竜焔の騎士

時雨青葉

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第6章 共に、同じ世界を―――

血を交わした理由

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「あ、そういえば……」


 皆が撤退の準備を進める中、レティシアが何かを思い出したように呟いた。


「あんた、なんか訊きたいことがあるって言ってなかった?」
「……あ。」


 訊ねられ、自分もそのことを思い出す。


「うん、そうなんだ。レティシアって、ユアンのこと知ってる?」


 彼女と話してから、ずっと疑問だったことだ。


「知ってるも何も……ねえ。」


 少し鬱陶うっとうしげな反応。
 それで、答えは十分に伝わってきた。


「じゃあさ……なんで、ユアンがリュドルフリアと血を交わしたかって、知ってる?」


 答えなんてもう分からないだろうと思いながら、それが気になって仕方なかった。


 もしこんな未来を予見できたとしたら、彼らは血を交わしただろうか。
 彼らの関係は、そんな損得勘定だけで割り切れるような、あっさりとしたものだったのだろうか。


 自分たち竜使いが生まれるに至った彼らの行動の背景には、一体どんな想いがあったのだろう。


 大きな期待と、一抹の不安。
 キリハは固唾かたずを飲んで、レティシアの言葉を待った。




「ああ、あれ? ただの事故よ?」




 彼女の答えは、非常にシンプルだった。


「え……えええぇぇっ!?」


 突如絶叫したキリハに、近くにいたディアラントが驚いてその場から飛び上がる。


「び、びっくりさせんな! どうした!?」
「だ、だって…。ちゃんとした理由があったんだって信じてたのに、事故だなんて言うから……」
「本当のことなんだから、仕方ないでしょうよ。」


 レティシアの声は淡々としている。


「リュード様が怪我してたところにたまたまユアンが通りがかって、その時偶然、お互いに血を体内に取り込んじゃったって話よ。それまでは私だって、まさか自分の血にそんな効果があるなんて、知りもしなかったもの。」


「うう、そんなぁー……」


 予想外と言えば予想外。
 とはいえ言われてみれば、これ以上に納得できる経緯もない。




「でも、あれ以来リュード様は変わった。」




 レティシアの口調が変わる。
 遠くを見据える彼女のそれはおとぎ話を語るようで、どことなく寂しげな雰囲気をかもしているように感じた。


「どういったわけか、私もリュード様も、他より随分と強く、賢く生まれてきちゃった。別に欲しくもなかったけど、特別な力を持っちゃって……当然ながら、同胞たちは私たちに畏怖したわ。畏れ多いって、ろくに近寄ってもくれないのよね。私には途中からロイリアがいたけど、あの方はなんだか、ずっとひとりだった。で、それがあの方にとっての普通でもあったと思う。私もそれが普通だって思ってたし。」


「………」


「そんな普通をぶっ壊したのが、ユアンだったのよ。偶然だけど意志疎通ができるようになって、お互いに知性があるんだって知って……何がそんなに嬉しかったんだか、リュード様のとこに足しげく通うようになってね。それからよ。リュード様が、何かと同胞に構うようになったのは。私もよく、長話に付き合わされたわ。」


 きっと、悪い思い出ではないのだろう。
 レティシアはくすくすと笑い声を零す。


「『この偶然を、偶然のまま終わらせるなんてもったいない。どうせなら、友として同じ世界を見よう。』……って、そう言われたんですって。リュード様も嬉しかったみたいよ。そんな風に言ってくれるお友達ができて。」




〝同じ世界を〟




 落胆していた胸に、その言葉は魔法のように広がっていった。


 きっかけは、些細な事故だったのかもしれない。
 でもそこから絆が生まれたのは、ユアンとリュドルフリアが互いにそう望んだからだったのだ。


「ありがとう! それを聞けたら、俺はどんだけでも頑張れるよ!!」


 キリハはとびきりの笑顔を浮かべる。


 思ったとおりだ。
 共に歩もうと思うのに、大袈裟な理由なんて必要なかったのだ。


 好きになったから。
 一緒にいたいと思ったから。


 同じ世界を見たいという願いはきっと、そんな単純でささやかな気持ちからくるもの。
 それでいいのだ。


 信じていてよかった。
 心の底から、そう思えた。

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