My heart in your hand.

津秋

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one.

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第一体育館は第二体育館よりずっと広い。
コート二面分より更に余分にスペースがあって、前方には校章を掲げたステージもあるので、全校集会などは基本的にこちらの体育館で行われる。頭上にはずらりと観戦席の並ぶギャラリー。

身長体重などを測る機器はそれぞれ二、三台ずつあって、視力検査の時と同じようにその前に列ができている。
後半の委員と交代をした俺と岸田は、一番人の多そうなこの体育館を後回しにして別室で行われている聴力検査と内科検診を先に済ませてきた。

正直、内科検診は別の日でもいいんじゃないかと思ったけれど、まとめてやったほうがきっと効率がいいのだろう。


最初から測定を受けていた生徒たちはもうほとんどが終わっているようで次々に教室へ帰っていく。おかげでどれもさほど待つことなく測り終えることができた。
最後に身長測定の短い列に並んでいると、少し離れた場所にいた集団の中に岩見を見つけた。向こうもすぐにこちらに気付いて、ぶんぶんと手を振られる。応えようとしたが、その前に岩見がクラスメイトらしい数人から離れて駆け寄ってきたので、俺は上げかけた手を大人しく下ろした。

「エス!」
「おお」
「お疲れー。岸田もお疲れ!」
「ん」
後ろに並んでいた岸田が頷いて短く答える。岩見は和らいだ表情のままじっと俺を見た。顔というよりは全体、姿や雰囲気を確認されたように思う。
「なに?」
「なんもなかったぽいね?」
「ああ、なんにも。岸田と校内散歩してきた」
「いい散歩だったな」
それを聞いた岩見が笑って、話題を変える。
「よかった! あ、そういえば聞いて驚けエス。俺ねー、三センチも伸びてた」
「へえ。で、何センチになった」
「それは言わん! あーエスは縮んでますように」
縮まねえよなんでだよ、と言い返す間もなく参拝でもするようにぱんぱんと柏手を打った岩見は用件は済んだとばかりに走って行ってしまった。
談笑しながら岩見を待ってやっていたらしいクラスの友人たちの下に合流するのを見ながら「なんだあれ」と呟く。

「岩見って意外とマイペースだよな」
「そうかも」
真面目な声音で感想じみたことを言う岸田にそう答える。
列が進み、俺の番になった。測定をしているのはうちのクラスを教えている生物の教師だった。ずいぶん小柄で、俺の鎖骨ぐらいまでしか背丈がない。いつも白衣姿なのだが、俺はそれが生徒に間違われるのを防ぐためではないかと考えている。効果があるのかは分からない。というのも、初めて彼を見たとき俺が実際に彼を先生の手伝いでもしている上級生かと思ったからだ。

「江角は、背が高くていいね」
「どうも」
「俺もにょきにょき伸びないかなあ」
ふふふ、と笑いながらやや伸びあがるようにして俺の身長を測った彼が突然「惜しい!」と声をあげた。
「は?」
「惜しいよ江角! あと一センチで百八十!」
「百七十九センチってことっすね」
そうだよ! と言う先生。楽しそうで何よりだなと思いつつ記録を書きこんでくれたカードを礼を述べて受け取る。

笑顔で「あと一センチ! あとちょっとだ、頑張って!」と言われた。ここまで伸びれば特に不満もないのだが。口には出さずに頷いておいた。
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