竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
105 / 598
第1章 帰国

師匠はまさかの……

しおりを挟む

「たい……ちょう?」


 キリハは、茫然とした顔でミゲルの言葉を繰り返した。
 つぶらな瞳でこちらを見上げてくるキリハに、ディアラントはにやりと笑う。


「そ。オレ、隊長。」
「隊長って、今日帰ってくる予定の?」


「うん。」
「ドラゴン部隊の隊長?」


「そうだよ。これからは一緒にドラゴン討伐に参加するから、公私ともによろしくな。《焔乱舞》の使い手にして、竜騎士隊代表のキリハ君♪」


「あ……うん。へぇ、そうだったんだぁ…。ディア兄ちゃんが、隊長……」


 徐々に小さくなっていくキリハの声。
 場は一時の静寂に包まれ、次の瞬間―――




「えええええぇぇぇぇぇっ!?」




 中庭に、キリハの絶叫がとどろいた。


「おお。予想どおり、いい反応~♪」
「結局、はっきり言われるまで気付かなかったな、この馬鹿は。」


 したり顔をするディアラントと、呆れた表情を浮かべるルカ。
 彼が告げたとおり、この場で目を白黒させているのはキリハただ一人だった。


「ええ!? みんな、気付いてたの!?」


「そりゃあな。」
「ジョーさんのヒントで、大体想像できてたよ。」


 ルカが息をつきながら肩をすくめ、カレンがルカに同意する。
 さらに……


「この中で気付いてなかったの、キリハだけ……かな。」
「そうそう。僕も、ここまで言えばさすがに気付くかな~って思ったんだけど……」


 サーシャとジョーからは、なんとも言えない苦笑が向けられた。


「ええぇ…。そんなの、分かんないよー……」


 眉を下げるキリハの頭を、満足そうなディアラントがぽんぽんと叩く。


「相変わらず、頭の方はちょーっと残念みたいだなぁ。」
「うう…っ。それについては、否定できないっていうか。……じゃなくて!!」


 キリハは勢いよくディアラントの手を振り払うと、目を丸くするディアラントに向かって不機嫌丸出しの顔を向けた。


「隊長ってことは、今日帰ってくることをみんなに口止めしてたのって、ディア兄ちゃんってことでしょ?」


「おうよ。驚かそうと思って。」


「もーっ!! そのせいで、俺すっごくもやもやしてたんだから!」


「あーらら。キリハにまで勘付かれるレベルって、全然秘密にできてないじゃん。」


 キリハの抗議を受けても、ディアラントはのんな雰囲気を崩さない。


「問題はそこじゃなくて!! なんでそんな意地悪したのさ!」


「悪い悪い。抜き打ちでキリハの上達ぶりを見たかったんだよ。師匠としては。」


「ううぅ…っ」


 膨れっ面のキリハは、全然納得できていないようだ。
 そんな弟子を前に、師匠は悪びれる様子もなく笑うだけ。


「まあまあ、そんな怒るなよ。お詫びに、今度の休みは好きなだけ練習に付き合ってやるから。」


「ほんと!?」


 途端に輝くキリハの表情。


 不機嫌そうな顔は瞬時に消え去り、今は期待に満ちたまなしがディアラントへと注がれている。


「……おい。あいつの知能指数は三歳児か?」


 それまで傍観に徹していたルカが、さすがに顔を引きつらせる。


 どう見てもいいように転がされて丸め込まれているだけなのだが、キリハは全くそれに気付いていないらしい。


「まあ、それだけキー坊がディアのことを慕ってるってことなんだろ。」


 いつの間に見物人サイドに回ってきていたのか、ミゲルがそう口を挟んだ。


「……ったく。じゃれつくのは業務外にしろっつったばかりなのに。車の中でもうるさかったが、生で見る溺愛ぶりは気色わりぃな。」


 そう告げたミゲルは、まるで苦虫でも噛み潰したような顔をする。


「あれを見てるだけで想像できるけど、そんなにすごかったの?」


 訊ねたのはカレンだ。
 すると、ミゲルだけではなくジョーまでもが遠い目をしてくうを見つめた。


「まあ……ねぇ?」


「実際、キー坊が有名だったのはディア以外の流風剣の使い手としてじゃなくて、単にディアが溺愛してる子供としてだったしな。」


「ディアって、今年で二十四歳なんだけどさ。浮ついたうわさがとんとない分、師匠バカっていう伝説ばかり増えてくんだよ。」


「今はキー坊の性格を知ってる手前、構いたくなるのは分かるんだが、あれはさすがにな…。んー……お前らに分かりやすく伝えるにはなんて言えばいいのか…。あっ、分かった!」


 ひらめいたとばかりに表情を明るくし、ミゲルはポンと手を叩いた。


「一言で言うなら、ディアは〝エリク二号〟だ。」
「おい、やめろ!!」


 間髪入れずにルカが叫ぶ。
 それに対し……


「うっわ、納得。どんな感じか、すぐに想像できたわ。」
「そう、だね。」


 すっかり納得した様子のカレンとサーシャであった。


 一方、そんな外野のことなど気にもせず、キリハとディアラントは未だ二人の世界の中。


「おお、そういえば。」


 ふいにキリハの肩を掴んだディアラントは、その体をくるりと反転させた。
 そして、キリハの服のすそをつまんで服をめくり上げる。


「うわ…。これはひどいな。」


 ディアラントの顔が、ここで初めて痛々しげに歪んだ。
 その視線が注がれているのは、キリハの背中。


 そこには、先日のドラゴン討伐でキリハが負った傷がある。


 傷口はもう塞がっているものの、くっきりと肌に残る傷跡は、当時の傷がいかに深かったかを物語っていた。


「ああ、コレね。もう消えないかもって、先生が言ってたよ。」


 もう過去のことなので、キリハの声はとてもあっさりとしている。


「そっか…。ごめんな。大変な時に駆けつけてやれなくて。」


 ディアラントらしくない、しおれた声。
 それに、キリハは大慌てで首を振った。


「大丈夫だって! ディア兄ちゃんが心配してるって話なら、ミゲルとかターニャとかからたくさん聞いたから。仕事ならしょうがないじゃん!」


「やっぱり、その二人は色々とフォローしてくれてたんだ……って、ああっ!?」


 急にディアラントが大声を張り上げる。


「あ…」


 今度は気まずげにそう呟いたまま、その場で固まってしまうディアラント。


 そんなディアラントが見つめる先を追ったキリハは、見物人が増えていることに気がついた。


「あ、ターニャとフールだ。」


 いつからそこにいたのだろう。


 ルカやミゲルたちと並ぶようにして、ターニャとフールがじっとこちらを見つめていたのである。


「ディアラントさん。」


 ターニャが静かに口を開く。


「長い間、ご苦労様でした。おかえりなさい。」
「あ……はい。ただいま戻りました。」


 冷や汗が浮かぶ空笑いで、ディアラントはターニャにそう返す。


「ちなみに、報告書はできていますか?」
「はい。全部できています。」


「では、私の執務室まで提出しに来てください。色々とお話も聞きたいので。」
「はい。今すぐ行きます。」


 ディアラントの返事を聞くと、ターニャはくるりと背を向けて建物の中に入っていってしまった。


 その後ろ姿を見送りながら、キリハは首を傾げる。


「あれ? なんか、ターニャ怒ってる?」


 朝の浮つきが嘘のようだ。
 一体、何があったのだろう。


「やっべー…。車の中までは覚えてたんだけどなぁ……」


「ディア~? キリハが可愛いのは分かるけど、優先順位を間違えちゃだめだよ~?」


 ふわふわと飛んできたフールがディアラントの肩に乗って言うと、ディアラントの頬がさらに引きつった。


「いや、予定ではね……ちゃんと報告書を出してからキリハをおちょくりにいくつもりだったんだよ? ただ、報告書よりも先にキリハを見つけちゃったもんだから……」


「はーい。言い訳しなーい。」


 フールは、ディアラントの頬をぺちぺちと叩いて彼の言葉をさえぎった。


「それより、早く行ってくる! ……あれ、多分長いよ?」
「……うっす。心して、こってり絞られてきます。」


 ようやく腹をくくったらしいディアラントは、最後にまたキリハの頭をなでてから、ターニャを追って建物の中に入っていった。


「さてさて、これからまた一波乱……かな?」


 キリハの肩に飛び移ったフールは、先ほどの口調とは裏腹に足取りの軽いディアラントの後ろ姿を眺めて、そう呟くのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...