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言葉で上手く言い表すことが出来なくても彼が俺にとって本当に大切な人であることは揺るぎようがなかった。
「だからなのかは知らねえけど、ショックではない、かな」
「ふうん、じゃ、なんでぼんやり君になってんの?」
「分からないから……?」
「ほお、何が?」
疑問符がついた返事に質問を重ねながら、岩見はいつも通りの顔で背凭れに片腕を乗せた。話すなら聞くよというこの姿勢が、意気込んで真面目に聞かれるよりずっと話しやすいと思う。
「俺はキヨ先輩が好きなんだけど」
「うん、そうだよね」
当然のように肯定され、俺も一つ頷いて話を進める。
「先輩は俺の―もっと特別な好意が欲しいって言ってた」
「ほう」
「けど俺は、そもそも自分が先輩のことどういう風に好きなのかよく分かってねえし。先輩が言う好意がどんなものかも、知らない」
「ふむふむ」
「今までそんなこと考えたことなかった。友情か恋愛かとか――そんな、ややこしいこと考える理由もないだろ? 好意は好意で、わざわざ定義付けして分類する必要はないと思ってたんだ、ずっと。だから―」
「なるほど」
言葉に詰まって口をつぐむと、岩見は腕組みしてうんうんと首を縦に振った。その仕草も相槌もお道化ているように見えるが、そういうつもりではないことは理解しているので黙っておく。
「つまり、もしかしたら委員長のことをそういう意味で好きかもだけど、どういうものが恋愛感情なのかが明確に分かんないから恋愛感情ですとは言えないし違うとも言えないなーってことか。で、現状どうすればそれが分かるのかも不明、考え込んでぼんやり君って感じかな?」
「……お前、すごいな?」
伝えようとはしていたが、正直自分では今ので伝わると思わなかった。考えるとは言ったが何をどうすればという困惑すらも読み取られたらしい。
そしてそういうふうにまとめられると、なんというか、自分の曖昧さや至らなさのようなものがよく分かってへこむ。事実だから受け止めるけれど。
「エスだって、俺がどういう風に考えるかたいてい分かるでしょ? それとおんなじだよ」
同じではない。俺の頭の中は今、何本もの糸が絡まり合ったかのようにぐちゃぐちゃだし、そこから俺よりも俺の言いたいことを汲み取っているのだから。
平然とした態度で、それで? と続きを促される。
「……それで。返事は、考えてからさせてもらうことにした、んだけど、お前がまとめた通りの状態だから最初から行き詰まってる。――なあ、恋愛の好きって、どういう感じだと思う?」
少しだけ温くなった紅茶を一口飲んで溜め息をつく。
「俺にそれを聞くの」
岩見は面白そうに言ってから、顎に手を当てて思案するように斜め下あたりに視線を泳がせた。
「んん、そうだなあ……。例えば、一緒に居なくてもその人のことばかり考えてるなら、それは特別な好意があるってことなんじゃない?」
その人のことばかり。今の状態がまさにそうだが、そういうことではないだろうな。普段の俺はどうだっただろうか。紅茶の鮮やかな色の水面を見つめながら考え込む。
ひょいと視界に入り込んだ指が、次の瞬間俺の眉間を突いた。
「痛い……。なんだよ」
額を押さえて軽く睨むが、岩見は頓着せずにその指を軽く振ってみせる。
「考え事は後にしようぜ! ご飯の用意を手伝っておくれ」
「―分かった」
「さっきみたいに何かしてる最中に考え込んじゃ駄目だよ。お前、注意力散漫になるんだから。危ないぞ」
しっかりと釘までさされた。確かに危ない。岩見に呼ばれていることにも気が付かなかったし、柱がどうこうという件に関しては記憶すらない。
決断が早い方である俺は、普段あまりぐるぐると悩むことがないから、自分が考え込むとそんな状態になることも知らなかった。
前にも思ったことがあるが、やはり俺よりも岩見の方が俺のことを分かっているようだ。だから俺を今途方に暮れさせている眼前の問題も、もしかすると岩見にとっては至極簡単なことなのかもしれない。
しかし核心となることを聞いてみようとは思わなかった。結論を出すのは他ならぬ俺でなくてはいけないのだ。
そうしてきっと岩見も、たとえ尋ねたとしても答えはしないだろう。
「だからなのかは知らねえけど、ショックではない、かな」
「ふうん、じゃ、なんでぼんやり君になってんの?」
「分からないから……?」
「ほお、何が?」
疑問符がついた返事に質問を重ねながら、岩見はいつも通りの顔で背凭れに片腕を乗せた。話すなら聞くよというこの姿勢が、意気込んで真面目に聞かれるよりずっと話しやすいと思う。
「俺はキヨ先輩が好きなんだけど」
「うん、そうだよね」
当然のように肯定され、俺も一つ頷いて話を進める。
「先輩は俺の―もっと特別な好意が欲しいって言ってた」
「ほう」
「けど俺は、そもそも自分が先輩のことどういう風に好きなのかよく分かってねえし。先輩が言う好意がどんなものかも、知らない」
「ふむふむ」
「今までそんなこと考えたことなかった。友情か恋愛かとか――そんな、ややこしいこと考える理由もないだろ? 好意は好意で、わざわざ定義付けして分類する必要はないと思ってたんだ、ずっと。だから―」
「なるほど」
言葉に詰まって口をつぐむと、岩見は腕組みしてうんうんと首を縦に振った。その仕草も相槌もお道化ているように見えるが、そういうつもりではないことは理解しているので黙っておく。
「つまり、もしかしたら委員長のことをそういう意味で好きかもだけど、どういうものが恋愛感情なのかが明確に分かんないから恋愛感情ですとは言えないし違うとも言えないなーってことか。で、現状どうすればそれが分かるのかも不明、考え込んでぼんやり君って感じかな?」
「……お前、すごいな?」
伝えようとはしていたが、正直自分では今ので伝わると思わなかった。考えるとは言ったが何をどうすればという困惑すらも読み取られたらしい。
そしてそういうふうにまとめられると、なんというか、自分の曖昧さや至らなさのようなものがよく分かってへこむ。事実だから受け止めるけれど。
「エスだって、俺がどういう風に考えるかたいてい分かるでしょ? それとおんなじだよ」
同じではない。俺の頭の中は今、何本もの糸が絡まり合ったかのようにぐちゃぐちゃだし、そこから俺よりも俺の言いたいことを汲み取っているのだから。
平然とした態度で、それで? と続きを促される。
「……それで。返事は、考えてからさせてもらうことにした、んだけど、お前がまとめた通りの状態だから最初から行き詰まってる。――なあ、恋愛の好きって、どういう感じだと思う?」
少しだけ温くなった紅茶を一口飲んで溜め息をつく。
「俺にそれを聞くの」
岩見は面白そうに言ってから、顎に手を当てて思案するように斜め下あたりに視線を泳がせた。
「んん、そうだなあ……。例えば、一緒に居なくてもその人のことばかり考えてるなら、それは特別な好意があるってことなんじゃない?」
その人のことばかり。今の状態がまさにそうだが、そういうことではないだろうな。普段の俺はどうだっただろうか。紅茶の鮮やかな色の水面を見つめながら考え込む。
ひょいと視界に入り込んだ指が、次の瞬間俺の眉間を突いた。
「痛い……。なんだよ」
額を押さえて軽く睨むが、岩見は頓着せずにその指を軽く振ってみせる。
「考え事は後にしようぜ! ご飯の用意を手伝っておくれ」
「―分かった」
「さっきみたいに何かしてる最中に考え込んじゃ駄目だよ。お前、注意力散漫になるんだから。危ないぞ」
しっかりと釘までさされた。確かに危ない。岩見に呼ばれていることにも気が付かなかったし、柱がどうこうという件に関しては記憶すらない。
決断が早い方である俺は、普段あまりぐるぐると悩むことがないから、自分が考え込むとそんな状態になることも知らなかった。
前にも思ったことがあるが、やはり俺よりも岩見の方が俺のことを分かっているようだ。だから俺を今途方に暮れさせている眼前の問題も、もしかすると岩見にとっては至極簡単なことなのかもしれない。
しかし核心となることを聞いてみようとは思わなかった。結論を出すのは他ならぬ俺でなくてはいけないのだ。
そうしてきっと岩見も、たとえ尋ねたとしても答えはしないだろう。
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