My heart in your hand.

津秋

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four.

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突然謝罪されるが、俺にはなんの心当たりもない。
「はい?」
「偶然、ではあるんだけど。……告白されてるの聞こえて、―というか聞いちゃった」

その言葉を受けて、聞いちゃったという言い回しがなんとなく可愛らしいなというのんきな感想が浮かんだ。だが、そんな俺の気の抜け方とは裏腹にキヨ先輩はまるで断罪待ちでもしているかのような雰囲気だ。
はっとして、何か言わなければと思う。
「そうなんですか」
咄嗟に出たのは、そんな味気ない相槌だった。なんでそんな表情をしているのかは分からないが、分からないなりにフォローらしいことを言おうとしたのだが。気持ちだけは。

先輩は、睫毛を二度上下させた。
「それだけ?」
「―それだけ、とは」
「もっと、呆れたとか失望しましたとか、最低だなとか。言わないのか?」
それだけかと問われて、やはりもっとフォローらしいことを言う場面だっただろうかと唇を引き結んだところで、先輩がそんな風に続けたから、口から力が抜けた。
ぽかんとしたまま、何故か今の俺と似たような表情をしているキヨ先輩を見つめた。

そういうことを、キヨ先輩に向かって言う人間に見えるのか? 俺が? そう思ったってことは見えるんだろうな、と自問自答してしまってちょっと落ち込む。

「あんた、俺のことなんだと思ってるんですか……」
やや力の失せた声が出た。先輩は慌てた様子で、そうじゃなくて、と首を振る。

「だって盗み聞きだろ、こういうの。ハルは……なんていうか、こそこそ何かされるの嫌いだと思って。いや、好きな人もいないだろうけど。ごめん、上手く言えない。でも違わない、よな?」
「―それはまあ、合ってますけど。でも俺、別にキヨ先輩に聞かれて困ることとかないですし。今のも聞いてたって言われても何とも思わないです。そうなんだってだけ」
答えながら、ああそれで先輩は俺が怒ると思ったから神妙な感じになっていたのかとやっと点と点が繋がった。
これが俺にとって不快なことだったら、俺は先輩が予想したようなことを言うかも―いや、言わないだろうな。そんなことするのかと驚きはしても、キヨ先輩だという理由だけで許容したと思う。
他の人がしたら腹を立てるようなことでも先輩や岩見なら気にしない。身内贔屓である自覚はある。だがまあ、そもそも、今回の場合は誰が通るか分からない場所で話しておいて聞かれたくないも何もないので、他の人に対してでも怒る範疇ではない。キヨ先輩相手なら尚更だ。


そういったことをなんとなく説明すると、先輩はほっとした顔をして、それでもまだ申し訳なさそうに、垂れた目と反対にややつり上がり気味の眉を寄せた。
「そっか……うん、でもごめん。いつもならこういうのに行き合ったら何も考えずにUターンするんだけど、告白されてるのがハルだって分かったらなんか足が止まって。―聞いてたのに、何もないふりで立ち去るとかも出来なくてさ」

くしゃっと髪を触りながら話す様子から自己嫌悪とか後悔のようなものが伝わってくる。
確かに、俺がこちらに来る前に逃げる余裕はあったのだ。それなのにあんなに困った顔をしてそのままじっとしていたのかと思うと、あまりにも生真面目で実直で、珍しい人だなと感心してしまった。胸が温かくなる。
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