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第5章 背負う約束
せめて、大事だと思える人とは―――
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病室まで辿り着いたルカは、力任せにキリハをベッドに投げつけた。
「わっ…。もう、乱暴だなぁ。」
全く懲りていない様子のキリハは、枕を胸元に引き寄せて唇を尖らせている。
普段フールの自由奔放さに振り回されてはよく癇癪を起こしているキリハだが、これはある意味フールに匹敵するのではないだろうか。
ルカは、キリハの頭を叩きたくなる衝動をぐっとこらえる。
とりあえず、キリハはまだ安静が必要と言われている身だ。
病人に手を上げるのは、できる限り我慢せねばなるまい。
だが……
「………おい。」
ルカは険しい目つきでキリハを睨む。
「何笑ってんだ。」
こちらが必死に衝動をこらえているというのに、当のキリハは枕に半分顔をうずめたままでにやにやと笑うばかり。
それを見ていると、今しがた掲げた〝我慢〟という言葉もぐらりと揺れてしまう。
そんなこちらの心境など露知らず、キリハは上機嫌で口を開いた。
「えへへ。なんか嬉しくて。」
「何がだ?」
「ルカがみんなと仲良くなってるから。」
「―――ああ?」
それを聞いた瞬間、無意識のうちに声のトーンが数段階は下がっていた。
「お前の目は腐ってんのか? どこを見たらそうなる。医者の指示も聞かずにふらふらしやがって。おかげで、変な設定がついただろうが。」
何が悲しくて、キリハの保護者扱いをされなければいけないのだ。
仲良くなったのではなく、ただからかわれているだけじゃないか。
少しは、こちらが感じている不満に気付けってんだ。
「えー? どうせなら、乗っかっちゃえばいいじゃん。今度から、お兄ちゃんって呼ぼうか?」
「しばき倒すぞ。」
だめだこれは。
ただでさえ能天気で脳内がお花畑なのに、色々と開き直ってからというもの、脳内の花が倍増している。
ぐだぐだと悩んでいた時の方がよっぽどまともだったと、半ば本気でそう思う。
なんだか頭が痛くなってきたような気がして、ルカは頬をひきつらせる。
「お前……迷惑をかけてるっていう自覚はないのか?」
「んー?」
その問いかけに、キリハはわざとらしく首を捻る。
「自覚してたとしても、特に態度を改める気はないかなー。ルカにはうんと迷惑をかけていいって言われたしね。」
「はっ!?」
想定外の言葉に、ルカは目を剥いた。
「誰に!?」
「エリクさんとミゲルー♪」
キリハの自由さを助長している犯人が分かり、ルカは思わず額に手をやった。
いかにもそう言いそうな面子だ。
宮殿の連中がからかってくるようになったのも、裏でミゲルが煽っているからに違いない。
「~~~っ。あんの馬鹿兄貴とクソヒゲ親父が……」
低く暴言を吐き捨てる。
すると、そんなルカを見ていたキリハがまた口を開いた。
「ルカってさ……」
「あ?」
「ただでさえ口が悪いのに、気を許すともっと口が悪くなるタイプなんだね。」
「誰のせいだ、この馬鹿猿!! 今のお前が絶対安静じゃなきゃ、タコ殴りにしてるところだぞ!?」
「もー。そうやってすぐに熱くなるから、ミゲルたちが面白がるんだよー?」
「なっ……はあ……」
怒りも、度を超えると疲労にしかならない。
ルカは重たげな溜め息をつき、ベッドの脇に置かれた椅子に腰を落とす。
「ルーカ。」
「……なんだよ。」
気疲れで重さを増した頭を上げるルカ。
「ありがと。なんだかんだで、いつも捜しに来てくれて。」
出迎えてきたのは、キリハの満面の笑みだ。
「………」
得な奴だ。
心底そう思う。
これは、天然に見せかけた確信犯なのではないだろうか。
そう疑いたくなるほどに、キリハの笑顔は全てを洗い流してしまう。
恐怖も怒りも―――些細な不安ですらも。
「……分かった。オレの負けだ。」
そう呟いて、ルカは肩の力を抜く。
「とにかく、頼むから大人しく寝てろ。これ以上心配させるな。」
「心配してくれてたの?」
「当たり前だ。」
当然のことを言ったつもりだったのだが、それを聞いたキリハは大きく目を見開いて固まってしまった。
「……ルカ? 大丈夫? 変なものでも食べた? 熱でもある?」
「………っ」
ルカは、湧き上がった衝動を腹の奥で押し殺す。
どうやら、キリハは怒りを忘れさせる天才であると同時に、怒りを思い出させる天才でもあるらしい。
……まあ、これも大半は自分のこれまでの行いのせいであることは承知しているのだけど。
ルカは大きく息を吸い込み、怒鳴り声の代わりに盛大な溜め息を吐き出した。
「……オレが変わったら、嫌になるのか?」
小さく。
本当に小さく、その口腔から零れる言葉。
「え…?」
キリハがきょとんとして首を傾げる。
意外そうに目をしばたたかせているのを見ると、言葉の内容自体は伝わっているのだろう。
ルカはそっぽを向き、ぶっきらぼうに口を開く。
「お前が暢気に寝てる間に、色々あったんだよ。で、気付いちまった。周りを見返してやるって、そう躍起になりながら……オレは結局、理不尽な今にしがみついてた。あの怒りがないと、何も変えられないと思ってた。でも、お前がオレに見せた現実は違った。……それを、受け入れてみてもいいかと思っただけだ。」
「ルカ……」
「かっ、勘違いするなよ!!」
無性に恥ずかしくなってきて、ルカはキリハを遮るように慌てて言葉を重ねる。
「竜使い以外の人間なんて、大っ嫌いだ! それは変わらない。……でも、お前がこれから何をどう変えていくのか、それには少しだけ興味がある。だから……ちょっとだけ、ちょっとだけ流されてやるだけだ。本当に、ただそれだけなんだからな!!」
強がった口調で言い捨てたところで、火を噴く羞恥は変わらない。
でも、これは嘘偽りのない本心だ。
周囲のことは理不尽だと思うし、都合がいいとも思う。
それでも、自分が実は過去にすがって動こうとしていなかったのだと知った今、確実に前進しているキリハが創り上げていく今と、これから紡がれる未来を見てみたいと思ったのだ。
そこで、自分が納得できる答えを見つけ出せるかは分からない。
だけど、少なくとも自分のことを変えていけるような気はした。
せめて―――大事だと思える人とは、素直な気持ちで向き合えるように。
「わっ…。もう、乱暴だなぁ。」
全く懲りていない様子のキリハは、枕を胸元に引き寄せて唇を尖らせている。
普段フールの自由奔放さに振り回されてはよく癇癪を起こしているキリハだが、これはある意味フールに匹敵するのではないだろうか。
ルカは、キリハの頭を叩きたくなる衝動をぐっとこらえる。
とりあえず、キリハはまだ安静が必要と言われている身だ。
病人に手を上げるのは、できる限り我慢せねばなるまい。
だが……
「………おい。」
ルカは険しい目つきでキリハを睨む。
「何笑ってんだ。」
こちらが必死に衝動をこらえているというのに、当のキリハは枕に半分顔をうずめたままでにやにやと笑うばかり。
それを見ていると、今しがた掲げた〝我慢〟という言葉もぐらりと揺れてしまう。
そんなこちらの心境など露知らず、キリハは上機嫌で口を開いた。
「えへへ。なんか嬉しくて。」
「何がだ?」
「ルカがみんなと仲良くなってるから。」
「―――ああ?」
それを聞いた瞬間、無意識のうちに声のトーンが数段階は下がっていた。
「お前の目は腐ってんのか? どこを見たらそうなる。医者の指示も聞かずにふらふらしやがって。おかげで、変な設定がついただろうが。」
何が悲しくて、キリハの保護者扱いをされなければいけないのだ。
仲良くなったのではなく、ただからかわれているだけじゃないか。
少しは、こちらが感じている不満に気付けってんだ。
「えー? どうせなら、乗っかっちゃえばいいじゃん。今度から、お兄ちゃんって呼ぼうか?」
「しばき倒すぞ。」
だめだこれは。
ただでさえ能天気で脳内がお花畑なのに、色々と開き直ってからというもの、脳内の花が倍増している。
ぐだぐだと悩んでいた時の方がよっぽどまともだったと、半ば本気でそう思う。
なんだか頭が痛くなってきたような気がして、ルカは頬をひきつらせる。
「お前……迷惑をかけてるっていう自覚はないのか?」
「んー?」
その問いかけに、キリハはわざとらしく首を捻る。
「自覚してたとしても、特に態度を改める気はないかなー。ルカにはうんと迷惑をかけていいって言われたしね。」
「はっ!?」
想定外の言葉に、ルカは目を剥いた。
「誰に!?」
「エリクさんとミゲルー♪」
キリハの自由さを助長している犯人が分かり、ルカは思わず額に手をやった。
いかにもそう言いそうな面子だ。
宮殿の連中がからかってくるようになったのも、裏でミゲルが煽っているからに違いない。
「~~~っ。あんの馬鹿兄貴とクソヒゲ親父が……」
低く暴言を吐き捨てる。
すると、そんなルカを見ていたキリハがまた口を開いた。
「ルカってさ……」
「あ?」
「ただでさえ口が悪いのに、気を許すともっと口が悪くなるタイプなんだね。」
「誰のせいだ、この馬鹿猿!! 今のお前が絶対安静じゃなきゃ、タコ殴りにしてるところだぞ!?」
「もー。そうやってすぐに熱くなるから、ミゲルたちが面白がるんだよー?」
「なっ……はあ……」
怒りも、度を超えると疲労にしかならない。
ルカは重たげな溜め息をつき、ベッドの脇に置かれた椅子に腰を落とす。
「ルーカ。」
「……なんだよ。」
気疲れで重さを増した頭を上げるルカ。
「ありがと。なんだかんだで、いつも捜しに来てくれて。」
出迎えてきたのは、キリハの満面の笑みだ。
「………」
得な奴だ。
心底そう思う。
これは、天然に見せかけた確信犯なのではないだろうか。
そう疑いたくなるほどに、キリハの笑顔は全てを洗い流してしまう。
恐怖も怒りも―――些細な不安ですらも。
「……分かった。オレの負けだ。」
そう呟いて、ルカは肩の力を抜く。
「とにかく、頼むから大人しく寝てろ。これ以上心配させるな。」
「心配してくれてたの?」
「当たり前だ。」
当然のことを言ったつもりだったのだが、それを聞いたキリハは大きく目を見開いて固まってしまった。
「……ルカ? 大丈夫? 変なものでも食べた? 熱でもある?」
「………っ」
ルカは、湧き上がった衝動を腹の奥で押し殺す。
どうやら、キリハは怒りを忘れさせる天才であると同時に、怒りを思い出させる天才でもあるらしい。
……まあ、これも大半は自分のこれまでの行いのせいであることは承知しているのだけど。
ルカは大きく息を吸い込み、怒鳴り声の代わりに盛大な溜め息を吐き出した。
「……オレが変わったら、嫌になるのか?」
小さく。
本当に小さく、その口腔から零れる言葉。
「え…?」
キリハがきょとんとして首を傾げる。
意外そうに目をしばたたかせているのを見ると、言葉の内容自体は伝わっているのだろう。
ルカはそっぽを向き、ぶっきらぼうに口を開く。
「お前が暢気に寝てる間に、色々あったんだよ。で、気付いちまった。周りを見返してやるって、そう躍起になりながら……オレは結局、理不尽な今にしがみついてた。あの怒りがないと、何も変えられないと思ってた。でも、お前がオレに見せた現実は違った。……それを、受け入れてみてもいいかと思っただけだ。」
「ルカ……」
「かっ、勘違いするなよ!!」
無性に恥ずかしくなってきて、ルカはキリハを遮るように慌てて言葉を重ねる。
「竜使い以外の人間なんて、大っ嫌いだ! それは変わらない。……でも、お前がこれから何をどう変えていくのか、それには少しだけ興味がある。だから……ちょっとだけ、ちょっとだけ流されてやるだけだ。本当に、ただそれだけなんだからな!!」
強がった口調で言い捨てたところで、火を噴く羞恥は変わらない。
でも、これは嘘偽りのない本心だ。
周囲のことは理不尽だと思うし、都合がいいとも思う。
それでも、自分が実は過去にすがって動こうとしていなかったのだと知った今、確実に前進しているキリハが創り上げていく今と、これから紡がれる未来を見てみたいと思ったのだ。
そこで、自分が納得できる答えを見つけ出せるかは分からない。
だけど、少なくとも自分のことを変えていけるような気はした。
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