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第二十九話 龍巫子
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「全員揃ったようだな」
れんは数日眠っていたが体に異常があったわけではないようだ。すぐに退院し、元通りの生活に戻れていた。
そのためギルドからの招集も予定より早く受けた。琴音とれんと合流し、ギルド奥の部屋に入るとそこには修平の他に寛太の姿があった。
「なんでお前がいるんだよ」
「そりゃひどいな。今回の話で僕の力が役に立つって修平さんから言われてね。それで僕も加わることにしたんだ」
「ああ、寛太君の知識は学者界の中でもトップだからな。何か知見が欲しい時これほど頼りになる男もそういない」
今回の話題をみて修平は寛太の力を借りることを決めたようだ。
れんと琴音は寛太と面識がないため不思議そうな視線を彼に送っていたが諒は納得して頷く。
「お二人は初めましてだね。僕は高辻寛太。諒とは昔からの友達で学者をやってる」
「伊吹琴音ですわ。よろしくお願いします」
「氷川れんです」
初対面の挨拶も軽く済み、改めて五人はテーブルを囲んだ。
わざわざ寛太まで出てきた話題というのはもちろんれんの力についてだ。琴音の話では冷気を操っていたと言っているが、簡単に受け入れられるものではない。
もし人の身で自然エネルギーを扱えるのなら、これまで培ってきた文明を崩しかねないような発見にさえなるだろう。れんに起きたことはそれくらい重大なことなのだ。
諒と修平にとって今回の話題に関心は高い。まずは知見を聞くべく寛太に進行を任せた。
「じゃあ早速本題に入ろうか。ただ、僕から話をする前にれんちゃんと琴音ちゃんに聞いておきたいことがあるんだ」
「ええ、構いませんわ」
れんも琴音に続いて静かに頷く。
どうやら既に寛太は何らかの結論を持ってきているらしかった。
それを確かめると言わんばかりに力を発現したれんと、それを実際に目にした琴音にいくつか質問をぶつける。
「れんちゃんは自分の使った力について何か知っているかい?」
「・・・いえ、私は何も」
「そっか、ありがとう。じゃあ琴音ちゃんはその力を見たわけだけど、どんなふうに力を使ってたの?」
「どんなふうにと言われましても・・・氷川さんから冷気があふれ出してきてそれを操っているようだった・・・としか言いようがありません」
「なるほど、ちなみに、力を使っている時れんちゃんの様子はどうだった?」
「確かに違和感があったと言えばそうですわ。相手のことしか見えていないといった様子でしたし、雰囲気も少し違っているようでした。まるで自分の意思で体を動かしていないように見えましたわ」
「それだけ聞ければ十分だよ、ありがとう。最後にれんちゃん、君は今ここでその力を使えるかい?」
寛太の言葉で全員がれんに視線を注いだ。
確かにそれはそうだ。実際に見ればさらにわかることもあるだろう。実際に見たのは琴音しかいない現状、その可否は重要だ。
れんは全員の視線に困惑していたが、気まずそうに首を横に振った。
「ごめんなさい。それもわからないんです。なんで使えたのか、どうやって使ったのか、何も・・・」
「・・・そっか。そんなに気にしないで。そのために僕がここに来てるんだからね」
口調に反して本当に残念そうだったが、そこにはこれ以上踏み込みはしないようだ。
質問も終わったようで、一度口を閉じると考えをまとめるため持ってきていた資料のいくつかも取り出して目を通す。
「で、何かわかったことがあるのか?」
「うん、あるよ」
あまりに長い時間考え込むので思わず諒は口を挟んだ。少し心配だったが意外にも寛太の反応は簡潔で早かった。
「考古学の範囲だからみんなが知らないのも無理はないかな」
「考古学って、じゃあ歴史には何か答えがあるのか?」
「うん、結論から言うと、れんちゃんが使った力は自然エネルギーと見て間違いない」
「自然エネルギーって、そんなのを使える人間なんて聞いたことがないぞ。本当にそうなのか?」
当初の予想通り確かに自然エネルギーが関わっているらしい。
だが、それは一番最初に思いつくものでありながらも信じられないものだ。
思わず聞き返すが、寛太は自信を持ってその結論に行きついているようだった。
「れんちゃんが入院していた時、容態を検査するため少し血を採ったそうなんだ。それをお願いしてもう少し調べてもらったんだよ」
「血って、それが一体なんの関係が」
「れんちゃんの血には竜族のものが混ざってる。本当に微量にだけどね」
「・・・!?」
「氷川さんに?」
あまりに突拍子のない、それでいて衝撃的な発言に部屋が静まりかえった。
諒はれんに視線を向けるが、彼女もそれは知らなかったのか驚きで完全に固まってしまっていた。
寛太はその検査結果を修平に見せる。それを見た彼も信じがたそうにうなっていたが小さく頷く。
「確かにれんの血には微量に人間のものではないものが混ざっている。それが何かは完全に特定は出来ないが、竜のそれにかなり近いという結果が出ている」
修平も頷いたことでその事実を信じざるを得ないこととなってしまった。れんの様子も気になるが、寛太は今は構わず話を進める。
「今でこそ非常に珍しいけど、昔は居たんだ。竜と人間の混血、竜人っていう種族がね。れんちゃんはその末裔みたいなものかな」
「竜人か。確かに今そんな奴がいるなんて話は聞かないな。それで、れんの力と竜人が関係していると?」
修平の言葉に寛太は小さく首を振る。
「少し違います。竜と血が混ざっていても主になっているのは人間です。だから自然エネルギーも竜気さえも持っていない。実際には人間とはほとんど変わりません。でも、そんな人たちの中に自然エネルギーを扱える才能を開花させた人がいたと伝えられています。その人達のことを『龍巫子』と呼んだそうです」
龍巫子、それが寛太の出した結論らしい。過去に存在していた自然エネルギーを扱う存在。なぜそれが今まで世界に居なかったのか、そしてなぜこのタイミングで姿を現したのか。寛太も同じ考えらしい。諒の視線を受け取ると頷いて言葉を続ける。
「龍巫子の才能は先天的なものだ。でも、力は後天的なものだったんだそうだ」
「それってどういうことですの?」
「詳しくはわからないんだけど、才能を見出された竜人は祭壇で『資格』を証明する必要があるらしいんだ。そうすることで龍巫子の力が覚醒する、らしい」
「・・・てことは、れんが今力を使えないのはその資格を証明していないからってことか?」
「さすが諒、それが僕の出している結論だ。その祭壇さえ見つかれば、僕の考えが正しかったことが証明できるものだけど、それはまだ見つかってない」
「ああ、ギルドでも寛太に依頼されて調べているが、それに関してはさっぱりだ」
わかったようで、ほとんど何もわかっていない。ただ、一つだけ確定したものもある。
「れん、大丈夫か?」
「・・・はい・・」
れんは諒の言葉に反応こそするが完全に上の空だった。彼女には竜の血が流れている。それは今間違いない事実だ。
もちろんそれが分かったとしても今の諒達の関係に変化はない。寛太もさっき「普通の人間と変わらない」と言っていた。
だが、その事実を突きつけられて彼女はどう向き合うのだろうか。それは諒達にはわからなかった。
「祭壇とやらはギルドの方で調査を進める予定だ。お前達は普段通り好きなようにやっていてくれ。何かあればまた知らせる」
「わかりました。行くぞ、琴音、れん」
「わかりましたわ」
「・・・はい」
ギルドと寛太に後のことは任せて部屋を出た。もし今日の話が全て真実だとすれば、一体世界はれんに何を求めているのだろうか。
おそらく数十年、数百年の間姿を消していたそれは突然覚醒し、そして彼女を選んだ。
それは偶然か必然か。しかしこの疑問に答えられる者は誰もいなかった。
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れんと琴音は寛太と面識がないため不思議そうな視線を彼に送っていたが諒は納得して頷く。
「お二人は初めましてだね。僕は高辻寛太。諒とは昔からの友達で学者をやってる」
「伊吹琴音ですわ。よろしくお願いします」
「氷川れんです」
初対面の挨拶も軽く済み、改めて五人はテーブルを囲んだ。
わざわざ寛太まで出てきた話題というのはもちろんれんの力についてだ。琴音の話では冷気を操っていたと言っているが、簡単に受け入れられるものではない。
もし人の身で自然エネルギーを扱えるのなら、これまで培ってきた文明を崩しかねないような発見にさえなるだろう。れんに起きたことはそれくらい重大なことなのだ。
諒と修平にとって今回の話題に関心は高い。まずは知見を聞くべく寛太に進行を任せた。
「じゃあ早速本題に入ろうか。ただ、僕から話をする前にれんちゃんと琴音ちゃんに聞いておきたいことがあるんだ」
「ええ、構いませんわ」
れんも琴音に続いて静かに頷く。
どうやら既に寛太は何らかの結論を持ってきているらしかった。
それを確かめると言わんばかりに力を発現したれんと、それを実際に目にした琴音にいくつか質問をぶつける。
「れんちゃんは自分の使った力について何か知っているかい?」
「・・・いえ、私は何も」
「そっか、ありがとう。じゃあ琴音ちゃんはその力を見たわけだけど、どんなふうに力を使ってたの?」
「どんなふうにと言われましても・・・氷川さんから冷気があふれ出してきてそれを操っているようだった・・・としか言いようがありません」
「なるほど、ちなみに、力を使っている時れんちゃんの様子はどうだった?」
「確かに違和感があったと言えばそうですわ。相手のことしか見えていないといった様子でしたし、雰囲気も少し違っているようでした。まるで自分の意思で体を動かしていないように見えましたわ」
「それだけ聞ければ十分だよ、ありがとう。最後にれんちゃん、君は今ここでその力を使えるかい?」
寛太の言葉で全員がれんに視線を注いだ。
確かにそれはそうだ。実際に見ればさらにわかることもあるだろう。実際に見たのは琴音しかいない現状、その可否は重要だ。
れんは全員の視線に困惑していたが、気まずそうに首を横に振った。
「ごめんなさい。それもわからないんです。なんで使えたのか、どうやって使ったのか、何も・・・」
「・・・そっか。そんなに気にしないで。そのために僕がここに来てるんだからね」
口調に反して本当に残念そうだったが、そこにはこれ以上踏み込みはしないようだ。
質問も終わったようで、一度口を閉じると考えをまとめるため持ってきていた資料のいくつかも取り出して目を通す。
「で、何かわかったことがあるのか?」
「うん、あるよ」
あまりに長い時間考え込むので思わず諒は口を挟んだ。少し心配だったが意外にも寛太の反応は簡潔で早かった。
「考古学の範囲だからみんなが知らないのも無理はないかな」
「考古学って、じゃあ歴史には何か答えがあるのか?」
「うん、結論から言うと、れんちゃんが使った力は自然エネルギーと見て間違いない」
「自然エネルギーって、そんなのを使える人間なんて聞いたことがないぞ。本当にそうなのか?」
当初の予想通り確かに自然エネルギーが関わっているらしい。
だが、それは一番最初に思いつくものでありながらも信じられないものだ。
思わず聞き返すが、寛太は自信を持ってその結論に行きついているようだった。
「れんちゃんが入院していた時、容態を検査するため少し血を採ったそうなんだ。それをお願いしてもう少し調べてもらったんだよ」
「血って、それが一体なんの関係が」
「れんちゃんの血には竜族のものが混ざってる。本当に微量にだけどね」
「・・・!?」
「氷川さんに?」
あまりに突拍子のない、それでいて衝撃的な発言に部屋が静まりかえった。
諒はれんに視線を向けるが、彼女もそれは知らなかったのか驚きで完全に固まってしまっていた。
寛太はその検査結果を修平に見せる。それを見た彼も信じがたそうにうなっていたが小さく頷く。
「確かにれんの血には微量に人間のものではないものが混ざっている。それが何かは完全に特定は出来ないが、竜のそれにかなり近いという結果が出ている」
修平も頷いたことでその事実を信じざるを得ないこととなってしまった。れんの様子も気になるが、寛太は今は構わず話を進める。
「今でこそ非常に珍しいけど、昔は居たんだ。竜と人間の混血、竜人っていう種族がね。れんちゃんはその末裔みたいなものかな」
「竜人か。確かに今そんな奴がいるなんて話は聞かないな。それで、れんの力と竜人が関係していると?」
修平の言葉に寛太は小さく首を振る。
「少し違います。竜と血が混ざっていても主になっているのは人間です。だから自然エネルギーも竜気さえも持っていない。実際には人間とはほとんど変わりません。でも、そんな人たちの中に自然エネルギーを扱える才能を開花させた人がいたと伝えられています。その人達のことを『龍巫子』と呼んだそうです」
龍巫子、それが寛太の出した結論らしい。過去に存在していた自然エネルギーを扱う存在。なぜそれが今まで世界に居なかったのか、そしてなぜこのタイミングで姿を現したのか。寛太も同じ考えらしい。諒の視線を受け取ると頷いて言葉を続ける。
「龍巫子の才能は先天的なものだ。でも、力は後天的なものだったんだそうだ」
「それってどういうことですの?」
「詳しくはわからないんだけど、才能を見出された竜人は祭壇で『資格』を証明する必要があるらしいんだ。そうすることで龍巫子の力が覚醒する、らしい」
「・・・てことは、れんが今力を使えないのはその資格を証明していないからってことか?」
「さすが諒、それが僕の出している結論だ。その祭壇さえ見つかれば、僕の考えが正しかったことが証明できるものだけど、それはまだ見つかってない」
「ああ、ギルドでも寛太に依頼されて調べているが、それに関してはさっぱりだ」
わかったようで、ほとんど何もわかっていない。ただ、一つだけ確定したものもある。
「れん、大丈夫か?」
「・・・はい・・」
れんは諒の言葉に反応こそするが完全に上の空だった。彼女には竜の血が流れている。それは今間違いない事実だ。
もちろんそれが分かったとしても今の諒達の関係に変化はない。寛太もさっき「普通の人間と変わらない」と言っていた。
だが、その事実を突きつけられて彼女はどう向き合うのだろうか。それは諒達にはわからなかった。
「祭壇とやらはギルドの方で調査を進める予定だ。お前達は普段通り好きなようにやっていてくれ。何かあればまた知らせる」
「わかりました。行くぞ、琴音、れん」
「わかりましたわ」
「・・・はい」
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