47 / 106
見えない敵と結末
しおりを挟む
シオンがヴァイス侯爵の街を出発した頃───
ヴァイス侯爵は苛立っていた。
ここ数日前から、寄り子である派閥の貴族達から、次々に派閥脱退の書状が届けられていたからだ。
中には絶縁状も送ってくる貴族もいた。
「ふざけるなっ!我が娘が王妃なる目前なんだぞ!?」
すでに、約3千人もの武器や兵站といったものを北から輸入して倉庫に隠してある状態である。本来であれば、周りの貴族を買収して、王妃の投票を買う為の資金を、武器や物資を買う為に使ってしまっているのだ。
メイゲン伯爵にも仲介料として、少なくない資金を渡してある。派閥の貴族から集めた資金はほとんど手元にないのだ。今後、傭兵を雇う分の金が献金されれば準備は整う。
実際は、本当に叛乱するつもりはなく、こちらの戦力をみせつけて、他の王妃候補を諦めさせるのが目的だった。
今日はダメ押しに、ゼファー子爵自身が訪ねてきた。シオンと鉢合わせしないよう、1日遅れて出発していたのだ。
「貴様!正気かっ!?」
「ええ、私は至って正気ですよ。先代の時の恩義を返す為に、今まで我慢してきましたが、貴方はやり過ぎた。貴方の親類であるワルヨノー伯爵家は取り潰される事になりましたよ?」
!?
「なんだと!どういう事だ!?」
その情報は知らなかったようで、声を荒げた。
ワルヨノー伯爵家にヴァイス侯爵の妹が嫁いでいたのだ。ただし、妹はすでに病死している。父親は妻の分まで、甘やかして育てため、バカ息子になったと言う訳だ。
「理由は自分で調べて下さい。ワルヨノー伯爵家が取り潰された為に、必然的に娘との婚約も白紙となります。すでにお渡しした支度金は、全て返して頂く!」
ゼファー子爵は強気に言った。
「待て、まだ状況が掴めぬ。今すぐには無理だ!」
ヴァイス侯爵には今、手持ちの金がないのだ。
「わかりました。少しは待ちましょう。ただし、期日内には必ず返して頂きます。娘と無理矢理婚約を結ばせた時の条件に、書いてありますよね?先方が、犯罪行為を起こした場合は、支度金の全額返金及び、違約金を支払うと。これは伯爵家が返さない場合はヴァイス侯爵が代わりに連帯保証人として、支払うと記載してあります。すでに帝都にある貴族院にも提出してある書類です。逃げられませんよ」
元々、性格に難のある人物だと広く周知されていた。いくら圧力を掛けて婚約を結ばせても、いくつかの条件は飲まされたのだ。
ゼファー子爵は帰り際にダメ押しした。
「ああ、早々、貴方子飼いのダイカーン男爵も捕まりましたよ。何でも違法に女性を奴隷にして売り捌いていたとか。皇帝陛下がカンカンにお怒りで、すでに王宮騎士団も派遣されています。ヴァイス侯爵も精々お気をつけて」
!?
ゼファー子爵は振り返らずに屋敷を後にしたのだった。
慌てたヴァイス侯爵はすぐに部下を各領地へ飛ばして情報収集をしたが、全ては遅かった。
シオン令嬢と言う人物が関与している事はわかったが、すでに皇帝陛下の名の下での断罪だったと調べがついたが、それどころではなかった。
ゼファー子爵の話は全て本当の事であり、日に日に、派閥脱退の書状が多く届いたのだ。
圧力を掛けようにも、東部全域に王宮騎士団が派遣されており、自身の不正を隠すのがやっとであった。
ヴァイス侯爵は派閥の維持の為に、献金は『一時的』に凍結すると、声明文を発表し各領主の貴族に送ったが、そんな馬鹿にしている書状を、全ての領主は無視したか握り潰した。
そして、ゼファー子爵が新しく発足する派閥へ加入すると、逆に突っ返される事になった。
宰相は三分の一ぐらいしか残らないと思っていたが、それよりも多くの貴族が脱退し、ヴァイス侯爵の派閥は血縁者しか残らなかった。
そして強気で商売していた事が仇となり、急に領地で生産された物が売れなくなり、他領の商品を高く購入しなければならなくなった。
あっという間に資金繰りが悪化して、どうにも出来ない状態となった。
献金で集めた資金があれば、対策もあっただろうが、すでに物資をかき集めるのに、手持ちがなく、メイゲン伯爵に手付金を返すよう求めたが、メイゲン伯爵は突っぱねた。
どこにそんな証拠はあるのかと。
秘密裏に武器や物資の輸入などのしていた為に、売買書など、メイゲン伯爵は証拠を一切破棄しており、長年の付き合いのあるヴァイス侯爵も、危ない橋を渡っていたので、証文は破棄していた。
いくら口で言おうとも、証拠がなければ、ただの難癖になるだけだった。
メイゲン伯爵は事前に不穏な動きがあると感じ、自身も情報収集をしていた為に、ヴァイス侯爵を切ったのだった。
こうして不渡りを出したヴァイス侯爵は、どうする事もできずに、貴族籍を返却して平民と成らなければならなくなった。
実際は事件から数ヶ月経った後の話だが、ヴァイス侯爵に余裕はなく、4月時点で帝都に行くことも叶わず、4月の【妃選定の儀】が始まる前にメロン・ヴァイス侯爵令嬢は脱落したのだった。
その後、平民に落ちたヴァイス元侯爵に義理立てする者がいなくなり、今まで隠していた犯罪行為が露見し、最終的には帝都で一族揃って逮捕されたのだった。
次回から【新章】王宮編が始まります。
ヴァイス侯爵は苛立っていた。
ここ数日前から、寄り子である派閥の貴族達から、次々に派閥脱退の書状が届けられていたからだ。
中には絶縁状も送ってくる貴族もいた。
「ふざけるなっ!我が娘が王妃なる目前なんだぞ!?」
すでに、約3千人もの武器や兵站といったものを北から輸入して倉庫に隠してある状態である。本来であれば、周りの貴族を買収して、王妃の投票を買う為の資金を、武器や物資を買う為に使ってしまっているのだ。
メイゲン伯爵にも仲介料として、少なくない資金を渡してある。派閥の貴族から集めた資金はほとんど手元にないのだ。今後、傭兵を雇う分の金が献金されれば準備は整う。
実際は、本当に叛乱するつもりはなく、こちらの戦力をみせつけて、他の王妃候補を諦めさせるのが目的だった。
今日はダメ押しに、ゼファー子爵自身が訪ねてきた。シオンと鉢合わせしないよう、1日遅れて出発していたのだ。
「貴様!正気かっ!?」
「ええ、私は至って正気ですよ。先代の時の恩義を返す為に、今まで我慢してきましたが、貴方はやり過ぎた。貴方の親類であるワルヨノー伯爵家は取り潰される事になりましたよ?」
!?
「なんだと!どういう事だ!?」
その情報は知らなかったようで、声を荒げた。
ワルヨノー伯爵家にヴァイス侯爵の妹が嫁いでいたのだ。ただし、妹はすでに病死している。父親は妻の分まで、甘やかして育てため、バカ息子になったと言う訳だ。
「理由は自分で調べて下さい。ワルヨノー伯爵家が取り潰された為に、必然的に娘との婚約も白紙となります。すでにお渡しした支度金は、全て返して頂く!」
ゼファー子爵は強気に言った。
「待て、まだ状況が掴めぬ。今すぐには無理だ!」
ヴァイス侯爵には今、手持ちの金がないのだ。
「わかりました。少しは待ちましょう。ただし、期日内には必ず返して頂きます。娘と無理矢理婚約を結ばせた時の条件に、書いてありますよね?先方が、犯罪行為を起こした場合は、支度金の全額返金及び、違約金を支払うと。これは伯爵家が返さない場合はヴァイス侯爵が代わりに連帯保証人として、支払うと記載してあります。すでに帝都にある貴族院にも提出してある書類です。逃げられませんよ」
元々、性格に難のある人物だと広く周知されていた。いくら圧力を掛けて婚約を結ばせても、いくつかの条件は飲まされたのだ。
ゼファー子爵は帰り際にダメ押しした。
「ああ、早々、貴方子飼いのダイカーン男爵も捕まりましたよ。何でも違法に女性を奴隷にして売り捌いていたとか。皇帝陛下がカンカンにお怒りで、すでに王宮騎士団も派遣されています。ヴァイス侯爵も精々お気をつけて」
!?
ゼファー子爵は振り返らずに屋敷を後にしたのだった。
慌てたヴァイス侯爵はすぐに部下を各領地へ飛ばして情報収集をしたが、全ては遅かった。
シオン令嬢と言う人物が関与している事はわかったが、すでに皇帝陛下の名の下での断罪だったと調べがついたが、それどころではなかった。
ゼファー子爵の話は全て本当の事であり、日に日に、派閥脱退の書状が多く届いたのだ。
圧力を掛けようにも、東部全域に王宮騎士団が派遣されており、自身の不正を隠すのがやっとであった。
ヴァイス侯爵は派閥の維持の為に、献金は『一時的』に凍結すると、声明文を発表し各領主の貴族に送ったが、そんな馬鹿にしている書状を、全ての領主は無視したか握り潰した。
そして、ゼファー子爵が新しく発足する派閥へ加入すると、逆に突っ返される事になった。
宰相は三分の一ぐらいしか残らないと思っていたが、それよりも多くの貴族が脱退し、ヴァイス侯爵の派閥は血縁者しか残らなかった。
そして強気で商売していた事が仇となり、急に領地で生産された物が売れなくなり、他領の商品を高く購入しなければならなくなった。
あっという間に資金繰りが悪化して、どうにも出来ない状態となった。
献金で集めた資金があれば、対策もあっただろうが、すでに物資をかき集めるのに、手持ちがなく、メイゲン伯爵に手付金を返すよう求めたが、メイゲン伯爵は突っぱねた。
どこにそんな証拠はあるのかと。
秘密裏に武器や物資の輸入などのしていた為に、売買書など、メイゲン伯爵は証拠を一切破棄しており、長年の付き合いのあるヴァイス侯爵も、危ない橋を渡っていたので、証文は破棄していた。
いくら口で言おうとも、証拠がなければ、ただの難癖になるだけだった。
メイゲン伯爵は事前に不穏な動きがあると感じ、自身も情報収集をしていた為に、ヴァイス侯爵を切ったのだった。
こうして不渡りを出したヴァイス侯爵は、どうする事もできずに、貴族籍を返却して平民と成らなければならなくなった。
実際は事件から数ヶ月経った後の話だが、ヴァイス侯爵に余裕はなく、4月時点で帝都に行くことも叶わず、4月の【妃選定の儀】が始まる前にメロン・ヴァイス侯爵令嬢は脱落したのだった。
その後、平民に落ちたヴァイス元侯爵に義理立てする者がいなくなり、今まで隠していた犯罪行為が露見し、最終的には帝都で一族揃って逮捕されたのだった。
次回から【新章】王宮編が始まります。
28
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる