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第3章 竜使いであること
竜使いの街
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ルカの話によると、ここから中央区までは徒歩で十分くらいだという。
道中で買い物を済ませつつ、まっすぐに中央区を目指す。
初めて足を踏み入れた中央区という場所は、あまりにも異質な空間だった。
国の中心たる宮殿は目と鼻の先にあるのに、ここには大通りのような活気はなく、とても小ぢんまりとしていた。
だからといって別に寂れているというわけではないのだけど、とてもひっそりとしている場所だ。
(人がいない……)
ようやく泣き声が小さくなり始めたカミルを抱きながら周囲を見回し、そんな感想を心の中で呟く。
不自然なくらい、外には人がいなかった。
人口減少が懸念されていたレイミヤでも、もう少し人の姿が見られるのに。
聞いていた話では、竜使いの人口はそれなりにあったはず。
おそらくは、皆が外に出ることを避けているのだろう。
そういう推論に至り気分が沈んでしまったキリハを、さらなる異質な空間が出迎える。
それは、町の中にある公園を通りがかった時のこと。
公園には、多くの子供たちが集まっていた。
そこからは微かに笑い声も聞こえ、ようやく普通らしい光景に巡り会えたと思ったのだが、その微笑ましい光景は、一人の子供がこちらに気付いたことで霧散した。
一斉に向けられたいくつもの視線。
彼らの浮かべる表情は様々だったが、全員に共通していたのは強い拒絶と警戒だった。
「行くぞ。」
二の句も継げないキリハに、ルカは短く告げて先を進む。
カミルの家に着くと、彼の母親はひどく驚きながらも家の中へと迎えてくれた。
泣き疲れて眠ってしまったカミルをベッドに運び、その間にルカが彼女に事情を説明した。
息子が誘拐されかけたことを知った彼女は、当然ながらひどく狼狽した。
そこでルカが犯人を撮影した動画があることを伝え、それを宮殿に提出してどうにかしてもらうと力強く宣言。
理路整然としたルカの発言には説得力があって、落ち着いた彼女とやり取りをした結果、事件のことはカミル一家以外の竜使いには秘めることになった。
拝み倒す勢いで何度も頭を下げるカミルの母親に見送られ、キリハとルカはカミルの家を後にした。
何はともあれ、無事にカミルを送り届けることができてよかった。
キリハは、ほっと胸をなで下ろす。
すると、隣のルカが急にキリハの二の腕を掴んだ。
「わっ、何!?」
「次はお前だ。」
問答無用でキリハを引きずるルカは、迷いなく別の道へと入っていく。
「無茶しやがって……あまり心配させるな。」
ぽつりと零れたルカの言葉。
よもや、ルカの口からこんなことを聞く日が来るとは。
唖然としたキリハは、抵抗も忘れてルカに引きずられるがままに歩くしかなかった。
ルカが向かったのは、五階建ての病院。
受付にいる人々には構わず、ルカはエレベーターで三階を目指す。
どうやら、三階より上は入院患者のフロアらしい。
エレベーターを降りた先には、広いナースステーションがあった。
こんな所になんの用なのかと疑問に思っていたら、ルカは断りもなくナースステーションの中に入ってしまう。
「ちょっ…」
さすがにそれはまずいだろう。
驚いたキリハが声を裏返すが、キリハが抗議するよりも前に慌てた様子の看護師がすっ飛んできた。
「ル、ルカ君…っ。どうしたの、急に? というか、勝手に入っちゃだめじゃない。」
「兄さんは?」
女性の言葉をまるっきり無視して、ルカは短く訊ねる。
「えっと、奥で回診結果を見てるけど……あっ」
女性が言い終えるよりも早く、ルカは無言で彼女の隣を通り過ぎていく。
誰かが止める間もなく、ルカは奥へ続くドアを乱暴に開けた。
その中には、レントゲン写真を難しい顔で凝視する青年が一人。
彼は突然の物音に驚いて椅子から腰を浮かし、ルカの姿を見て拍子抜けしたような顔でまた椅子に座る。
「なんだ、ルカか…。急患かと思ったじゃない。」
「急患だ。」
ルカは、青年に向かってキリハを突き出した。
なんの説明もなく青年の前に押し出され、状況が飲み込めないキリハは青年とルカを交互に見るしかない。
「ちょっとした事件で、後頭部を殴られてる。この馬鹿は間抜けな顔をしてるけど、結構頭にきてるはずだ。」
ルカの話を聞くと、青年の態度が一変した。
彼は険しく眉を寄せたかと思うと、キリハの両腕を掴んで椅子に座らせる。
次にくるりと椅子を回し、そっとキリハの後頭部に触れた。
「いった…っ」
忘れていた痛みが再び襲ってきて、キリハは思い切り顔をしかめた。
「君、よくこれで歩いてきたね。結構な血が出てるじゃないの。」
指摘されたことで、体が一気に異常を訴え始める。
「う…」
視界が歪んで、キリハは額を押さえた。
「詳しい状況は?」
青年の問いに、ルカが具体的な状況説明を始める。
それを聞きながら、青年はものすごいスピードでキーボードを叩き、内線電話で精密検査の手はずを整える。
指示されてストレッチャーに寝かされた後は、医師や看護師たちに囲まれて病院内を行ったり来たり。
様々な検査を受けた後に病室に運ばれ、そこで最低でも一晩の入院を言い渡された。
傷の手当てをする最中、青年は自身のことをエリクと名乗った。
そして、出会った当初のルカたちと同様に、顔に馴染みがない竜使いであるキリハに興味を抱いたようで、差し障りのない範囲でいくつかの質問を投げた。
キリハがそれに快く答えると、エリクはルカと違ってその話を楽しそうに聞いていた。
「付き合いにくい弟だとは思うけど、仲良くしてくれると嬉しいな。」
エリクは最後にそう笑って、病室を出ていった。
それとは入れ替わりで、今度はルカが入ってくる。
「兄さんの奴、余計なことを……」
ずっと聞き耳を立てていたらしく、病室の扉を閉じた瞬間にそうぼやくルカ。
どこか困惑したようなルカの様子に、キリハはくすりと笑った。
「いてて……」
今さらながらに傷が痛む。
頭に巻かれた包帯を押さえて呻いていると、ルカがふんと鼻を鳴らした。
「兄さんも言ってただろ。あんなことがあったのに、平気で歩き回ってる方が馬鹿なんだ。宮殿には、カミルの件も含めて報告してきた。宮殿に戻ったらまた検査らしいから、覚悟しとけ。」
「うん……ありがと。」
唸るキリハ。
ベッドの隣に置かれた椅子に座り、ルカは窓の外を見やる。
そのまま、病室には沈黙が下りた。
なんだか不思議な気分だ。
あのルカが律儀にも傍にいてくれているこの状況が、とても現実とは思えない。
「……これが、オレが育った町の姿だ。」
こちらを見ないまま、ルカが静かに語り出す。
「見ただろ? 誰も安心して暮らせない。みんなああやって、常に周りを疑いながら生きてるんだ。一ヶ所に寄せ集められたところで、オレたちは傷の舐め合いすらできないんだよ。」
人の姿が見えない町。
身を寄せ合いながらも、ひどく殺伐としていた子供たちの目。
そんな光景を見た後だからこそルカの言葉は重くのしかかり、言葉を返す余地などなかった。
「分かったか? ここは、お前が住んでた所とは違うんだ。」
絶望や諦観。
いつもの攻撃的な雰囲気が消えたルカからは、そんな悲しげなものばかりが感じられた。
道中で買い物を済ませつつ、まっすぐに中央区を目指す。
初めて足を踏み入れた中央区という場所は、あまりにも異質な空間だった。
国の中心たる宮殿は目と鼻の先にあるのに、ここには大通りのような活気はなく、とても小ぢんまりとしていた。
だからといって別に寂れているというわけではないのだけど、とてもひっそりとしている場所だ。
(人がいない……)
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不自然なくらい、外には人がいなかった。
人口減少が懸念されていたレイミヤでも、もう少し人の姿が見られるのに。
聞いていた話では、竜使いの人口はそれなりにあったはず。
おそらくは、皆が外に出ることを避けているのだろう。
そういう推論に至り気分が沈んでしまったキリハを、さらなる異質な空間が出迎える。
それは、町の中にある公園を通りがかった時のこと。
公園には、多くの子供たちが集まっていた。
そこからは微かに笑い声も聞こえ、ようやく普通らしい光景に巡り会えたと思ったのだが、その微笑ましい光景は、一人の子供がこちらに気付いたことで霧散した。
一斉に向けられたいくつもの視線。
彼らの浮かべる表情は様々だったが、全員に共通していたのは強い拒絶と警戒だった。
「行くぞ。」
二の句も継げないキリハに、ルカは短く告げて先を進む。
カミルの家に着くと、彼の母親はひどく驚きながらも家の中へと迎えてくれた。
泣き疲れて眠ってしまったカミルをベッドに運び、その間にルカが彼女に事情を説明した。
息子が誘拐されかけたことを知った彼女は、当然ながらひどく狼狽した。
そこでルカが犯人を撮影した動画があることを伝え、それを宮殿に提出してどうにかしてもらうと力強く宣言。
理路整然としたルカの発言には説得力があって、落ち着いた彼女とやり取りをした結果、事件のことはカミル一家以外の竜使いには秘めることになった。
拝み倒す勢いで何度も頭を下げるカミルの母親に見送られ、キリハとルカはカミルの家を後にした。
何はともあれ、無事にカミルを送り届けることができてよかった。
キリハは、ほっと胸をなで下ろす。
すると、隣のルカが急にキリハの二の腕を掴んだ。
「わっ、何!?」
「次はお前だ。」
問答無用でキリハを引きずるルカは、迷いなく別の道へと入っていく。
「無茶しやがって……あまり心配させるな。」
ぽつりと零れたルカの言葉。
よもや、ルカの口からこんなことを聞く日が来るとは。
唖然としたキリハは、抵抗も忘れてルカに引きずられるがままに歩くしかなかった。
ルカが向かったのは、五階建ての病院。
受付にいる人々には構わず、ルカはエレベーターで三階を目指す。
どうやら、三階より上は入院患者のフロアらしい。
エレベーターを降りた先には、広いナースステーションがあった。
こんな所になんの用なのかと疑問に思っていたら、ルカは断りもなくナースステーションの中に入ってしまう。
「ちょっ…」
さすがにそれはまずいだろう。
驚いたキリハが声を裏返すが、キリハが抗議するよりも前に慌てた様子の看護師がすっ飛んできた。
「ル、ルカ君…っ。どうしたの、急に? というか、勝手に入っちゃだめじゃない。」
「兄さんは?」
女性の言葉をまるっきり無視して、ルカは短く訊ねる。
「えっと、奥で回診結果を見てるけど……あっ」
女性が言い終えるよりも早く、ルカは無言で彼女の隣を通り過ぎていく。
誰かが止める間もなく、ルカは奥へ続くドアを乱暴に開けた。
その中には、レントゲン写真を難しい顔で凝視する青年が一人。
彼は突然の物音に驚いて椅子から腰を浮かし、ルカの姿を見て拍子抜けしたような顔でまた椅子に座る。
「なんだ、ルカか…。急患かと思ったじゃない。」
「急患だ。」
ルカは、青年に向かってキリハを突き出した。
なんの説明もなく青年の前に押し出され、状況が飲み込めないキリハは青年とルカを交互に見るしかない。
「ちょっとした事件で、後頭部を殴られてる。この馬鹿は間抜けな顔をしてるけど、結構頭にきてるはずだ。」
ルカの話を聞くと、青年の態度が一変した。
彼は険しく眉を寄せたかと思うと、キリハの両腕を掴んで椅子に座らせる。
次にくるりと椅子を回し、そっとキリハの後頭部に触れた。
「いった…っ」
忘れていた痛みが再び襲ってきて、キリハは思い切り顔をしかめた。
「君、よくこれで歩いてきたね。結構な血が出てるじゃないの。」
指摘されたことで、体が一気に異常を訴え始める。
「う…」
視界が歪んで、キリハは額を押さえた。
「詳しい状況は?」
青年の問いに、ルカが具体的な状況説明を始める。
それを聞きながら、青年はものすごいスピードでキーボードを叩き、内線電話で精密検査の手はずを整える。
指示されてストレッチャーに寝かされた後は、医師や看護師たちに囲まれて病院内を行ったり来たり。
様々な検査を受けた後に病室に運ばれ、そこで最低でも一晩の入院を言い渡された。
傷の手当てをする最中、青年は自身のことをエリクと名乗った。
そして、出会った当初のルカたちと同様に、顔に馴染みがない竜使いであるキリハに興味を抱いたようで、差し障りのない範囲でいくつかの質問を投げた。
キリハがそれに快く答えると、エリクはルカと違ってその話を楽しそうに聞いていた。
「付き合いにくい弟だとは思うけど、仲良くしてくれると嬉しいな。」
エリクは最後にそう笑って、病室を出ていった。
それとは入れ替わりで、今度はルカが入ってくる。
「兄さんの奴、余計なことを……」
ずっと聞き耳を立てていたらしく、病室の扉を閉じた瞬間にそうぼやくルカ。
どこか困惑したようなルカの様子に、キリハはくすりと笑った。
「いてて……」
今さらながらに傷が痛む。
頭に巻かれた包帯を押さえて呻いていると、ルカがふんと鼻を鳴らした。
「兄さんも言ってただろ。あんなことがあったのに、平気で歩き回ってる方が馬鹿なんだ。宮殿には、カミルの件も含めて報告してきた。宮殿に戻ったらまた検査らしいから、覚悟しとけ。」
「うん……ありがと。」
唸るキリハ。
ベッドの隣に置かれた椅子に座り、ルカは窓の外を見やる。
そのまま、病室には沈黙が下りた。
なんだか不思議な気分だ。
あのルカが律儀にも傍にいてくれているこの状況が、とても現実とは思えない。
「……これが、オレが育った町の姿だ。」
こちらを見ないまま、ルカが静かに語り出す。
「見ただろ? 誰も安心して暮らせない。みんなああやって、常に周りを疑いながら生きてるんだ。一ヶ所に寄せ集められたところで、オレたちは傷の舐め合いすらできないんだよ。」
人の姿が見えない町。
身を寄せ合いながらも、ひどく殺伐としていた子供たちの目。
そんな光景を見た後だからこそルカの言葉は重くのしかかり、言葉を返す余地などなかった。
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