竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
435 / 598
第7章 救われた命の代償

強制収容

しおりを挟む

「キリハ、いつエリクさんのお見舞いに行く?」


 ものすごく間抜けなことに、サーシャにそう言われるまで、全然そのことが頭になかった。


 いや、決してエリクに会いたくないわけじゃないのだ。


 それ以外のことを優先していたから、彼に会うのはもうしばらく後でいいと、無意識にそう思っていただけで。


 とっさに答えを返せなかった自分は、同じく固まっているジョーを引っ張り、その場から二人で逃走してしまった。


「さすがに……直接は、会いたくないよね…?」


 訊ねた自分に、ジョーは答えることを拒否。
 しかし、強張ったその表情を見ていれば、彼の心境は十分に察することができた。


 真実と結末は違ったとはいえ、トラウマはトラウマ。


 まだ落ち着くには程遠いジョーをエリクと対面させるのは、あまりにもこくだと思う。
 エリクの姿を見た瞬間に発作を起こしてしまっては大変だ。


 とはいえ、今はジョーが自分の護衛という立場だから厄介。
 普段なら自分だけで病院に向かえばいいのだが、今の彼は常に自分の近くにいる必要がある。


 ここは上手く言い訳をして、サーシャだけでお見舞いに行ってもらおう。
 そう思った矢先、ケンゼルから電話がかかってきた。


 エリクのためにも、なるべく早く見舞いに来てやってくれ。
 そして必ず、そこにジョーも連れてくること。


 戸惑う自分に、電話の向こうにいたケンゼルとオークスは、いつになく強い口調でそう言ってきた。
 やんわりと断ろうとしたものの、あちらは聞く耳持たず。


 まあ、病室に入らなければいいだけの話だから。


 最終的にジョーが諦めたことで、仕方なく翌日にはフィロアへと向かうことになった。




「……ねぇ。僕は危険人物扱いされてるのか、重病人扱いされてるのか、どっちなんです?」




 病院に着くや否や、待ち構えていたケンゼルとオークスに両脇を掴まれ、そのまま拉致らちの勢いで特別病室へと収容。


 ケンゼルの部下たちが出入口をきっちりと固める中、オークスの友人である宮殿医療部の医師、ロンドに診察されることになったジョーは、不満げな様子で彼らを睨んだ。


「どっちでもあるわい。」
「キリハには見舞いに来てほしいけど、何がなんでも君を一人にするわけにはいかないからな。」


 対するおじいちゃん二人は、どこか憤然とした態度で仁王立ちである。


「ジョー…」
「はい?」
「君……よくこれで運転してきたね……」


 一通りの触診を終えたロンドは、どこか顔を青くして息をつく。


「かなりの低体温の上に、脈も浅いし安定していない。それに加えて、ろくな睡眠も休養も取ってないでしょ? 血液検査の結果はまだ出てないけど、今の時点で入院確定だよ。」


「ええぇー…」
「というか、私としては何故平然と動いているのかが疑問なくらいで。」


「どうせ、薬で体調をごまかして無理を押し通しとるんじゃろ。」
「だろうな。」


 ジョーの代わりに答えるのは、当然ケンゼルとオークスの二人。
 それを聞いたロンドは、ジョーの前に紙とペンを滑らせる。


「書いて。」
「何を?」


「今飲んでる薬の成分表。」
「やだ。」


「書かないなら、このまま監禁。」
「………」


 自由を奪われるのは嫌らしい。
 思い切り顔を歪めたジョーは、渋々とペンを走らせた。


「こんの馬鹿ーっ!!」


 まだ書き終わってもいないのに、ロンドが顔を真っ赤にして叫んだ。


「死にたいのか!? もはや麻酔レベルの濃度で、なんつー薬を飲んでるんだ!?」


 鼓膜が破れるような勢いで怒鳴られ、ジョーは肩をすくませながら耳を塞ぐ。


「本当に、君って子は…っ。やっぱり、もう自分で対処できるなんて言葉を真に受けて、高校生で定期検診をやめるんじゃなかった! 君のそれは、治療をしているんじゃなくて、ただ倒れるのを先送りにしてるだけだ!!」


「……寿命まで先送りにできれば、結果オーライじゃないですか?」


「アホかーっ!! ケンゼル! オークス!!」


 派手に自分の頭を掻き回したロンドは、後ろの見守り隊に噛みつく。


「どうして事件の後、すぐにこの子を取っ捕まえなかったんだ!? こんな危ない薬漬けになる前に、私の前に引きずり出してくれれば…っ」


「そうは言ってもなぁ……」


「まずは、この子を人殺しにしないことが第一じゃったしのぅ……」


「それは…っ。事件のことを聞いた今なら分かるが…っ。心的外傷後ストレス障害やパニック障害ってのは、馬鹿にしちゃいけないんだ!! 下手すりゃ、本当に死ぬんだよ!!」


 悲鳴のような高い声で叫ぶロンド。
 それで、彼もまたジョーの過去を知る人物なのだと知る。


「ジョー。せっかくだから、何日かは入院した方がいいよ。事情を知ってる人たちの前なら、まだ気も楽でしょ? 騒ぎにしたくないなら、ディア兄ちゃんやミゲルには、レイミヤで普通に仕事してるって言っとくからさ。」


「………っ!!」


 苦笑混じりにキリハがジョーにそう言うと、ケンゼルたち三人が目をまんまるにして固まった。


「キリハ……お前さん、まさか……」
「うん。この人が、こうなっちゃっても仕方ないだって話は聞いた。」


 病室の全員が全てを知っているとは限らないので、あえてぼかした物言いにする。
 すると、これまた意外そうな表情と視線がジョーに集まる。


「おいおい……」
「これまた、どうして……」


「……仕方なかったんですよ。発作にやられてる隙にうっかりまでやらかして、この子に気付かれちゃったんです。あの時の僕には、しらを切り通す余裕もなかったし……」


 かなり気まずそうなジョー。
 そんな彼をしばらく見つめていたケンゼルとオークスは……




「キリハ、よくやった!」




 がっしりとキリハの両手を掴み、拝み倒す勢いで彼に詰め寄った。


「え…? よくやったって…?」


「言うまでもなく、この頑固者に亡霊を認めさせたことだよ!」
「この十五年で初めてのことじゃ! やはりお前さんは見所があるわい!」


 本当に嬉しそうな二人。


 ジョーの話には最初からこの二人の名前が出ていたし、二人の顔を見ていると、彼らがかなり長い付き合いなのが分かる。


「愛されてるね。」
「……みんな揃って、過保護なだけだよ。」


 素直に感じたことを告げると、ジョーはねたような顔でそっぽを向く。
 どうやら、心配されまくっているのが気に食わないようだ。


 真実を知る人が少ないからこそ、強い絆で成り立っている世界。
 その中に入れてもらえた嬉しさを感じながら、キリハはケンゼルたちに笑いかけた。


「お礼を言うのは、俺の方だよ。ジョーの話を聞けて、俺はすごく救われたから。」


 そう言ったキリハの瞳に、少し複雑そうな感情が揺れる。


「正直、今はさ……良い子の模範解答なんて、聞きたくなくて……」


 物悲しい気分で本音を零すと、途端にケンゼルもオークスも表情を曇らせた。
 しかし、キリハは笑顔を絶やさない。


「でもね、ジョーが俺の気持ちをそのまんま聞いてくれたから、一気に軽くなって……ちょっと、立ち直れた。俺が何も言えなくなったら、ジョーがこれまでの仕返し話をしてくれたりして……あまりにも容赦がないんだけど、相手が自業自得すぎるのが面白くて! 朝になるまで、思いっきり泣いて、思いっきり笑わせてもらえた。」


「………」  


 キリハの話を聞いたケンゼルとオークスは、目を点に。


 世にも奇妙なことが起こったもんだ。
 そう言いたげな二人の視線が、まっすぐにジョーへと向けられる。


「てっきりその役目は、ディアか孤児院のおばあさん辺りがやるかと思っておったのに、まさかのお前さんかい。」


「その悪魔節も、健全な意味で役立つ時があるんだな。」


「言い方。」


 ばっちりと点滴を打たれながら、ジョーがいがむようにきつい視線を二人に向ける。


「ジョーだから言えたんだよ。本当に助けられたんだから。」


 キリハが笑うと、ケンゼルとオークスも小さく微笑む。


 穏やかになりかけた病室。
 それを打ち壊したのは、小さなノックの音だった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...