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ドレスは戦闘服①

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 引越し先は太一が勧めてくれただけあって、日当たりは良好だった。
 おまけに角部屋、知花の大学も大型の商業施設も徒歩圏内という、好条件が揃い踏みだ。

 以前より広くなったリビングに、不釣り合いな小さなテーブルを囲い、知花達は二度目の会議を開いていた。
 テーブルの真ん中に置かれたものは帯付きの一万円札。それも三束である。

「ヒューズさん…この大金は一体何処から?」
「持ってきた金の一部を換金した。引越し直後は何かと入用だろう?使って頂きたい」
「…一部でこの額…!!」

 引っ越し費用を負担してくれていたから、それなりに換金したのだろうとは予想してはいたが、札束の威力に知花は思わず唾を飲み込んだ。

「とりあえず、早急に必要なのはカーテンかしら?」

 今日も天使のような美しさを纏うソフィアは、優雅に食後のお茶を啜っていた。

「そうだね…あとはダイニングテーブルと、お二人の着替えも見繕いたいかな…」

 日本からの転移者が多いというだけあって、彼等もやって来る時にこちらでも着れそうな服を持参してくれてはいたが、やはりそれでも限りがある。

「まぁ!日本の服が見に行けるのね!普段から女の子もお洒落でスラックスを履くと聞いてたの。スカートの丈も色々あるのでしょう?楽しみだわ!!」

 雪のように白い頬をバラ色に染めながら目を輝かせるソフィアに、異世界の女の子との共通の話題が見つかった嬉しさに知花も笑みを溢す。

「そうだ!ヒューズさんの服も見たいから、駅前の百貨店に行こう!そこなら同じ年代のメンズ服もありますよ」
「…いえ。自分のは…」
「買いに行くって言ったら行くんです」

 いつもの如く遠慮しようとしたヒューズだったが、知花の満面の笑みの圧力により、口を一文字に結びそれ以上、言葉にするのを諦めた。
 その様子に知花は得意気だ。
 出会って間もないが、何となく彼の扱い方のコツが掴めてきたと思う。

「凄いわ知花…!お兄様ですら、ヒューズを簡単に黙らせることが出来ないのに…!」

 知花は意外な形でソフィアの尊敬を得ることとなった。

 ***

「着方はこれで合っているのかしら?」

 ゆっくりと開いた扉から現れたソフィアは、ライトブラウンのレースワンピースを纏っていた。

「可愛い!!すっごい似合ってるよ!!ソフィアちゃん!!」

 知花が褒めそやすと、ソフィアは満更でもない様子で、その場でくるりと回って見せた。
 ヒューズのリクエストにより、スカート丈は長めではあるものの、デザインはふんわりと甘く、重ねられたレースが肌を透かし、ソフィアの上品さをより強くしていた。

(これはヒューズさんも合格をくれそう!!買いだ…!!)

 知花は早速、心の購入リストへとメモをする。

「この世界の服はとっても軽くて良いわね。型から豊富だし、レースも均一で本当に綺麗だわ!」

「気に入って貰えて良かった!!ソフィアちゃん、普段もずっとドレスなんでしょう?でも、正直…今まで着ている物とは値段が全然違うんだけど…良いのかな?」

 今、知花達が訪れている店は、駅前の一等地にある百貨店だ。
 知花は近くに展示された、試着したワンピースの色違いの値札を捲った。
 そこに記された値段は約三万円と、一五歳の女の子が着るのにはお高めではあるが、普段ソフィアが着ているドレスには、桁が二つ位足りていないであろう。

(けど、これ以上高い店には、私も滅多に行かないしなぁ…ハイブランドのお店に入ったら、絶対、冷やかしに来たって思われるだろうし…)

 呻りながら店のチョイスを悩んでいると、ソフィアがそっとワンピースに触れ呟いた。

「…ううん。これがいいわ。知花が可愛いって言ってくれたし。…それに」

「私にとって、ドレスは、戦闘服だから」

 そう呟いたソフィアは、何処か物憂げだった。
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