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第1章 不思議な交流
びっくり仰天の出会い
しおりを挟む「ふう…。あの子ったら、本当に狩りが下手ねぇ……」
溜め息をつきながら、レティシアがすぐ近くに着地してきた。
それで砂が舞い上がり、キリハは思い切りそれを被ってしまう。
「あら、大丈夫?」
「平気。帰ったら、シャワー浴びる。」
小動物のように頭を振って砂を払い、キリハは顔を上げた。
「レティシアは、もういいの?」
「そうね。私は十分だけど……」
レティシアは海へと視線を向ける。
「ロイリアはまだかしらね。早くご飯を食べなさいって言ってるんだけど、またああやって遊び始めちゃってるから。」
レティシアと同じようにそちらを見ると、ロイリアは後ろ足で器用に海を泳ぎながら、周囲を飛ぶ鳥たちとじゃれている。
鳥の方からすれば生きた心地はしないだろうが、無邪気な笑い声をあげているロイリアに、彼らを捕食するつもりはないようだ。
「やっぱ、まだ子供ねぇ……」
困ったように呟くレティシア。
聞いた話によると、ロイリアの精神年齢は、人間でいうところの小学生とそう変わらないらしい。
「仕方ないよ。俺も小さい頃は、海っていうとはしゃいでたもん。」
「そうね……」
ふと。
レティシアの声に切なさが揺れる。
「あの子には、私の都合に付き合わせて、長い間眠ってもらっちゃったもの。その分、今が楽しくて仕方ないのかもしれないわね。」
「………」
そう言われると複雑だ。
キリハはロイリアを見つめて、目を伏せる。
こんな風に短い間しか外に出してやれないのに、それが楽しいなんて。
文句を言われるよりはいいけど、ああやって無邪気に喜ばれると、なんだか申し訳なくなってしまう。
「ごめんね。本当は、自由にしてあげたいんだけど……」
しゅん、とうなだれるキリハ。
すると。
「分かってないわねぇ。」
レティシアに呆れられてしまった。
「へ?」
きょとんとしたキリハが顔を上げると、レティシアはまた溜め息を零す。
「あの子があんなに楽しんでるのは、あんたが一緒にいるからよ。あんたが傍にいるから、安心して羽を伸ばせるんじゃない。もっと自信を持ちなさい。」
最後にコツンと頭を小突かれ、キリハはなんとも言えない気分で彼女の言葉を聞くしかなかった。
「キリハー、お魚取れたー!!」
ちょうどそこへ、ようやく捕まえた獲物をくわえたロイリアが戻ってくる。
「わあ、大きいね。やったじゃん!」
「えへへー♪」
キリハが頭をなでると、ロイリアは得意げに胸を反らせた。
その様子に、レティシアがくすりと笑う。
「本当に、あんたはキリハが好きね。」
「うん!」
レティシアの言葉に即答するロイリア。
キリハに成果報告が済んだ彼はくわえていた魚を丸飲みし、また口を開いた。
「キリハ、いっぱい褒めてくれるんだよ! ぼく、キリハとお別れしなくてよかった! そうじゃなきゃ、きっと楽しくないもん。」
声を弾ませてロイリアはそう言い、言葉の信憑性を示すようにキリハに頬ずりをする。
「ね? 言ったとおりでしょ?」
レティシアに同意を求められ、キリハはロイリアの両目を見つめる。
当然ながら、不思議そうにこちらを見るその目に、嘘なんてないわけで……
「そうだね。ありがとう。」
キリハは笑い、お返しにロイリアの体を強く抱き締めてやる。
「俺も、ロイリアが大好きだよ。」
言ってやると、途端にロイリアの翼が震えた。
そして。
「ぼくもー!!」
「わあっ!?」
あっという間に、ロイリアに押し倒されてしまった。
身を起こそうにも、顔を舐めてくるロイリアがそれをさせない。
「あはは! ロイリア、待って……あははははっ!!」
なんだか自分も楽しくなってきて、キリハは大声で笑う。
「あんたら…。仲良しなのも、ほどほどにね。」
苦笑したレティシアは、ふと空を見上げた。
「それにしても……今日はなんだか、騒がしいわね。」
低くした声で、そう一言。
「え……騒がしいって?」
キリハがロイリアとじゃれる合間に訊ねると、彼女はアイスブルーの瞳をスッと細めた。
「なんか、いつもと空気が違うっていうか……」
そこで、レティシアの様子に変化が訪れる。
彼女は突然黙り込んだかと思うと、砂浜の後ろにそびえ立つ崖の向こうへと首を回した。
「何か来るわね。」
静かに告げる。
「何かって―――」
言葉は、最後まで続かなかった。
レティシアに倣ってキリハが崖へと視線を滑らせたのと時同じくして、そこから大きな影が飛び出してきたのだ。
「え……ドラゴン!?」
キリハは目を見開く。
大きな体に立派な翼。
ゆったりと空を行くその姿は、明らかにドラゴンだった。
「ほえー…。あんな低空でドラゴンが飛んでるなんて、珍しいね。」
思わず立ち上がり、海の向こうへと飛んでいくドラゴンを見送る。
人間と敵対していた過去がある手前、セレニアに住むドラゴンがあんなに低空で飛行することは滅多にない。
のんびりとした様子を見る限り、別に壊れているというわけでもなさそうだ。
この辺りは人が住む場所からはなり離れているし、あのドラゴンも気が抜けていたのかもしれない。
そんな風に楽観的な感想を抱きながら、ドラゴンを見つめるキリハに対し……
「………」
レティシアは、険しい視線をドラゴンに向けていた。
「なんか変よ。」
彼女は低く呟く。
そして彼女が呟いた途端、その変化はキリハの目にも明らかなものとなった。
どんどん離れていくかと思われたドラゴンが、緩やかに旋回し始めたのだ。
「あれ…?」
これは、もしかしなくても―――
「な、なんか……戻ってくるんだけどー!?」
進行方向を変えたドラゴンが、何故かこちらへと向かってくるのだ。
「何!? レティシアの知り合い!?」
「そうだったらよかったんだけど、記憶にないのよねぇ……」
「ええぇ…。ど、どうしよう…っ」
予期せぬ展開にキリハは混乱し、慌ててレティシアの足元にしがみつく。
「とりあえず、あんたはロイリアと後ろに下がってなさい。私が適当に相手して追っ払うから。」
「う、うん。ロイリア、行こう。」
「うん!」
キリハはこくこくと頷き、ロイリアと一緒に安全な場所へ退避しようと、レティシアから離れる。
「ほう! やはり、見間違いではなかったか!」
「…………へ?」
キリハはその場で、石のように固まった。
今、人の声らしきものが聞こえたような…?
「この国に、ドラゴン使いはいないと聞いていたんだがな。しかも二匹も従えているとは、なかなかやるではないか!」
やっぱり。
聞き間違いなんかじゃない。
キリハはきょろきょろと声の方向を探し、最終的に上を見るしかなかった。
そこでは空中にとどまり、こちらを見下ろすドラゴンが一匹。
そしてその上から、一人の女性がこちらに大きく手を振っていた。
「え……」
キリハは二度、三度と目をまたたき、次の瞬間。
「えええええぇぇっ!?」
この国ではありえるはずのない光景に、大絶叫するのだった。
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