My heart in your hand.

津秋

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one.

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長椅子と無骨なテーブルのセットは、コの字型に並べられた複数の作業デスクの中央にあった。
俺はその長椅子の横、少し離れた場所に立ったまま、向かいの椅子に座った男が深々と溜息をつくのを眺めていた。色の薄い茶色の髪と白い肌をした長身。この男が誰なのか俺は知らなかった。が、ここは風紀室で彼は委員長と呼ばれていたので要するに、何の捻りもなく風紀委員長なのだろう。幼児でも導き出せる答えだ。

場所が悪かったのか、あのあと風紀委員だと言う人が飛び込んできて、俺達は全員風紀室とやらに強制連行されたのだ。まあもう決着はついていたところだったからいい。見咎められたというには遅かった方かもしれない。

「入学早々に暴力沙汰か。……外部生」
居心地悪そうに長椅子に座る三人の少し後ろでしれっと立っている俺を見上げて、委員長が言う。
確かにこいつらの怪我の方が目立つだろうけれど、それだけで俺が悪い方向か?

「俺が外部生ってことが、このことに何か関係があるのか。自分だけじゃなく友人のことまで汚ない言葉で貶められて、殴られても、黙って大人しくしてろって?」
殴り返したことを咎められても俺は悪いなんて思う気はない。理由があっても暴力はいけないなんて綺麗事だし、正論だとしてもどうでもいい。こういう輩は相手から抵抗がなければどこまでだってつけあがる。

「お前、委員長に向かって―」
「やめろ、隈井」
身を乗り出した血の気の多そうな男は、委員長の一言だけで静かになった。すぐに噛みつこうとする辺り馬鹿っぽいと思うが、躾はされているようだ、なんて意地の悪い観察をしていると隈井と呼ばれた男に鋭く睨まれた。
「何を言われた?」と問われ、彼から委員長に視線を移す。真っ直ぐにこちらを見るやけに色が薄いらしい目を見返して、口を開く。

「"ヤるために全寮制を選んだんだろう、具合がいいなら貸してくれ"」
嫌悪を込めて見下ろした三人組はこちらを見もせず俯いている。風紀の処罰が怖いなら最初から大人しくしておけ。

「薄汚い性欲まみれのてめえらと、俺たちを一緒にするな。吐き気がする」
友達と一緒にいて、なんでデキていると思われなきゃいけないんだ。なんでもそういうふうにしか見えないなんて普通に狂っている。

しんっと部屋が静まってしまった。
三人組どころかずっと様子をうかがっていた委員の何人かにも気まずげに目を逸らされる。
ああ、鬱陶しいしここにいることすら煩わしくなってきた。帰りたい。帰って岩見がとりとめなく話すのが聞きたい。岩見の新しく出来た友達に関する話は、けっこう楽しいのだ。

書類を手にした委員長が何か言おうとする。タイミングよく鳴った俺の携帯のせいで声にはならなかったが。

「―出てもいいですか」
無視してもよかったが―というかマナーとして出ないのが普通かと思ったが、ここにいることにうんざりしていたのでどうでもよくなってしまい出ることにした。おざなりに確認をとる。
戸惑うように頷かれたから、画面をタッチして通話状態にした。

沈黙と視線。

「はい」
『あ、出た。お前何してんの? 今日図書室行かねえって言ってたじゃん。』
「ああ、うん。行ってないけど。ちょっと帰り道で」
『はい? ……今どこにいんの? エス』
「風紀室」
はあああ!? と空気を震わせた声に、俺はスマホを耳から離し、静かな室内では数人がびくっと肩を跳ねさせた。

「でかい声だな」
『何があったのエス! 大丈夫? つーか何、絡まれたの? なんで?』
「俺が馬鹿に絡まれやすいのは昔からだろ。理由なんか知らねえよ」

あっさり言うと岩見は、そうだねと当惑したような声で答えた。
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