440 / 598
第7章 救われた命の代償
依存と紙一重の好意
しおりを挟む「おい。」
夜の暗がりに沈む廊下を歩いていると、その途中でルカが待ってくれていた。
「お前、今夜はどうすんだ? レイミヤに帰るのか?」
「いや…。電車はもうないし、車を運転する気力もないし、それに……」
今しがた歩いてきた廊下を振り返るキリハは、切なげに目元を歪める。
「アルシードがあんな状況で……ここを離れたくない。」
それが、今はレイミヤに帰りたくない一番の理由。
「お前、いつの間にあの真っ黒野郎とそこまで仲良くなってたんだ?」
「真っ黒野郎って……ルカ、相変わらずあだ名が乱暴だよ。」
「でも、事実じゃねぇか。」
「……まぁ、そうだけどね。」
〝真っ黒〟
その言葉を脳裏でなぞりながら、キリハは苦しい胸を握る。
「だからだよ。真っ黒になって、救われないまま復讐のために生きてきた人だから……現金かもしれないけど、ディア兄ちゃんよりも大好きになっちゃった。」
「それ……お前の中で、ほとんど一番じゃねぇのか? なんでまた……」
これには本気で驚いたのだろう。
ルカが純粋な驚きで瞼を叩いた。
「悪い? だって俺、ずっと我慢してるだけで……ユアンが止めてくれなかったら、とっくにアルシードと同じになってたよ。」
「!!」
途端に強張るルカの表情。
それを無感動に眺めていたキリハは、ふいに視線をそこから逸らす。
ルカになら、まだ話せるか。
月明かりに半身を照らされながら、キリハが見つめるのは闇の方。
「いいじゃん。焔の炎で、人間を裁いたって。焔が暴走してるのを見て……そう思っちゃったんだ。そんな俺を真正面から認めてくれるのは……家族を殺されてる、アルシードだけだよ。」
『今の君が、人間を信じられなくなる気持ちは分かる! だけど、それは君が本当に望むことではないはずだ!! 一時の感情に盲目になって自分を殺した子がどうなるか…っ。僕は、君にまでそうなってほしくない!!』
自分を止めに来たユアンの言葉。
今なら、あれがアルシードのことを言っていたんだと分かる。
だけど……
「止められるわけないじゃん。許せるわけないじゃん。さすがに俺も……そこまで優しくはなれない。」
「………」
「よくない考えだってのは分かってる。こんな気持ちですがりついちゃだめだって。でも……今の俺は、アルシードが傍にいてくれなきゃやだ。」
傷ついて痛くてたまらないところに与えられた、とびきり甘く感じる鎮痛剤。
兄の仮面の下にいた彼は、自分にとってまさにそれだった。
たとえそれが紙一重で麻薬だったとしても、今さらもう薬を飲む前には戻れない。
「アルシードは、俺の本音を笑って受け入れてくれたんだもん。朝になるまで、ずっと話に付き合ってくれた。他の話なら、いくらでも話せる人がいるけど……この真っ黒な気持ちだけは、アルシードとしか分かち合えない。そんな人を、失いたくないよ。」
君の復讐心なんて、まだまだ可愛い。
ちょっと見下すように笑い捨てながら、アルシードは自身がどうやって裏の世界を生き抜いてきたのかを話してくれた。
裏の世界には、まともな法律なんてないから。
あらかじめそう前置きはされたけど、言葉も出なくなるほどにえげつない。
確かに自分が可愛いレベルに思えるくらい、非道な人間ばかりがごろついていること。
呆気に取られてドン引きしながらも、彼の話を聞くのは楽しかった。
そして、嬉しかった。
〝周りはもっとどす黒い闇ばかりなんだから、そんな可愛い闇くらいは、恥じるものでもなんでもない。〟
あれはアルシードだから贈ることができる、最上級の慰めだったのだから。
「……そうか。」
しばらくの沈黙の後、ルカは静かにそう言うだけだった。
ここは、否定も肯定もするべきじゃない。
人間に対する憎しみに同意はできるけど、理不尽に奪われた家族に二度と会えない苦しみには、共感するのも限界があるから。
彼が思っているのは、そんなところだろうか。
ルカなりの優しさを感じて、キリハは微かに口の端を上げた。
「そういうことなら、オレんとこに泊まりに来い。」
やれやれと息をついたルカは、次にそう提案してくる。
「いいの?」
「他にどこに行く気だったんだ? もう家には話してある。今頃お袋が、超ご機嫌でご馳走を作ってるよ。」
「え、なんで…?」
「知らん。それに、最近シアノもよく泊まりに来てるから、あいつにも顔を見せてやれ。」
「シアノが?」
「別に変なことじゃねぇだろ? こう言うのもむず痒いが、あいつはオレが大好きじゃねぇか。兄さんのことでごたついてる時に、オレが心配だって病院まで来たから、それからよく泊めてるんだよ。」
「なるほどね。」
なんとも想像しやすい流れだ。
シアノにほだされて、ルカもシアノをかなり可愛がっているみたい。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおっと♪」
「おーおー。さっさと来い。」
指でくいっと進行方向を示したルカは、こちらを先導して歩き出す。
「オレも、ちょうどお前に渡したいもんがあるからな。」
振り返り様、そんなことを言いながら―――
0
あなたにおすすめの小説
雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~
朽縄咲良
ファンタジー
――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」
魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。
残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。
だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。
――そして、二十分後。
不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。
シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。
「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」
『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!
哀れな魔王の、明日はどっちだ……?
(表紙イラストは、ペケさんから戴きました)
*小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~
蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。
情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。
アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。
物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。
それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。
その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。
そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。
それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。
これが、悪役転生ってことか。
特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。
あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。
これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは?
そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。
偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。
一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。
そう思っていたんだけど、俺、弱くない?
希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。
剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。
おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!?
俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。
※カクヨム、なろうでも掲載しています。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる