龍の力を持つ冒険者、理想が合わなくなったパーティーを抜けて自由に活動していきます

Corlas

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第三十三話 裏側

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「大我が東の森に?」
「はい、諒さんや琴音ちゃんにも確認したので間違いないです」

 ギルドではれんの力について調査を進めていた。
 その中で彼女が力に覚醒するきっかけとなった東の村の一件を見直していた時、修平は気になるところを見つけた。
 元々この件の依頼主は解決に当たって指揮を執っていた恭介だ。中央部からギルドに諒が名指しで指名はされはしたものの、それは恭介と諒の関係を騎士団が把握しているからだと思っていた。
 それがまさか大我直々の願いだったとは予想外だった。
 親衛隊は騎士団の重大な任務を遂行する組織だ。今回は大規模なものだったとはいえ、さすがに親衛隊長を含む団員二人を向かわせるとは考えにくい。
 規模で言えばギルドを上回る騎士団が「手が足りない」なんてこともないだろう。

「大我はいまどこに?」
「そこまでは把握していませんが、恭介さんの話では彼の代わりに本件の指揮を執っているそうです」
「ということは、まだあいつは帰っていないということか」

 東の森の鎮静化に関する依頼はまだギルドでも出ている。村の復興もまだ手を付けられていないとギルドにも報告が届いている。
 それまで村民を東都で抱えているためにも指揮者は不可欠だ。
 これは偶然だろうか。騎士団の目的は他にあったのではないかと思わずにいられない。
 直感的に修平はそう感じていた。

「この件に関して騎士団の動向を調査してくれ。それと、恭介にこれを届けてくれ」
「手紙ですか?」
「ああ、中身はあいつだけに知らせろ。莉彩も見るな」
「わかりました。調査の件も一緒に進めておきます」
「ああ、頼んだぞ」

 修平から封筒と任務を受け取り莉彩は部屋から出ていった。

「・・・嫌な予感がするな。この件にあいつが関わっているとすれば、もしかすると事態は深刻なものになる可能性が高い」

 視界の奥にかすかに見える騎士団の本部の建物を見ながら、修平は1人危機感を募らせていた。

・・・・

「大我さんからの報告は以上です」
「そうか、ご苦労だったな。こちらからも伝言を伝える。少し待っていたまえ」

 大我と共に東の村の件の指揮を執っていた孝希は彼に伝言を任されて一度央都に帰還していた。
 騎士団上層部会議室。騎士団の幹部のみが入室を許され、活動方針から機密任務までほぼ全ての決定がここで行われる。
 孝希の報告を聞き終わると正面に座っていた男は周囲の人間にも指示を送るとテーブルに並べられた資料に目を通し始めた。

「あの森には祭壇があるという情報はつかんでいる。本当にすべて探したのか?」
「僕は関与していませんが、大我さんからは調査は不発だったと聞いています」
「そうか、まあいい。それと、なぜ氷の力についての報告がなかったんだ?」
「氷の力?何のことですか?」
「・・・まあいい」

 孝希は任務開始からずっと村民の避難誘導に当たっていた。
 そのためあの森で起きた戦いについてはほとんど把握していなかった。
 当然れんの力も同様だ。大我からも聞かされていなかったため彼にとってそれは初耳だった。孝希の反応に男は大きなため息をついて再び資料に目をやる。

「こちらからの伝言だ。『九条大我は黒沢孝希に任を託して至急央都に帰還。氷川れんを連れて再度報告に来い』以上だ」
「氷川れんを?あの子が一体なんだというのですか?」
「君には関係ないことだ」
「ですが、ギルドの人間なのですよ?それにあの子は・・・」
「だからこそいいのではないか。君に意見する権利は無い。いいからもう行け」
「・・・失礼します」

 部屋を出て扉を閉めた後、孝希はしばらく動く気になれなかった。
 大我から聞かされていない事実、そして上層部の言動の端々から感じる陰謀めいた態度。元々この任務を大我から伝えられた時から違和感があった。孝希は親衛隊に入ってまだ日は浅いが、それでもそれなりの数の任務をこなしていた。
 その中に今回のような任務は存在しない。こういったものは親衛隊ではなく中央部隊の仕事だからだ。
 その違和感が大きくなっていた。この伝言を本当にそのまま大我に伝えて良いのだろうか。孝希の仕事はそれが正解だ。しかし、彼の中の違和感がそれを躊躇わせてしまっていた。

・・・

「・・・あいつにあんなこと言ったが、後悔してるのは俺も同じだな」

 明美との話から一夜、諒はどうにももやもやして家を出て散歩していた。
 何度考えても答えは変わらない。諒は士から逃げた。高ランクになってからの変化を諒は受け入れることも止めることもできなかった。
 その結果あんな反抗じみたことを繰り返して最後には脱退した。
 そんな結末に後悔が生まれないはずはない。だが、だからこそ明美には同じ思いをしてほしくない。
 それに、彼女や他のメンバーには諒には無い強さがある。きっと再び元の士とパーティーの関係を取り戻すことが出来るだろう。
 その時諒はどうなるだろうか。きっと士は頭を下げるだろう。
 考えなくてもわかる。彼はそういう人間だ。そう確信しているからこそ、諒は余計に複雑だった。

「お~、諒じゃないか。どうしたそんな辛気臭い顔して」
「・・・恭介か。お前もう出歩いていいのか?」
「おかげ様でな。まだ様子を見る必要はあるが、騎士団の仕事に戻っていいとも言われた」
「そうか、よかったな」

 考える程に沈みそうになる心をふと恭介の声が引っ張り上げた。
 彼の方を見ると、もう全身ぐるぐる巻きだった包帯も取れて比較的元気そうな表情を諒に見せた。中々末恐ろしい回復力だ。

「それで、治ったならもう東都に戻るのか?」
「ああいや、実はこっちで任務を受けてな。それが落ち着くまでは滞在することになったんだ」
「そうなのか。お前に任務なんて騎士団は人が足らないのか?」
「・・・まあそういうことらしいな。まあ俺としてはここに滞在できるのは嬉しいことだし、別に構わないさ」

 諒の言葉に恭介は不自然に言葉に詰まった。
 恭介は実力も十分で所属の東部隊でもかなりの地位にいる男だが、それでも彼以上の人材は中央にたくさんいるだろう。それこそ親衛隊だっているのだから。
 そんな状態で恭介が任務を受けるのは部外者の諒でも少し違和感があったが、別にそこまで気になるものでもなかった。それに深く言及するつもりはなかったが、なぜ恭介の方が言葉をつけ足した。

「なあ諒、れんちゃんの力のこと、どう思う?」
「れんの力?どう思うかと言われてもな。何もわからんし、あいつ本人も受け入れる覚悟は出来てる。ギルドが調査もしてくれてるし、俺が思うことは特にないが」
「そうか、・・・・そうか」
「何だよ。何かあるのか?」
「・・・なんでもない。話したくなったら話すよ」
「変な奴だな。まあそれで構わないが」
「ああ、それじゃあ邪魔したな。あんまり変なことして騎士団に目をつけられないようにな」

 恭介はそう残すとギルドの本部とは逆方向に歩いて行った。
 一体なんだったんだろう。どうにも少し様子がおかしかった。もう人込みに紛れて恭介の姿は見えない。
 彼に任務のことを無理やりにでも聞きださなかったのを諒は少し後悔した。
 明美や士の件ではない。別の胸騒ぎがかすかに諒の身体を震わせていた。
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