110 / 598
第2章 不穏な前触れ
ディアラントが慕われる理由
しおりを挟む「―――ふう。こんなもんか。」
血に濡れた剣を布で拭き、ディアラントは剣を鞘にしまった。
「ディア兄ちゃん、はい。」
肌に飛び散った血や汚れを拭いながら、キリハはディアラントにタオルを手渡す。
「おお、サンキュー。それにしても、すげぇなそれ。オレの出る幕なんてなかったよ。」
キリハの腰に下がる《焔乱舞》を示し、ディアラントはくすりと笑った。
「いや…。そんなことないと思うけど。」
そう返しながら、キリハは周囲を見回す。
今日はディアラントが初めてドラゴン討伐に参加したのだが、たったそれだけのことで現場の状況が見違えるほどに変わっていた。
皆の疲労度が桁違いに軽いのである。
自分が《焔乱舞》の使用を躊躇わなくなったことに加え、やはりディアラントという強大な戦力の追加が大きな要因と言えた。
ディアラントは討伐が始まるや否や、後衛の取りまとめをミゲルとジョーに任せ、自らは前線に突っ走っていった。
それから、キリハがドラゴンにとどめを刺すまでのおよそ三時間。
ディアラントは周囲に的確な指示を出しながら、自分自身は一度も前線から下がることはなかった。
「なんか、むず痒い気分だな。こうやって、キリハと同じ仕事をするってのは。」
ディアラントは普段そうするようにキリハの頭を両手で掻き回し、嬉しそうな表情を見せた。
「キリハがいたから、オレもやりやすかったよ。お疲れさん。」
最後にぽんぽんとキリハの頭を叩いて、ディアラントは後片付けをする人々の方へと歩いていった。
「ミゲル先輩、お疲れ様でした。後衛の指揮、完璧でしたよ~。」
まるで軽い運動をした後のような口調で寄ってきたディアラントに、ミゲルは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「おうよ。お前はやっぱり前に出ていったな。一応肩書きは隊長なんだから、奥に引っ込んで指示だけを出してたって、文句なんざ言われねぇってのに。」
「いやぁ…。オレ、動きながらじゃないと上手く指示振れなくてー。ミゲル先輩の統率力のおかげで、オレは安心して前に出られました! これからも、よろしくお願いします。」
「はいはい。」
「もー、そんなめんどくさそうな顔しないでくださいよ~。あ、ジョー先輩!」
ディアラントの意識が、一瞬でミゲルからジョーに移る。
ディアラントに呼び止められ、大量の書類をめくりながらその場を通り過ぎようとしていたジョーは、何事かと問うような顔で振り返った。
「先輩の先読み、すごかったですよ! あのアシストがなかったら、もっと手こずってたと思います。さすがは部隊一の頭脳ですね。」
「そう? 最近、ようやく傾向が掴めてきたところなんだよね。役に立ったならよかった。」
「役に立ちまくりですって! 先輩のおかげで、前衛と後衛の呼吸が自然と合ってたんですから。ああっ、アイロス先輩待ってください!!」
またもや会話の途中で、ディアラントは別の人物を呼び止める。
「先輩、ちゃんと医療班のところに行きました?」
「へ? なんで?」
突然ディアラントにそんなことを問われて、アイロスはきょとんと目をしばたたかせた。
「なんで、じゃないですよ! さっき瓦礫に足を取られて、思いっきり捻ってたじゃないですか。歩くの、少しきついはずですよ。我慢せずに診てもらってください。」
「ディア……相変わらずだけど、お前の目はどこについてるの? 誰にも見られてないと思ってたのに……」
図星だったらしく、アイロスは渋い顔をする。
すると、ディアラントは大袈裟な仕草で目を見開いてみせた。
「見逃すわけないじゃないですか。これでも隊長ですよ? 先輩の機動力は部隊に必要不可欠なんですから、我慢しすぎて悪化したら、オレ泣いちゃいますよ~……」
「わ、分かったって。今すぐ行ってくるから、そんなにプレッシャーかけないでよー。俺の胃が死んじゃうから!」
「アイロス先輩も相変わらずですね~。そんなんで、先遣隊の代表なんてやって大丈夫なんですか?」
「俺は全力で辞退したのに、推薦して譲らなかったのはどこの誰!? 今からでも遅くないから、人選を改めてくれる!?」
「いや、アイロス先輩以上の適役はいません!」
「ほらあ!」
「あはは! じゃあ、ちゃんと治療を受けてくださいね~♪」
にっこりとアイロスに笑いかけ、ディアラントはまた別の人、また別の人へと声をかけていく。
いつどのタイミングで見ていたのか、ディアラントは一人ひとりにそれぞれの言葉を用意していた。
ドラゴン殲滅部隊や竜騎士隊だけではなく、情報収集のために同行していた気象部や情報部、医療班や地元警察の人々まで。
関係者という関係者に片っ端から労いの言葉をかけていき、最後に必ず笑って離れていく。
どうりでこんなに慕われるわけだ。
こうして見ていると、ディアラントに人が集まる理由がよく分かる。
ディアラントの言葉はご機嫌取りの世辞ではなく、実直で誠意がこもっている本物の言葉だった。
口調こそ冗談めいていて軽いものの、その言葉に嘘がないことは誰もが感じ取っている。
ディアラントに話しかけられた皆が、ドラゴン討伐後とは思えないほど明るい笑みをたたえていることがその証拠だ。
(やっぱり、ディア兄ちゃんってすごいな。)
キリハは微笑み、飽きることなくディアラントの姿を眺めていた。
0
あなたにおすすめの小説
雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~
朽縄咲良
ファンタジー
――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」
魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。
残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。
だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。
――そして、二十分後。
不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。
シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。
「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」
『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!
哀れな魔王の、明日はどっちだ……?
(表紙イラストは、ペケさんから戴きました)
*小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる