竜焔の騎士

時雨青葉

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第5章 目覚め

集められた理由

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 緊急招集ともなると、さすがに雰囲気が違う。


 いつもより幾分いくぶんか張り詰めた会議室の空気に、能天気である自覚があるキリハも表情を固くせざるを得なかった。


「皆さん、集まりましたね。では、これを見てください。」


 ターニャが示したのは、スクリーンに映された折れ線グラフだ。


「これは、気象部が記録した直近二ヶ月の地震の発生回数を示したグラフです。ご覧のとおり、十日ほど前から急激に回数を増しているのが分かるかと思います。」


 ターニャが言うように、グラフは一ヶ月前辺りから右肩上がりになり、十日前周辺から勾配を増している。


 グラフの隣には、無数の赤い点が光っているセレニア国の地図が映っていた。


 おそらく、この赤い点は地震の震源を示しているのだろう。
 こうして地図を見ていると、震源が南に集中しているのが分かる。


「……変なの。」


 地図を見るや否や、キリハはそう述べていた。


「変?」


 片眉を上げて聞き返してくるルカに、キリハはこくりと頷く。


「だって、地震の原因は離島の火山って言われてたよね? 火山はセレニアの北北東方向にあるのに、地震が南に固まるなんておかしいよ。でも、なんで南なんだろ…? 南方向に、プレートなんてなかったはずだけどなぁ……」


 ぶつぶつと呟いていると、周りの視線が不自然に集まってくるのを感じた。
 そちらを見れば、皆が意外そうな顔でこちらを凝視しているのが確認できる。


「キリハが、頭いいっぽいこと言ってる……」


 その場の総意をフールが簡潔に一言。
 それを聞いたキリハは、不満そうに唇を尖らせた。


「な、なにさ…。地理とか理科は昔から得意なの。ちょっと変だなって思っただけじゃん。早く先を続けてよ。」


 いつまで経っても自分から離れない視線が気持ち悪くて、キリハは話題を元に戻そうと先をうながす。


「ん~…。そうは言っても、この地震の問題点はキリハが解説してくれちゃったしねぇ。」


 フールが言いながらターニャへ目配せをすると、彼女は首を縦に振って話を引き継いだ。


「キリハさんの言うとおり、この地震には不自然な点が多く見受けられます。それも当然のことで、そもそもこの地震の原因は火山ではないのです。」


「火山じゃない?」


 キリハが訊き返すと、ターニャはそれを首肯する。


「そうです。世間一般に火山の影響だという話が広まっているのは、それ以外の情報が漏れないように規制されているせいでしょう。」


「つまり、本当の原因を知られるとまずいわけだ。」


 そう指摘したのはルカだ。


 彼はすでに答えを導き出しているらしく、ターニャを射抜く瞳は険しい光を宿していた。


「徹底的に人払いをして、オレたちだけを集めて話をしているんだ。もったいぶらずに結論を言えばいいだろ。」


 ぐっと。
 ルカの口調が冷える




「―――これは、ドラゴンが引き起こしているものだと。」
「!?」




 目をみはるキリハたちに対し、ターニャとフールは深刻そうな表情で沈黙。
 その反応を見れば、ルカの指摘が間違っていないことは明らかだ。


「本当、に…?」


 キリハが訊ねると、気まずげに視線をらしていたターニャが意を決したように顔を上げ、手に持っていた小さな機械を操作し始めた。


 スクリーンに映っていた地図が拡大されていき、セレニア山脈の北部を示す。


「この辺りに、《焔乱舞》が眠っている洞窟があります。あなた方も、宮殿の任務に就いて三ヶ月。そろそろ、いい頃合いでしょう。」


 ターニャの平静な双眸がスクリーンから外れ、その視線がサーシャ、カレン、ルカ、そしてキリハへと順々に滑っていく。


「ドラゴンが目覚めるまで、もうゆうがありません。あなた方の優秀さは、私もフールも申し分ないと認めているところですので、あなた方には早急に洞窟へ向かい、ほむらの試練を受けていただきます。可能ならば、誰かが《焔乱舞》に認められるまで何度でも。」


「な、何度でも!?」


 キリハは素っ頓狂な声をあげた。


「ちょっ、ちょっと待ってよ! 焔の試練って、そんな何回もできるものなの?」


「……試したことは、ありません。」


「じゃあ―――」


「でも、本当に時間がないのです。私たちとしても、あなた方に賭ける他に道がありません。」


「賭けるしかないって……」


 その言葉を聞いて、とある懸念が脳裏をかすめる。


 内容が内容だけに口にすることは躊躇ためらわれたが、かといって確認しないわけにもいかない。


 キリハはちらりとサーシャを一瞥いちべつしつつも、意を決して口を開いた。


「俺たちでどうにかしようとしてるってことは、俺たちの任期は一年じゃ終わらないってことだよね?」


 《焔乱舞》に認められた場合の待遇は、また変わってくる。
 以前竜騎士の待遇について聞いた際、ターニャはそう話していたはずだ。


 この中に《焔乱舞》に認められる者が現れれば、自分たち四人がドラゴン討伐の中心核となるとも聞いた。


 それらの話を組み合わせれば、自分たちの任期がドラゴン討伐が終わるまでに引き延ばされるという推論には簡単に到達できる。


 そして、やはりターニャはこの懸念を否定しなかった。


「そうですね。……覚悟は、しておいてください。」


 ―――ガタンッ


 視界の端で、誰かが立ち上がるのが見えた。
 引かれた椅子が勢いのまま床に倒れ、また大きな音を立てる。


 全員の注目を集める中、サーシャが顔を真っ青にして震える唇を両手で覆っていた。


 彼女の震えは徐々に大きくなっていき、とうとうこらえ切れなくなったサーシャは、きびすを返して会議室を飛び出していってしまう。


「サーシャ!!」


 とっさに呼び止めるも、サーシャの気配はあっという間にとお退いていった。


「ねえ、なんとかならないの!?」


 キリハは、机に両手をついてターニャとフールに詰め寄る。


「竜騎士の任務っていっても、一年間っていう期間があるから、みんな義務に従ってるんだよ!? それが一年じゃ終わらないなんてなったら、サーシャみたいに怖いのを必死に我慢してる子はどうなるのさ!? この際、焔に認められた奴は仕方ないとして、他はどうにかならないの? こんなの、いくらなんでも横暴だよ!」


 そもそも、《焔乱舞》に選ばれなかったのなら、一般人はドラゴンと戦う必要などないはず。


 運悪く、《焔乱舞》に選ばれた人間と同期で竜騎士隊にいただけ。


 それだけの理由で命を懸けて戦わなければいけないという理屈は、自分としては到底容認できるものではなかった。


「……分かりました。」


 しばし考え込む仕草を見せていたターニャだったが、彼女はそう言ってキリハと真正面から対峙した。


「私も、無理を通していることは理解しています。《焔乱舞》に認められた方以外に関しては、任務から外れることを認めましょう。」


「言ったね? その言葉、絶対に忘れないでよ?」


「もちろんです。神官の名においてお約束します。」


 念を押すと、ターニャは揺るぎない態度で断言した。
 それを聞いた瞬間、自分の中ですっと心が決まる。


「分かった。」


 一度瞑目するキリハ。
 次にまぶたを開いた彼の瞳には、確固たる決意が宿っていた。




「そういうことなら、俺がやる。あの暴れ馬に、意地でも俺のことを認めさせてやるよ。」




 腹は決まった。


 戦いは、覚悟ができている人がやればいい。


 サーシャにそう言ったのは自分だ。


 誰かが覚悟を決めることで戦いを望まない人を救えるのなら、自分がその覚悟を決めればいい。


 キリハは目元に力を込め、ぐっと拳を握った。

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