も少し迷っていたようだがやがて小さく頷く。

「少し近づいてみよう。もしかしたら人かもしれないからね」
「わかった」

 れんの感じたものの正体を確認することにした。
 これが野営地に関連するものならいいのだが、その正体がそれではないことはすぐにわかった。

「モンスターだな。俺達が相手しますから、二人は下がっててください」
「・・・任せました」

 どうやられんが感じたのは足音のようだ。しかしそれは人間のものではない。
 間隔から見るに人型のようだ。その情報があっても尚諒の記憶に引っかかるモンスターは出てこなかったが、とにかく諒達はそいつを待ち構える。

オオオオオ!!

「こいつ、オーガか。どうしてこんなところに」

 そいつは諒達の存在に気づいていたのか、足音はまっすぐ5人の方に目掛けて迫ってくる。そして咆哮とともに姿を現したのはオーガだった。この間昇格依頼で戦ったやつだ。あんまり変なモンスターでなくて安心したが、同時に嫌な予感も諒を襲う。
 こいつはこの森では生息が確認されていないはずだ。オーガが本来確認されていない地帯に出現する場合、その原因となる別のモンスターが近くにいる場合が多い。そのモンスターが今回の一件に関わっている場合、かなり厄介なことになりかねない。

「諒様、行きましょう!」
「・・・ああ、れんもいいな」
「はい」

 琴音の言葉で一端諒は思考を振り払う。とりあえずこいつを倒してから考えることにした。
 今後のことも考えればあまり時間もかけていられない。先手を取って諒と琴音が一気に距離を詰める。
 同時にれんも矢を放ち二人を援護する。

グオオオ!!

 オーガはれんの矢を煩わしそうに振り払うが、その隙は諒からみれば致命的だ。
 先に諒がオーガに接近し、まずは要注意なこん棒を持つ右手目掛けて剣を振るう。

「竜剣技・斬翼『太刀風』!」

 飛び上がりながらの諒の斬撃はオーガの右腕を丸太のように真っ二つに斬りさく。
 オーガは苦悶の叫びをあげながら暴れるが、右腕を失った影響は大きく、とどめを刺しにかかる琴音にとっては何の脅威にもならなかった。

「これで終わりですわ!」

 琴音の槍がオーガの腹を貫く。彼女の重い一撃は致命傷となり、諒の斬撃も合わせてオーガの体力を削り切る。
 オーガは最後の抵抗とばかりにわずかに左腕を持ち上げるが、それが振るわれることはなく、ふと力が抜けて同時にその体を光に変えた。

「良い連携が出来ましたわね」
「ああ、いい動きだったぞ」

 一瞬でオーガを倒し、琴音は笑顔を浮かべる。最初の頃は連携に課題があったが、それは依頼を重ねるごとに解決してきていた。
 琴音もそれを実感しているのだろう。

「さすがの実力ですね。諒さん」
「いえ、これくらいなら問題ありません」

 後ろに下がって3人の戦いぶりを見ていた大我も諒の期待以上の実力が見られたのか称賛の声を上げる。
 後ろの孝希も感心したように何度も頷いていた。この戦いで多少5人の士気が上がったようだ。表情も和らぎ再び野営地を探して歩を進めることにした。

ガサ・・・ガサッ

 しかし、そう思った矢先、さっきオーガが現れた茂みが動いた。
 また何か出たのだろうか。琴音はとっさに諒の前に立ち、茂みに向かって槍を構える。
 どうやらまっすぐこちらに向かっているようだ。誰も無駄口をたたかず、息苦しい緊張が5人を包む中その音の正体が姿を現した。

「やっと見つけたよ・・・て、お前諒じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」
「・・・相変わらずだな、恭介」

 諒は琴音に槍を下げさせ素っ気なく返す。
 間違いなく加賀美恭介だ。最後に会ったのはいつだったか忘れたが、確かその時は東軍でかなり上の地位についていたはずだ。
 今回の依頼で指揮を執っていると莉彩から聞いていたが、どうやら本当だったらしい。諒の顔を見た恭介は嬉しそうに右手を上げると彼の肩を強めに叩く。

「そうか、助っ人に来た冒険者ってお前か・・・で、この二人は?迷子か?」
「俺のメンバーだ。あまり失礼なことを言うのはやめてもらおうか」
「・・・そうか、そうなのか?」
「伊吹琴音ですわ。間違いなく諒様を支えるパーティーの一員です。以後お見知りおきを」
「・・・氷川、れんです」
「・・・伊吹?」

 二人の自己紹介を聞いた恭介も大我同様琴音の名前に首を傾げた。
 彼は貴族とのかかわりはあまりないはずだが、彼女のことは知っていた。何せ諒と知り合ったきっかけである依頼こそが琴音の救助依頼だったのだから。そんな少女が今諒と一緒にいるとなればそりゃあそんな反応になるだろう。
 恭介は少しの間うなっていたが最終的に詳しいことを聞くのはやめたようだ。彼も「よろしくな」と軽く自己紹介を返し、3人の後ろにいた大我達に目を向ける。

「大我さんも来てくれたんですね。親衛隊が力を貸してくれるなんてありがたい限りです」
「そんな挨拶は後でいい。僕たちの迎えに来たんだろう?取り敢えず野営地に案内してもらえるか?」
「ええ、わかりました。諒達も付いてきてくれ、現状とこれからの作戦を考える」
「わかった」

 大我達とはすぐに挨拶が済み、恭介と共に6人は村民が避難している野営地へと向かった。
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