龍の力を持つ冒険者、理想が合わなくなったパーティーを抜けて自由に活動していきます

Corlas

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第三十一話

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れんと由衣がケーキを食べている頃、諒も外に出て散歩していた。
 天気は良いがそれに反して諒の気分は明るいものではなかった。

「竜人、か」

 竜の血を持つ人間。基本は人間らしいが、れんはそれよりも特殊だ。
 自然エネルギーを扱う特殊な才能を持って生まれた「龍巫子」、それが彼女ということになる。
 なぜれんにばかりこんな悩みばかり降りかかってくるのだろうか。
 以前も東の村の一件で悩んでいる様子だったし、心配だった。
 だが、諒の悩みはそれだけではない。

「・・・」

 諒は自分の右手を眺める。「ドラゴンダイブ」竜の力を発現し、猛竜種ですら素手で渡り合える力を得ることが出来る能力だ。
 だが、その実態はほぼ全てが謎に包まれている。こんな力を持っているのは諒以外に聞いたことがない。それゆえにこの力は隠し、その事実を知る人間も限られている。
 現状これを知るのは修平のみ。ここ数年で力を見せたのは大我くらいだ。猛竜との戦闘に乱入したれんは少し微妙だが、反応からして見てはいないだろう。
 寛太の話を聞いたとき、諒の力も竜人によるものだろうと思った。
 しかしそうではないようだった。彼の話では「竜人は竜気や自然エネルギーを持っているわけではない」と言っていた。
 自然エネルギーを扱える龍巫子でさえ力そのものは先天的に持っているわけではないのである。
 だとしたら、諒の力は竜人によるものではない可能性もある。
 寛太はまだ諒の力は知らない。それを確認するには修平を通すしかないが、彼から何の連絡もない所を見るにおそらく外れだったのだろう。
 結局これに関しては謎に包まれたままだ。

 それを諦めたとしても、やはりれんの事は気がかりだ。
 何か声をかけた方がいいだろうが、どうすればいいのかは迷っていた。
 彼女と境遇を同じくする人間などこの世界のどこにもいない。人間でありながら人間とは違う。その事実にれんはどう向き合うのだろうか。

「ご主人、もう一杯お願いしますわ!」
「・・・ん?今の声は・・」

 ほぼ上の空で歩いていたが、突如響いた聞きなれた声で現実に引き戻された。
 周りを見てみるが、すぐにその姿は発見できなかった。聞こえたことは間違いないはずだ。少し立ち止まって探してみると、傍にある屋台から見覚えのある金髪のポニーテールが目についた。
 やはり琴音だった。声をかけようと近づいたが、その寸前で思わず立ち止まる。
 屋台はうどん屋らしいのだが、彼女の傍に積みあがった器の数が普通ではない。
 10はあるのではないだろうか。一食分はあるだろう器を丸でわんこそばのように積み上げている。

「ご主人、おかわりですわ」
「はいよ、ちょっと待ってくれな」

 そう思っている間にもさらに器の塔は高さを増していく。
 そこで諒も正気にかえって声をかけるようにした。屋台に入り、琴音の隣に座る。

「よく食べてるな、琴音」
「ぶっ!!・・りょりょ、諒様!?」
「いらっしゃい。なんだい、嬢ちゃんの知り合いかい?」
「え・・・ええ、私の大事なお方ですわ」
「おおそうかい。兄ちゃんも何か食べてくかい?」
「いや、すまないな。とりあえず何か飲み物だけでいいんだが」
「うちはこんな店だからね。茶くらいしか出せないがそれでもいいかい?」
「ああ、それで頼む」

 突然の諒の登場にせき込む琴音に水を飲ませ、諒も適当に茶を頼んだ。
 少し味も気になったが、あまりお腹は空いていない。
 茶もすぐ出され、琴音も落ち着きを取り戻したところで一息つく。

「お前、普段からこんなに食うのか?」
「ええ、食べ物は私の原動力ですから。いっぱい食べないといけませんわ」
「・・・そうか」
「嬢ちゃんには本当助かってるよ。この子が来てくれるようになったおかげで、こんな潰れかけの店も少し有名になったみたいでね。商売を続けてく元気をもらってるよ」
「そうですか。それはなによりです」

 琴音はここのうどんがよほど気に入っているらしい。
 主人の話では週に四日ほど、大体諒達が依頼を受けるときに来ているらしい。量はまちまちだが平均すると15は食べているそうだ。
 少女がこんなに食べる店があるということで注目を集めたらしいこの店は客足も増え、潰れかけていた面影を感じさせないほど繁盛しているらしい。

「招き猫みたいなものだな」
「?」
「自覚がないならそれでいい。大人の事情だからな」

 意外なところで1人のオヤジを救っていた琴音だが、自身にはその自覚はないらしい。
 諒と店主が話している間にも食べ進めていた彼女は諒の言葉に首をかしげていた。琴音はその後器の数を18に増やしたところでようやく満足した。
 幸せそうに水をすすって一息ついていた。

「それで、琴音。れんのこと、どう思う?」
「どう思うかと言われましても。私にはあの話は難しすぎますし、氷川さんに変化があったわけでもありません。別に思うことは特にありませんわ」
「気楽な奴だな。だが、それでも放っておくわけにもいかんだろう」
「私は、諒様が何かをあの人にしてあげる必要はないと思っています」

 話に付いていけないのも分かるが、それにしても琴音は冷静だった。しかし考えなしに喋っているわけではない。まだ完治には少し遠い左腕の傷を見つめる目には確かな考えがあるように感じた。
 リーダーとして何かするべきではないかという諒に対しても諭すように口を開く。

「してやる必要はないって。それでいいのか?現に今あいつは元気ないじゃないか」
「あの人はあれでいて強い人ですわ。白銀さんだって付いておりますし、心配することはありません。時間はかかるかもしれませんが、ちゃんと答えを出せますわ」

 東の村の一件を経て琴音のれんへの信頼は大きくなっているようだった。
 諒はそれ以上に彼女を心配する気持ちが強かったが、琴音は逆のようだ。
 確かに今のれんには由衣もいる。彼女はれんに元気がないと知れば放ってはおかないだろう。それでいいのかは少し不安だが、諒よりもれんの力になってくれるのはおそらく間違いなかった。
 諒も琴音の考えと由衣のことを信じてそれ以上口出ししないことにした。

「それにしても竜人か。一体れんはどうするんだろうな」
「それはわかりませんけど、意外と答えは簡単かもしれませんわよ?」
「どういうことだ?」
「何者かなんて、大した問題ではありません。私だって貴族のはしくれですし、諒様も素晴らしいお方ですが身分は普通ですわ。それでも私はあなたについて行くことを選び、それを受け入れてくださいました。それと同じです。氷川さんが、そして私達がその事実を知ってなお行動を共にする意思があるのなら、そこに血だとか身分なんて関係ありませんわ」
「・・・確かにその通りだ」

 諒もかつて似たようなことをれんに言ったことがある。
 れんと諒には確固たる繋がりがあり、それがある限り離れることなんてないと。
 だったらそれを信じ続けるだけだ。れんも、きっとそうしたいからこうして悩んでいるのだろう。

「諒様のお気持ちはきっと氷川さんにも届いています。そのまま接していれば、いずれ私たちが望んでいる言葉を本人の口から聞けますわ」
「そう信じたいな。ありがとう、琴音」
「礼には及びません。諒様のお力になるのが私の望みですから」

 琴音は諒の口からお礼が聞けたことに満足したのか上機嫌に再度水を飲んだ。
 諒も彼女に続いて茶をすする。
 もちろん心配ではある。だが不安はもうない。
 今は信じられる。れんの強さを、そして琴音や由衣を。
 その時諒はふと昔師匠に言われたことを思い出していた。

・・・

「諒、お前は俺のことを頼りにしてるか?」
「何を急に。そんなこと当たり前じゃないですか」
「そうか。だったらその感覚は絶対に忘れるんじゃないぞ」
「・・・?」
「パーティーを率いる者は、頼る者から頼られる側に移ることじゃない。むしろもっと頼る側にまわることなんだ」
「もっと頼るって、リーダーがそれでいいんですか?」
「ああ。頼りにするのは信頼の表れだ。リーダーは仕事が増える。当然できないことや向いていないことは山のように降りかかってくる。それを誰にも頼らず1人でもくもくやることがリーダーの素質か?」
「それは・・・わかりません」
「違う。断言していい。頼って頼られて、そうやってパーティーは成長していくんだ。お前の信頼を笑顔で受け入れてくれる、そしてメンバーの信頼を受け止める、それがリーダーの素質だ。だから諒、もしお前が誰かを引っ張ることになったら、たくさん頼ってみろ。そいつがその時笑顔を返してくれたら、お前にもその素質はあるってことだ」

・・・

「諒様?どうかされたんですか?」
「・・・ん?・・ああいや、なんでもない」
「そうですか?何か上の空のようでしたが」
「本当に大丈夫だ。改めていい仲間を持ったと感動してただけだ」
「・・・?」

 いきなりの言葉に琴音は首をかしげる。
 思い出から戻った諒は席を立って彼女も出るよう促す。
 琴音は尚も困惑している様子だが、小さく頷くと勘定を払って二人で店を出た。

「せっかくだから少し散歩するか?」
「ぜひお願いしますわ。諒様と行ってみたい場所はたくさんありますもの」

 偶然とは言え会ったついでに街を見て回ることにした。
 諒の提案に琴音は飛び上がるように喜び彼の手を握った。
 確かに彼女が諒の元に来てからは何かと忙しくて中々こうした時間もなかった。

「そんなにはしゃがなくてもいいだろ。それで、どこに行くんだ?」
「そうですわね・・・でしたら」
「あ、琴音さんだ!それに諒さんも」
「・・・由衣じゃないか。それにれんも」

 候補はたくさんあったのか、目的地に迷う琴音はしばらく考えた後口を開くが、その言葉は後ろから聞こえた由衣の言葉にかき消されてしまった。

「・・・あら、ごきげんよう。氷川さん、白銀さん」
「こんにちは。琴音さん、諒さん」

 言葉を消されて琴音は複雑そうな表情だったが咳払い1つで表情を戻すと二人に挨拶した。
 意外にもれんも由衣も元気そうだった。てっきりまだ悩んでいるものと思っていたが、今目の前にいる彼女からそんな気配は全く感じなかった。
 諒と琴音は顔を見合わせて二人して首を傾げたあと、おそるおそるれんに声をかける。

「れん、大丈夫か?」
「はい・・・あ、そのことで一つ相談があるんですけど」
「相談?」
「これだよ」

 れんの言葉とともに由衣が一枚の紙を諒に手渡す。
 それは依頼書だった。内容は特になんの変わりもない採取の依頼だ。

「これが一体どうしたんだ?」
「私とこれを受けてください。お願いします」
「それは・・・構わないが」

 なぜいきなりこんなことを言ってきたのだろう。
 諒と琴音はもう一度顔をあわせて首を傾げた。
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