My heart in your hand.

津秋

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three.

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日々が過ぎるのは存外に早い。特にこちらに来てからはそれが顕著に思えた。夏休みももう終盤だ。
こちらに来て、早一週間と少しが経つ。来週になったら、寮に戻る予定になっていた。

先輩の手助けもあって課題はすっかり終わっていた。期限にきちんと長期休暇の課題を提出できるようになるなんて、俺も進歩したものだ。中学のときにはそういうものを出した覚えすらないのに。

思考を飛ばしながらも俺の手は大量のタオルを機械的に畳み続けている。ゆかりさん―キヨ先輩のお姉さんに、何か手伝うことはないかと尋ねて任せてもらった単純作業だ。
畳んだタオルを重ねて出来た塔は三つ目で、まだ畳む前のものも一山残っている。こんなにたくさんのタオルを見たのは初めてだな、と呑気に考えながら角と角を合わせてなるべく綺麗に畳む。これが結構楽しかった。

「ハル。もう終わりそう?」
「あ、はい。もうすぐです」

シーツの片付けに行っていた先輩が、開いた襖の向こうからひょいと顔を覗かせた。答えると、「俺もやる」と斜向いの辺りに座って、山に手を伸ばす。先輩が畳むのは俺より早いのに、ちゃんと綺麗だ。二人でやるからみるみるタオルは残り少なくなっていった。

交互にタオルを重ねて二人で四つ目の山を作りながら、先輩がふと口を開く。
「あまり気を遣わなくていいんだぞ。掃除の手伝いだって、元々お願いする予定だったものより多くしてもらってるのに」
気を遣っているというか、手が空いているなら忙しい人を手伝いたいと思うだけだ。キヨ先輩もこまごまと何かしているのに、自分だけのんびり過ごせたって楽しくない。そんなのは嫌だからやってるだけ。

顔を上げて、そういうことを言おうとした。だが、その前に軽く頭に乗せられた手に驚いて、言おうとした言葉は靄みたいに消えてしまった。

「―って言いたいけど。一緒にいる俺が動いてるのに休んでられるような男じゃないよな、ハルは。ハルに手伝いしなくていいって言うなら俺もじっとしてないと」
頭に乗せられた手の意図が読めずにいると、彼は柔らかく目を細めてそう言った。笑うというよりは眩しくて眇めるのに似ている。そのまま、髪をかき混ぜるようにして撫でられた。その動きで目にかかった前髪を、今度は後ろに流されて、俺はされるがままただ瞬きだけをする。

「ごめんな。でもハルのそういう、なんていうか律儀なところ、俺はすごくいいなって思ってて、だから本当は、あんまりごめんって思ってないかも」
「、……」
咄嗟に返事が出来なかった。無駄に一度開いた口は空気だけを食んでまた閉じた。
先輩は手を離して、自分の言葉で擽ったくなったみたいに笑う。

俺の行動原理は基本的に、自分が嫌だからとか許せないからとか、そんなことばかりだ。他の人に対する配慮ではなくて自己満足で動いている認識があるし、融通も効かない。面倒な性格だと一蹴されたってそれまでだ。なのに彼は、そんな俺を律儀だと表現する。
俺が率先して手伝おうとすることで先輩は申し訳無さそうにしていたのに、俺の気質を良いと思う気持ちがそれを上回ると言ってくれているのだ。

そんな風に言われたら、本当に良いものみたいだ。まるで長所みたいだ。
面倒だと自覚しているのに、このままでいて良かったと思ってしまう。

良い風に見すぎですよと否定したいような気持ちと、彼の言葉を嬉しいと感じる気持ちがごちゃごちゃになって、どちらの気持ちの方が強いのか自分でも分からなかった。
胸の中で何かが膨らんでいるみたいで、苦しい、ような気がする。

すっかり止まってしまっていた手をぎこちなく動かして最後の一枚を緩慢に畳む。それから視線だけで先輩を見上げた。
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