200 / 598
第4章 自分の役目
駆けつけた先では―――
しおりを挟む……まだ、耳元に声が響いている。
今までは、声だと感じるほどはっきりしたものではなかったのに。
それだけ、ドラゴンたちが何かに怯えているのだ。
急がないと。
手遅れになる前に。
キリハは全力で廊下を駆け、地下フィルターを目指す。
先遣隊が出払っていることと会議中であることが重なり、今は地下フィルターの前に見張りがいない。
もしドラゴンたちに問題が起こったとしても、迅速に対応できる人がいないのだ。
階段を駆け下りた先に見えた、地下フィルターへ通じる扉。
そこには、人ひとり分が通れるほどの隙間が開いていた。
―――早く、早く、早く!
一体何に急かされているのかも分からないまま、キリハは扉の中へと飛び込んだ。
「―――っ!?」
そこにあった光景に、一瞬だけ頭が真っ白に染まってしまった。
中にいたのは白衣を着た若い男性と、小型のビデオカメラを持ったスーツ姿の男性だった。
彼らは自分の唐突な登場に驚愕し、こちらを振り向いた体勢のまま固まっている。
「お前ら…っ」
キリハは眉を寄せ、込み上げてきた怒りのまま、《焔乱舞》の柄に手をかけた。
「ひっ…」
キリハの実力は、これまでの功績から十分に分かっているのだろう。
キリハが剣を握った瞬間、彼らは蜘蛛の子を散らすようにその場から飛びのいていった。
キリハは彼らを威嚇するように睨みを利かせたまま、ゆっくりと歩を進めた。
フィルターの奥では、二匹のドラゴンが互いに身を寄せ合って、弱々しい鳴き声をあげている。
見たところ、特に外傷はなさそうだ。
「大丈夫?」
できるだけ優しく問いかける。
小さいドラゴンは怯えて動けないようだったが、大きいドラゴンの方は、まだ受け答えができる余裕があったようだ。
彼は長い首を伸ばすと、大丈夫だと訴えるように、キリハの体に自分の頭をすり寄せた。
「よかった。間に合ったみたいで……」
心底ほっとした。
肺が空になるまで息を吐き出し、キリハはすぐに表情を引き締めた。
ちらりと、視線を床に向ける。
おそらく、彼らの持ち物なのだろう。
床には、開いたアタッシュケースが置かれていた。
その中にあるのは、どこかのカードキーと数本の試験管。
キリハはゆっくりと手を伸ばし、それらを取り上げた。
薄いガラス管の中には、どろりとした赤黒い液体が入っていた。
貼られたラベルには過去の日付と、何かの成分表らしき数字が並んでいる。
「これ、何?」
カードキーと試験管を掲げ、低く訊ねる。
「……き、君には関係ないだろう。」
言いたくないのか、白衣の男性は怯えた口調ながらも、そんな返答を寄越してきた。
「じゃあ、この子たちに何しようとしたの?」
次の質問を投げかける。
しかし、今度の質問に彼らは答えなかった。
互いに顔を見合わせ、上手い言い訳を探すように言葉を濁している。
「………」
キリハは無言で目元を険しくした。
「ま、待ってくれ! あいつらには、まだ何もしていない!」
顔を真っ青にした男性たちが、途端に慌てふためいた。
彼らが慌てるのも無理はない。
キリハがまとう雰囲気は、激しい怒気に満ちている。
その苛烈な雰囲気は、ともすれば殺気のようにも感じられて、目が合った者全員を怖気づかせるほどの威力を持っていた。
―――殺される、と。
何も言わなくなったキリハが醸し出す威圧感に、完全に委縮した彼らはそう思ったことだろう。
「それは、開発中の薬なんだ!」
勝手に命の危機を感じている彼らは、途端にぺらぺらとしゃべり始めた。
「血液薬だよ。ほら、ドラゴンって、他の個体の血液に異常に弱いらしいじゃないか。そ、それは、これまでに採取したドラゴンの血液を濃縮させて作ったやつなんだ。」
「……それを、この子たちで試そうとしたわけ?」
口から勝手に、自分の声とは思えないほどにぞっとする声が漏れた。
それを聞いた男性たちが、引き潰された蛙のような悲鳴をあげる。
「か、必ずしも効果があるってわけじゃないんだって! も、もしかしたら、なんの効果もないかもしれないし! 何かあった時は、そのカードキーで搬入口を開けて、こいつらを逃がしてやるつもりで―――」
「もういい!!」
その瞬間、キリハが強い口調で怒鳴る。
「もう……いいよ……。聞きたくない。」
泣きそうな声を絞り出し、キリハはくしゃりと顔を歪めた。
「出てって。もう二度と、この子たちに近づかないで。それだけ守ってくれればいいよ。だから、早く出てって。」
頭がおかしくなりそうだ。
効果がないかもしれない?
何かあった時は、逃がしてやるつもりだった?
ふざけないでくれ。
下手すれば、このドラゴンたちが死ぬ可能性だってあったということじゃないか。
それなのに、我が身可愛さでこれ以上の暴言を吐かないでくれ。
どうせ彼らは、今のやり取りに非があったなんて思わないのだろうけど。
「………なんで……」
茫然としていた白衣の男性の唇が、ふいに戦慄く。
ちょうどその時、ようやく駆けつけてきたディアラントたちや、彼から報告を受けたターニャとフールが室内に飛び込んできた。
しかし、あまりの恐怖に理性が崩壊していたらしい男性は、混乱したまま言葉を吐き散らす。
その言葉が、キリハのリミッターを外してしまうとも知らずに。
「なんでそんな化け物の味方をするんだよ! 別に、そいつらにかけてやる情けなんかないじゃないか!! そもそも、そんな奴らなんていなければ、お前ら竜使いだって、こんなに差別を受けなかったはず―――」
「またそんなくだらないこと言うのかよ!?」
キリハの怒号が轟く。
その刹那。
―――――ゴオオォッ
ジョーの腕を振り払った時とは比べ物にならない量の炎が、キリハを包んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる