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第6章 共に、同じ世界を―――
想定外の展開
しおりを挟む(あいつ……本当に大丈夫か?)
もう慣れたドラゴン討伐の中、ディアラントが思うのは隣にいない愛弟子のことだった。
お前には前科がある、と。
キリハに向けて思わず言ってしまった言葉が、脳裏に重くのしかかっていた。
覚えていないならいい。
むしろ、覚えていない方がいい。
―――あんな、心臓が凍りつきそうになる記憶なんて……
「ディア! そろそろ弾薬の数が危ないよ!!」
後方を統括してくれているジョーの言葉が、そわそわとしている意識を現実に引き戻す。
「了解です! ドラゴンの動きもだいぶ鈍くなってきたので、そろそろ仕留めにかかりましょう!」
意識半分でも、周囲の状況は理解しているつもりだ。
ディアラントは素早く視線を巡らせる。
「ジョー先輩、タイミングは任せるのでレベル十の痺れ薬を首にお願いします! ミゲル先輩たちと竜騎士隊のみんなは、とにかくドラゴンの足を潰してください。オレも途中まで援護します。後方部隊はドラゴンの注意が足元にいかないように、上空で派手にやっといてください。最後に、オレが指示飛ばしたら、即行で距離を取って!!」
「お前はどうすんだ!?」
「オレは、最後の仕上げに首を狙いに行きます。多分、それで終わりです。」
「了解!!」
それぞれがこちらの指示に異を唱えることなく頷き、感服するような団結力と行動力で、己の役目を全うしようと動き始める。
キリハがいないドラゴン討伐は、これが三度目だという。
過去の二度は、キリハが怪我で生死の境をさまよっていた時のこと。
自分には、その時の経験がない。
だが、自分がその時の状況をよく知らなくとも、あの時の経験は皆の中にしっかりと残っているようで、彼らの動きには迷いがなかった。
最近は後方支援部隊に回すようにしているサーシャやカレンも、自ら剣を取って前線に出てきている。
ミゲルやジョーのサポートも申し分ない。
おかげで、キリハと《焔乱舞》がいないというハンデを気にせずに剣を振るえる。
心配することはない。
きっと大丈夫。
きっと―――
『大丈夫……大丈夫……』
キリハのあの言葉が、ふいによみがえる。
こんなことで剣はぶれないが、ドラゴンだけに集中しようとしていた気持ちが思い切り削がれてしまった。
昔からそう。
キリハは、追い込まれれば追い込まれるほど笑う。
キリハが本気でつらいと思うほどに、彼の笑顔はいつもと寸分変わらないものに化けていくのだ。
〝大丈夫……大丈夫……―――――。〟
あの言葉は、自分の中にある最大のトラウマを思い起こさせる。
どうか、あの一線だけは超えないでくれ―――……
「ジョー! ドラゴンが倒れるぞ!」
「分かってるよ!!」
「全員退避!!」
ミゲルとジョーのやり取りを聞いた瞬間、具体的なことを考えるよりも先に口が動く。
離れていくミゲルたちとは対照的に、後方から放たれた弾薬がドラゴンに向かって飛んでいく。
その弾薬は狙いすましたようにドラゴンの首元に当たり、その巨体が大きくのけぞった。
その動きを見て、どこに首が落ちるかをすぐに計算。
計算結果に従って、地面を蹴ろうと足に力を込めた。
しかし。
―――――――――ッ!!
大きく響いたドラゴンの咆哮。
今まさに倒れようとしているドラゴンのものとは、明らかに違う。
もっと生命力に満ちあふれている雄叫びが、遥か頭上から聞こえてくる。
「!?」
無意識に上を見て驚愕した。
そこに舞うのは、大小二匹のドラゴンだったのだ。
想定していた未来には全くない光景。
それにこちらが完全に飲まれている間に、その珍客たちは自分の仕事を終わらせてしまっていた。
大きなドラゴンが倒れかけていたドラゴンに突進しながらその首を掴み、ドラゴンが倒れる方向を無人の場所へと調整する。
そのままの流れで倒れたドラゴンの上にのしかかった彼は、握っていた前足をそっと開いた。
その手の中から現れたのは、ドラゴンと比べるとあまりにも小さな影。
何か、と疑問を抱く必要はなかった。
誰かが口を開くよりも圧倒的に早く、飛び出した影から爆発的な炎が噴き出して、弱っていたドラゴンに最後のとどめを刺したのだから。
「―――わあお……」
そんな呟きと共に笑みが零れていたことを、この時のディアラントは自覚していなかった。
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