My heart in your hand.

津秋

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three.

20

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時刻は十九時半。名残のように薄明るさを残していた空も、ようやく夜らしい色になった。土手に腰を落ち着ける人も更に増えたように思う。

「花火、まだかなぁ」
水風船を弾ませながら、あやめちゃんが空を仰いだ。待ち飽きたというふうではなく、期待感が高まっている様子だ。
「もうすぐだろ」
「ここからちゃんと見える?」
「と、思うけど」
兄妹の会話を聞きながら俺も空を見上げた。なんとなく明るく見える。星はほとんどなかった。
未だに暑いが、時折乾いた風が吹くのが気持ちいい。

「―あれ、清仁?」
ぼんやりしていたところに聞こえた声に、俺は首を巡らせてそちらを見た。たいして大きくもなかったその声が耳に入ったのは、多分呼ばれたのが先輩の名前だったからだと思う。
暗くて顔は見えない。ただ、立ち止まって数人がこちらを向いているのは分かる。

「キヨ先輩」
「ん?」
キヨ先輩は、呼ばれたことに気付いていなかったらしい。俺がその人たちの方を示して初めて気が付いたという顔をした。

「あ、やっぱ清仁だ」
さっきと同じ声の人が言う。確信を得た様子で、連れより早くすたすたと歩いてきた。ここは照明の光が届いているので、離れていても分かったのだろう。
比較的明るい場所に寄ってきたことでこちらからもようやく相手の姿が見えた。奇抜な柄と色のTシャツを着た短髪の男の人は大きく笑みを浮かべている。

「おお! 鷹野~?」
「え、帰ってたんだ!」
その後からわらわらと顔を見せたのも同年代くらいの男女だった。
「谷田。来てたんだな」
「うん、こいつらに誘われて」
頷いてからキヨ先輩は俺に身を寄せるようにして「ごめん、友達なんだ」と囁いた。再会の邪魔をする気はないので小さく首を振ってみせる。

「鷹野、久しぶり!」
谷田と呼ばれた人の後ろから浴衣姿の、特に目立つ女の人が顔を出す。会えて嬉しいとばかりに満面の笑みを浮かべている彼女に、先輩は「久しぶり」と穏やかに答える。意外に他人行儀な態度に見えた。
不思議に思ったが、続けて他の男の人たちと話し出した様子は親しげだ。ひょっとすると、友人なのは男側の三人だけなのかもしれない。

「ほんとに鷹野くんだ」
「わー、来てない子に自慢しよー」
後ろで女性陣が密やかに盛り上がっているのが漏れ聞こえる。
キヨ先輩は会えたことを自慢したくなるような人らしい。容貌の美醜に疎い俺でも綺麗な面立ちだという印象を受けるのだから、当然かもしれない。それに、性格も良くて文武両道。
普通の共学に通っていたら、キヨ先輩は物凄く人気者になっていたのではないだろうか。

「あやめっちー。こんばんは」
特にキヨ先輩と親しげに話していた谷田さんという人が、すぐそばにしゃがみ込んだ。
一生懸命にたこ焼きを食べていたあやめちゃんは、ぱっと顔を上げて彼とハイタッチをする。
「こんばんは、谷田くん! 」
「似合ってんね。 浴衣美人だ」
「へへー、ありがとう」

「ていうかそっちの子は? 清仁の友達? めっちゃイケメンだね」
はにかむあやめちゃんを撫でた彼がふいにこちらを見て、キヨ先輩にそう振った。にっこりと人懐っこそうな笑みを向けられる。俺は反応に困って軽く会釈した。
「ああ。学校の後輩で、仲良い子。ハル、こいつは谷田って言って、幼馴染みみたいなやつ。他の奴らも中学が一緒なんだ」
「こんばんは、谷田邦洋やたくにひろです」
「江角です」
よろしくお願いしますと言うべきか迷って、結局名前だけを言ったら妙に素っ気無くなった。
谷田さんは気にしていないようだが、何か言うべき言葉を探していると先に
「鷹野くん、花火一緒に見ない?」と女性陣から先輩に声がかかった。
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