My heart in your hand.

津秋

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two.

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ちょうど昼時で、まだ食堂は混んでいるはずだった。もう少し時間をずらしますかと尋ねたら、部屋においでと返されたので、俺は何度めかの先輩の部屋を訪れていた。
委員長や副委員長なんかの役職がある人たちの部屋は、食堂の方から食事を届けてもらうことが出来るらしい。注文できるものは決まっていて、弁当のようになっているのだ。

忙しい時間帯だろうに、食事は頼んでからさほど間を空けずに届けられた。お茶を入れてきてくれた先輩にお礼を言って、「いいですね、役員特権」と続ける。先輩はにやっとして「うん、いいだろ」と応じた。

「贔屓っぽいなとは、思うけどな。気が引けてあんまり頼まないから、俺もちょっと新鮮」
「別に贔屓ってこともないでしょ。風紀は役職の人たち以外もこういう特権あって良さそうですけど」
「風紀は、って?」
「この間の球技大会の日、俺、少しだけ見回り参加したじゃないですか」
「うん」
「で、体育倉庫の方に見回りに行ったとき、中から声が聞こえて確認したら―」

食事前にする話ではないなと思い至るのと同時に、無駄にあの光景を思い出してしまった。自業自得だ。眉を寄せて途中で言葉を止めたが、それでも何を言おうとしたかを先輩は正確に察してくれたらしい。
穏やかだった表情が一瞬固まってから、苦いものを食べたようにしかめられた。

「あー……、えっと。ごめんな、ハル……」
「いえ、全然。余裕―ではないですけど、平気です」
「いや……、外部生はただでさえ免疫ないだろ、悪かった」
いつもすっと上がり気味の眉を下げて、困った顔をする。そんなふうに謝らせたかったわけではない。少し慌てて口を開いた。
「すみません、話し方下手だった。そういうことを言いたかったんじゃなくて。そんな場面に踏み込んで、やめさせなきゃいけない風紀は本当に大変だって思ったんです」
あれで俺の中では風紀委員会の負担が大きいという考えが強固になった。普通の委員も、何か優遇されてなくてはやってられないだろう。
何とかそういうことを説明すると、先輩は目を瞬いてから「そっか」と呟いた。
「確かに、そうだ。というか、そういう話だったのに俺、話ずらしちゃったな。申し訳なくてさ……」
「気にしなくていいです。キヨ先輩はなんにも悪くないから、謝らないでください」
「うん。ありがとう」

穏やかな表情に戻ったかと思うと、すぐに気遣うような窺うような目でじっと見つめられた。虹彩に緑の光が踊っている。

「ハルは、気持ち悪いって思った?」
「、え?」
ああ、相変わらず綺麗な目だなと少し見とれていた俺は、一瞬遅れで何を問われたのかを理解して、首を傾げた。
「気持ち悪いっていうか、他人のああいう場面は不快だなと思います」
考えて、率直に答える。キヨ先輩は少しきょとんとして、それから「確かに」と白い歯を見せて笑った。
笑うようなことを言っただろうか。

「食べよう。お腹空いたよな」
問い掛ける視線を向ける。彼はなんでもないというように片手を振って、割り箸をくれた。空腹なのは確かなので、俺は大人しく箸を受け取って、食事に手を合わせた。



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