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第拾陸録 初依頼
しおりを挟む「暗いなぁ……まだ朝なのに」
村長に情報をもらい、僕たちは件の森に来ていた。
森の入り口を過ぎ、しばらく歩く。
森の中は、まだ朝だというのに日の光が全くと言って良いほど入ってこず、道端に生えている怪しく発光しているキノコや苔の灯りしか無く、道、周囲を青白く、不気味に照らしている。
「まさかファングウルフに跨って旅することになるとはな……なかなか予想できなかったな」
スキンさんが少し嬉しそうにファングウルフの頭を撫でている。
スキンさんほどの体躯を支えられるファングウルフが味方でいてくれたことに感謝する他ない。
流石にこれから先、徒歩は遠慮したい……。
「暗いのは魔法を使えばどうにかすることは出来るけど……どうする? 坊や」
ニーチェさんが気を利かせて灯りの確保を推奨してくれる。
「いや、でも……」
「そ、そうだぞ貴様! 何をそんなに渋る必要があるのだ!? 灯りは人類の叡智の証だ! 今すぐ明るくして、視野の確保を……! 何かでてからでは、お、お、遅いのだぞ!」
「ほら、サナちゃんもこう言ってるし……」
サナさんはファングウルフにしがみ付き、涙を浮かべている。
王国最強の剣士もとい、ウェポンマスターが、まさか霊的存在が苦手だとは到底予想できなかったが、確かに暗さが異常ではある。だが、迂闊に光源を増やしてもこちらが見つかるのに拍車をかけるだけな気もする。
「申し訳ないですけど、どこからくるかわからない状況下で、光源を増やすのはちょっと気が進まなくて……」
「貴様!! 絶対に殺す! 生きて森から出れると思うなよっ!……ひゃっ!」
「そんな格好で言われましても……」
村長の話では、森は大きさこそ大きなものだが、道はそこまで難しくなく、分岐路には看板が設置されているとのことだ。
下手に迷うことはないだろう。それにこっちにはファングウルフの嗅覚という素晴らしく頼れる力がある。
『ちょっといいか?』
「何か見つけたか?」
『いや、少し先に魔物の匂いが残ってる……もう立ち去っていると思うがどうする?旦那』
ファングウルフが何か痕跡を見つけたらしい。
「行ってみよう。ただし慎重にな?」
ファングウルフがコクリと頷く。
『慎重に進むぞ。身の危険を感じたら、即撤退だ。 いいか皆の衆」
『了解です! 頭!』
ファングウルフが足並みを揃え、同一時方向に向かっていく。
「思念会話……気持ち悪くて吐きそう……クズのくせによくこんな横暴なものに耐えられるわね。 便利は便利だけど、慣れるまで時間かかりそう……」
凛花が苦虫を噛んだような表情で文句を言っている。
「そんなに文句言うなら、わざわざ聞かなきゃいいのに……」
なんでも、この思念会話は魔族特有のモノらしく、人間に使用すると魔力酔いが起き、吐き気等をも要すらしい……僕は何もなかったが……。
現状、凛花は魔力波長を合わせてファングウルフの思念会話を聞いている(盗み聞きしてる)らしいが、これは相当な技量がいるらしい。現にこれを行えたのは凛花だけだったし……うちの妹まさかとんでもなく天才なのでは?
ファングウルフが森の中を進んでいくと、少しひらけた場所に出た。
周りの安全を確認し、一旦立ち止まる。
『う~ん……ついさっきってわけじゃなさそうだな……』
ファングウルフが辺りを見渡し少し考えている。
「そういえば、お前達ってここの森のこと知ってたりしないのか? ほら、お前達の家?って言うか根城、割と近くなかったっけ? ここ」
『申し訳ないが、この森のことはよくわからない……ここらの果実は毒が入ってて食えた物じゃない。 だからこっちの森までわざわざこないんだよ』
「なるほどな……。 ちなみに、どっちに向かったかとかはわかるのか? その、痕跡の主が」
『匂いの方向からして、この先の川……湖か? どちらにせよ、水辺の方角に向かっているな……ここからそう遠くはない』
ファングウルフの嗅覚を頼りにいくと、今度は湖に出た。
木々に囲まれ青白く照らされる湖は幻想的に見える。
「待って。 あそこ、何かいる……」
湖を見つけると、途端に僕以外の全員が臨戦体制に入った。
「え、どこ?」
正直、僕には何も見えない。
「にぃちゃん、湖の奥の方に何か影、見えるだろ? 恐らくあれが、情報にあった“人型“の影だ」
スキンさんに言われ、目を凝らすと、確かに人型らしき影が薄らと見える。
「ニーチェさん、ミラさん、サナさん、スキンさん……あたしが重力魔法で身動き出来ないようにするので、その隙にお願いします」
「わかったわ、凛花ちゃん」
緊張が走る。
「じゃあ行きます!!」
凛花の右手についている指輪が一瞬光ると、影の上に魔法陣が出現する。
影が上を見たような気がしたが凛花が続けて、
「潰れろ!!」
凛花の言葉と同時に魔法陣の直下が押しつぶされたように抉れ、他のメンバーが一斉に飛び出していく。
「あ……人間じゃん!!!!」
人型の影の目の部分が蒼く光り、こちらを見る。
「先手必勝! この一撃で!! 確実に殺す!!」
サナさんが2メートル近くあるバトルアックスを影に向かって振り下ろす。
「遅いよ~。まあそんなんじゃそもそも傷ひとつつけれないけどね!……ってか、面白い人間いるじゃん!」
サナさんの攻撃が空を切る。
「あはっ♡」
「えっ」
目の前に少女の顔がいきなり現れる。
蒼瞳に、白髪……口元には牙がチラリと見えている。
「にぃちゃん逃げ……!」
「つかまえたっ♡」
「くそっ!」
「……!」
スキンさんとミラさんが両サイドから攻撃を仕掛けるが、少女はなんら気にする素振りもなく背中についている翼で、2人の攻撃を受け止める。
「ぶっ潰す!」
凛花が空中から攻撃を仕掛けるが、攻撃は躱され、少女は僕共々宙に浮く。
先ほどまでいた場所には、砂埃が立ち込め、凛花がこちらを睨みながら詠唱をしているのが見て取れる。
少女の怪しげな笑顔の後ろに映る空には太陽がなく、赤く染まった月が浮かんでいた。
森に入ってからそんなに時間はたってないはずなのに、なんで急に夜になってんだ?!
「この人間もらって行くからね! 悪く思わないでほしいな!」
凛花は右手に紫雷を纏わせながら、こちらに急激に迫ってくる。
「その攻撃は流石に避けなきゃまずそうだね」
少女はひらりと凛花の攻撃を交わし、凛花の服を掴み地上に投げ飛ばす。
砂埃が再度立ち上り今度は凛花が空気の床を作り、めげずに上がってくる。
妹が、服が破れて、血だらけになっても助けようとしてくれてるのに、何も出来ないなんて……
「うちの兄貴を連れてくなあぁあぁぁ!」
凛花が手を伸ばしてくる。
必死に叫ぶその声に応えようと僕もその手を掴むため、手を伸ばす。
「ふ~ん……君、面白い魔法の使い方するね。 でもそれじゃだめ、ぼくには届かないよ」
凛花が足場に使っていた空気の床が消失し、そのまま地上に引っ張られていく。
「凛花!」
手を伸ばしながら落ちていく凛花の目には涙が浮かんでいた。
「じゃあね~」
そう言うと少女は僕をかかえたまま、ものすごいスピードで移動を始める。
「僕をどこへ連れていく気だ!」
「あ、バタバタされて落としちゃうと嫌だから大人しく眠っててくれる?」
少女の目が蒼から紅に変わる。
「おやすみ~」
その言葉を最後に、僕の意識は途絶えた。
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