竜焔の騎士

時雨青葉

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第5章 動くそれぞれ

ルカの提案

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「俺だって、理想論だけでレクトを信じたいわけじゃないよ。」


 ぽつぽつと、キリハは複雑な胸中を語る。


「レクトが迷ってるってことは……その答えによっては、レクトがまたドラゴン大戦を起こすかもしれない。それなりに、そういう危機感は持ってるつもり。」


「それで、どう思ってるんだ?」


 ルカは静かに先を促してくれる。


「レクトの友達になりたいって気持ちに嘘はないけど……もう二度と、あんな戦争が起こらないようにしたい。だって、きっかけはレクトだったとしても、戦争をして相手を傷つけたのは人間も同じだもん。レクトを変えるチャンスをもらえたのが俺だけなら、俺が頑張らなきゃいけないでしょ。」


「………」


 ルカは、すぐに意見を述べてこなかった。
 口元に手を当てて、じっくりと吟味するように、しばし黙り込む。


「……お前にしては、珍しく論理的に説得力のある意見だな。」


 長い沈黙の後、ルカはそう告げた。
 そして次に、まっすぐにこちらを見てくる。


「じゃあ訊こう。そこまではっきりとした考えがあるのに、何が気になって、そんな不安そうな顔をしてるんだ? 今までのお前なら、批判なんて気にせずに突っ走るだろ?」


「それは……」


 思わず言いよどんでしまう。


 胸に湧き上がるのは、昨日の出来事に対する罪悪感。
 そしてそれは、ルカに筒抜けのようだった。


「当ててやろうか? 悪意はなかったとはいえ、ユアンを切り捨てるような態度を取ったのが申し訳ないんだろ?」


「………」


 図星なので、黙るしかない。
 そこからルカも思案げな表情で口を閉ざし、その場は時おり風が吹くだけの静寂に満たされた。




「……そんなに不安なら、オレもレクトに会ってみようか?」




 ルカからされた提案。
 一瞬何を言われたのか分からなくて、反応するまでに数秒はかかった。


「………えっ!?」


 地面に視線を落としていたキリハは、信じられない気持ちでルカを見つめる。
 当人のルカは、至って平常心だった。


「お前もユアンも、今は自分が信じたいものしか見えてねぇみたいだからな。間に第三者の目が入った方が、少しは冷静に話し合いができるだろ。」


「でも……いいの?」


 まさか、ルカがこんなことを言ってくるなんて。
 あんなに差別を嫌っている彼なら、レクトのことを全否定してもおかしくないと思っていたのに。


「複雑ではあるけどな。」


 そう呟いて、ルカは細く息を吐いた。


「今のオレには、いまいち判断がつかねぇ。レクトがドラゴン大戦を引き起こしたことか、それ以前にユアンとリュドルフリアが血を交わしたことか…。そのどっちに、オレたちがこんな目に遭うことになった原因があったのか。」


 それは、物事を多角的に俯瞰ふかんできるが故の悩みなのかもしれない。
 一概にレクトが悪いとは言わなかった彼は、自身で言うとおり複雑そうな雰囲気をかもしていた。


「だからオレは今のところ、レクト側にもユアン側にもつかない。そんなオレだからこそ、限りなく中立的な立場でレクトやユアンの話を聞けるだろ? その結果次第で、お前と一緒にユアンを説得するか、ユアンと一緒にお前を説得するかが変わるけどな。」


「ルカ…」


「それにこの件については、オレくらいしか巻き込める人間がいないんじゃねぇか? お前がレクトと話ができたのも、シアノっていう共通の繋がりがあったからだ。その条件を他に満たしているのは、オレと兄さんだけ。兄さんはドラゴンに耐性がないし、つい最近倒れたばっかだし、お前としては無理をさせたくないだろ?」


「うん。」


 エリクに無理をさせたくないのは絶対なので、キリハは即で頷いた。


「異論がないなら決まりだな。今度レクトの所に行く時には、オレにも声をかけろよ。」


 ある程度の方向性が固まって気が済んだのか、ルカが先にベンチから立ち上がった。
 去っていこうとするその背中に、キリハは慌てて声をかける。


「ルカ、ありがとう!」
「……別に。」


 ルカは、いつものように淡白な口調でそう言って、バルコニーを出ていった。


「……オレは、そこまでお人好しじゃねぇよ。」


 幾分いくぶんか顔色がよくなったキリハとは対照的に、ルカのすみれ色と赤の双眸には、切れるように鋭い光が宿っている。




「オレには、オレの目的があるだけだ。」




 その呟きは、キリハには届いていない―――

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