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第3章 崩れ始める平穏
裁きが下されるほどの罪とは―――
しおりを挟む「なるほど…。次はそこに行くのね。」
話題が話題だけに、レティシアの声が真剣みを帯びた。
「基本的には、話し合いで解決するわ。同胞の血が毒である以上、噛みつき合うのは互いに自殺行為でしかないもの。」
「でも、全部が全部、それで解決はしないよね?」
「死にたくないなら、それで解決するしかないのよ。だから場合によっちゃ、解決までに数年なんてこともあるわ。揉めるのが嫌なら、いっそ僻地に縄張りを作って、同胞と関わらないのが賢明ね。」
「なるほど……そっか……」
そこまで聞いて、キリハはゆっくりと視線を落とした。
なんだろう。
ドラゴンのことを知れば知るほど、分からなくなる。
「じゃあ……―――リュドルフリアが裁きを下すほどの罪って、なんなの?」
この疑問への答えだけが、どうしても導き出せない。
「―――っ!!」
息をつまらせて瞠目するレティシア。
そんな彼女の瞳を、まっすぐに見つめる。
「ドラゴンにとって、罪って何? それが許されることって……やり直せることってないの?」
リュドルフリアの炎は、浄化と裁きの炎と呼ばれている。
ターニャがかつて、そう語っていた。
全てを受け入れて裁きを下す覚悟が、お前にあるかと。
《焔乱舞》を掴む時にも、そう問われた。
その役割を背負った自分に課せられた義務の一つが、壊れたドラゴンたちを楽にしてやることなのは分かる。
だけど、それ以外は?
いつかはドラゴン討伐も終わりを迎える。
その後の自分は、《焔乱舞》の所有者として何をすればいい?
こうして言葉を交わせる誰かに―――レクトに、この剣を振り下ろさなければならない日が来るのだろうか。
「キリハ……あんた……」
突拍子もない話をしたから、驚いたのかもしれない。
レティシアが、地面から首だけを起こした。
少しの間無言でこちらを見つめた彼女は、自分に首を伸ばして、そっと頭をなでてくれる。
「何がそんなに不安になっちゃったの? 焔を持ってることが、怖くでもなっちゃった?」
気遣わしげにかけられる言葉が、胸に沁みる。
だけど、この場は曖昧にやり過ごすしかなくて。
キリハは沈んだ表情のまま、微かに首を横に振った。
「そんなことは―――」
「ん? ちょっと待って。」
突然、レティシアがこちらの言葉を止めた。
彼女は目元を険しくすると、小さく鼻を鳴らす。
しばらくして。
「ねぇ、キリハ……あんた、何してきたわけ?」
問いかけられたのは、そんなこと。
「え…? 何って…?」
質問の意味が分からず、小首を傾げる。
しかしレティシアの目つきは、それで和らぎはしなかった。
「あんたから、血の匂いがする。」
「―――っ!?」
その瞬間、心臓がどきりと跳ねて、全身が凍りつくような気分に陥った。
「血の匂い……なんだろう…?」
心当たりのないふりで自分の匂いを確認する素振りを見せながらも、内心は気が気じゃない。
「身に覚えはないの?」
「うん。特に、怪我という怪我もしてないし。」
「そう…。変ねぇ……気のせいかしら…?」
何度もこちらの匂いを嗅ぎながら、レティシアは懐疑的に唸っている。
これはまずい。
後ろめたいことだらけのキリハは、慌ててその場から立ち上がった。
「ご、ごめんね! 不穏な話にしちゃって。」
「いや、私のことはいいんだけど……」
「そっか。心配してくれてありがとね。特に悩んでるとかじゃなくて、単純な興味だったんだ。俺の訊き方がよくなかったよね。」
「……まあ、仕方ないんじゃない? 罪だ裁きだって話を、笑顔でされてもねぇ…? そっちの方が心配になるわよ。」
「た、確かに……」
あれ…?
変にごまかそうとしたせいで、余計に微妙な空気になったかも。
ここはもう……
「俺、そろそろ帰るね! また明日来るよ!」
逃げるに限る。
そう考えたキリハは、レティシアやロイリアに何かを言われる前に駆け出していた。
「あ、キリハ!」
後ろから、何かを思い出したようなレティシアの声が。
「ちょうどよかった。フールのアホに、いい加減顔を出せって伝えといてくれない? 前から呼んでるんだけど、一向に来ないのよー。」
「うん! 分かった!」
今はとにかく、レティシアたちから離れたい。
キリハは意識半分でレティシアの頼みを了承し、彼女たちの方を一度も振り返らないまま、地下の高速道路を目指して管制塔に飛び込むのだった。
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