My heart in your hand.

津秋

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two.

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「まあ、当たったら当たったで」
茶を飲んでから溢したその一言は、今までの会話はなんだったのだというようなものだったけれど、岩見はあっさりと「そうですね」と頷いた。深い意味を持たない会話だと、こういうことが多い。
岩見と居るときのどこにも気を張らなくていいゆったりした感覚が好きだ。全く会話を交わさなくても同じ空間に岩見がいるとなんとなく空気が柔らかくゆっくりと流れる感じがする。岩見の側は呼吸が楽になる。
普段が息苦しいのかと言われると違うのに、こんな風に思うのは少しおかしいかもしれないが。

頭を使わず、反応を窺わず、ありのままであれるのは貴重なことだと思う。


食後に使った皿を洗っていると、岩見がカウンターに腕をのせて手元を覗き込むように身を乗り出してきた。
「エス、先にお風呂入る?」
俺は水を切ったコップを置いて少し眉を寄せる。
「ここで入ったら、帰るのが面倒になる」
それまでの経験から言って、俺は岩見の部屋で風呂に入ると確実に自室に帰る気を失くす。俺の返答に岩見はきょとんとした表情になった。

「泊まればいーじゃん」
「そろそろソファー暑くねえか。どっちの部屋もエアコンつけたりしたら、環境に悪そうだし」
「環境を気にする不良っておもろくね?」
「不良じゃねえ」
「うわっ冷た!」
濡れた手を岩見に向かって振る。上手い具合に水滴が顔に跳ねた。一瞬ぎゅっと目を瞑った岩見は「もー!」と抗議の声を上げながら、袖で顔を拭う。
俺はその様子に笑いながら水を止めた。

時計は、八時を少し過ぎたくらいをさしている。夏休みを間近に控えた時期とはいえ、外はもう暗い。カーテンの隙間から見える窓に目を向けながら思考する。
内容が帰るか泊まるか、ではなく泊まるときに寝る場所なのだから、俺の帰る気はとっくに失せている。

「ソファ暑いなら、俺の部屋で寝ればよくね?」
カウンターに頬杖をついてこちらを眺める岩見は、どこに悩むことがあるのかという口振りだ。確かにそうだった。俺はうんうんと頷いた。
「だな。じゃあ風呂、先に入る」
「着替え出しておこうか、ハニー?」
「ん」
頼んだと軽く手を上げ脱衣所に行く。
タイミングよく浴槽に湯が満ちたことを知らせる電子音が鳴った。学生寮だというのにここの風呂は狭くともユニットバスではない。
一室一室の造りが本当にマンションか何かのようだ。こういう金の使い方は有り難いが、やはり普通とは違うのだろう。

岩見が気に入っている固形入浴剤を入れる。ドアを開いたままの浴室からしゅわしゅわとそれが溶けていく音を聞きながら、服を脱ぐ。
この瞬間に寒さを感じないで済むから、夏はいい。
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