504 / 598
第6章 最後の戦いへ
リュドルフリアと同じで―――
しおりを挟む
レティシアの回し蹴りが炸裂して、地響きを伴う大きな音が鳴る。
そこで、少しの膠着状態が訪れた。
「……今後のことについて、ロイリアともよく話したわ。」
呟くように告げるレティシア。
その体から、ポツポツと血が滴り落ちていく。
周囲の状況もひどいもので、多くの木々は薙ぎ倒されて、山肌が剥き出しになっている部分もある。
必死に地面を駆けていく動物たちの中には、この戦いの余波を食らって、すでに命を潰えているものもいた。
「こんなにキリハたちと仲良くなってもね……いずれ、あの子たちは私たちより先に死んでいくのよ。それを見送った後は、どんなに寂しくて物足りなくても、キリハたちがいない時間を生き続けなきゃいけないの。そう言った時、ロイリアは泣きに泣いて、嫌だって喚いて……最後には、それでもいいって笑った。」
これまで力強かったレティシアの声が、そこで覇気をなくす。
「それでもいいから、今はキリハたちと一緒にいたいんですって。失っても寂しさを乗り越えられるように、楽しい思い出をたくさん作っておきたいって。……でも、私には自信がないわ。」
震えた声に滲むのは、涙だったように思う。
「私は、リュード様と一緒で……行かないでって、そう願ってしまう気がする。ここまで可愛がった子に先立ってほしくない。私の寿命でもなんでもあげるから、最後の時まで一緒にいてほしいって……いざ旅立ちを見送る時になったら、そう祈ってしまう気がするの。」
「レティシア……」
ここに来て知る、レティシアの苦悩。
今が戦いの最中だということも忘れて、キリハは《焔乱舞》を下げてしまった。
「人間って、本当に厄介ね。いつ死んでもおかしくないのに、どうしてこんなにも一つひとつの存在を大切にしてしまうのかしら。でも……生きる時間が圧倒的に短いからこそ、どんな命でも真剣に救おうとするんでしょうね。ロイリアを救おうとしている人間たちを見て、そう思ったわ。誰かと共にいられる時間に限りがあるからこそ、人間は必死に輝くんだわ。まるで流れ星ね。」
そこで、ハッと一笑するレティシア。
「私も馬鹿よ。三百年前まではあんなに人間と距離を置いていたのに、キリハには気を許しちゃったんだから。でも……仕方なくない? 目覚めたら、ロイリアと一緒に殺されるって覚悟してたのに……―――あの子ったら、人間じゃなくて私たちをかばったのよ?」
レティシアの視線が、キリハに流れる。
「私たちを救おうと仲間たちと対立して、私たちのために本気で泣いて、私たちを信じたいって言った。あの時……リュード様がユアンに〝友として同じ世界を見よう〟って言われた時の感動が分かった気がした。そしてその時に、私はあんたと違うんだってはっきりと分かったわ。」
一度瞑目したレティシアの眦から、一筋の涙が零れる。
「レクト。あんたにとってのリュード様は、私にとってのロイリアよ。離れないで傍にいてほしい、一人にしてほしくない。そう思う気持ちには同意するわ。」
「………」
「でも、私は―――ロイリアがキリハと絆を深めることを、心の底から嬉しく思う。」
「―――っ!? な、なぜ…っ」
「それが、ロイリアを幸せにしてくれるから。そして、幸せなロイリアを見られて、私も幸せになれるから。ただそれだけよ。」
はっきりとそう告げたレティシアの声は、深い慈愛と幸福に満ちていた。
でも、今の状況で聞くその言葉は、まるで別れの覚悟を決めた言葉のようにも聞こえてしまって―――
「待ってよ!!」
思わず、口を挟まずにはいられなかった。
「レティシア! ロイリアだけみたいな言い方しないでくれる!? 俺はロイリアだけじゃなくて、レティシアとも絆を深めていきたいよ!! 特別な人が一人だけなんて、誰も決めてないからね!?」
「分かってるわよ。」
焦ったようなキリハの言葉に、レティシアは笑みを含んだ声でそう言う。
「あんたが私を頼りにしてくれてるのは知ってる。大事に思ってくれてることも知ってる。だから私も、あんたが可愛いのよ。」
「レティシア……」
「私もちゃんと、キリハが好きよ。ロイリアと一緒で、まだまだ知らないことばかりの可愛い子。なんだったら、今度から私のことを〝お母さん〟って呼んでもいいわよ?」
最後に茶目っ気を含めてウインクをしたレティシアは、翼を大きくはためかせて臨戦態勢を整える。
「……いっそのこと、ユアンに初めて出会ったのがあんただったなら、未来は変わっていたかもしれないわね。」
誰にも聞こえない声で呟いたレティシアは、一瞬だか浮かんだ憂いをすぐに引っ込める。
「さてと…。そういうわけで、私はロイリアを不幸にしようとするあんたが心底憎いのよ。ドラゴンとか人間とか、そんなの関係なくね。」
「………っ」
「無駄話もこれでおしまい。お互いに満身創痍だし、そろそろ決着をつけましょうか。」
目元を険しくしたレティシアは、最速を出してレクトへと襲いかかった。
そこで、少しの膠着状態が訪れた。
「……今後のことについて、ロイリアともよく話したわ。」
呟くように告げるレティシア。
その体から、ポツポツと血が滴り落ちていく。
周囲の状況もひどいもので、多くの木々は薙ぎ倒されて、山肌が剥き出しになっている部分もある。
必死に地面を駆けていく動物たちの中には、この戦いの余波を食らって、すでに命を潰えているものもいた。
「こんなにキリハたちと仲良くなってもね……いずれ、あの子たちは私たちより先に死んでいくのよ。それを見送った後は、どんなに寂しくて物足りなくても、キリハたちがいない時間を生き続けなきゃいけないの。そう言った時、ロイリアは泣きに泣いて、嫌だって喚いて……最後には、それでもいいって笑った。」
これまで力強かったレティシアの声が、そこで覇気をなくす。
「それでもいいから、今はキリハたちと一緒にいたいんですって。失っても寂しさを乗り越えられるように、楽しい思い出をたくさん作っておきたいって。……でも、私には自信がないわ。」
震えた声に滲むのは、涙だったように思う。
「私は、リュード様と一緒で……行かないでって、そう願ってしまう気がする。ここまで可愛がった子に先立ってほしくない。私の寿命でもなんでもあげるから、最後の時まで一緒にいてほしいって……いざ旅立ちを見送る時になったら、そう祈ってしまう気がするの。」
「レティシア……」
ここに来て知る、レティシアの苦悩。
今が戦いの最中だということも忘れて、キリハは《焔乱舞》を下げてしまった。
「人間って、本当に厄介ね。いつ死んでもおかしくないのに、どうしてこんなにも一つひとつの存在を大切にしてしまうのかしら。でも……生きる時間が圧倒的に短いからこそ、どんな命でも真剣に救おうとするんでしょうね。ロイリアを救おうとしている人間たちを見て、そう思ったわ。誰かと共にいられる時間に限りがあるからこそ、人間は必死に輝くんだわ。まるで流れ星ね。」
そこで、ハッと一笑するレティシア。
「私も馬鹿よ。三百年前まではあんなに人間と距離を置いていたのに、キリハには気を許しちゃったんだから。でも……仕方なくない? 目覚めたら、ロイリアと一緒に殺されるって覚悟してたのに……―――あの子ったら、人間じゃなくて私たちをかばったのよ?」
レティシアの視線が、キリハに流れる。
「私たちを救おうと仲間たちと対立して、私たちのために本気で泣いて、私たちを信じたいって言った。あの時……リュード様がユアンに〝友として同じ世界を見よう〟って言われた時の感動が分かった気がした。そしてその時に、私はあんたと違うんだってはっきりと分かったわ。」
一度瞑目したレティシアの眦から、一筋の涙が零れる。
「レクト。あんたにとってのリュード様は、私にとってのロイリアよ。離れないで傍にいてほしい、一人にしてほしくない。そう思う気持ちには同意するわ。」
「………」
「でも、私は―――ロイリアがキリハと絆を深めることを、心の底から嬉しく思う。」
「―――っ!? な、なぜ…っ」
「それが、ロイリアを幸せにしてくれるから。そして、幸せなロイリアを見られて、私も幸せになれるから。ただそれだけよ。」
はっきりとそう告げたレティシアの声は、深い慈愛と幸福に満ちていた。
でも、今の状況で聞くその言葉は、まるで別れの覚悟を決めた言葉のようにも聞こえてしまって―――
「待ってよ!!」
思わず、口を挟まずにはいられなかった。
「レティシア! ロイリアだけみたいな言い方しないでくれる!? 俺はロイリアだけじゃなくて、レティシアとも絆を深めていきたいよ!! 特別な人が一人だけなんて、誰も決めてないからね!?」
「分かってるわよ。」
焦ったようなキリハの言葉に、レティシアは笑みを含んだ声でそう言う。
「あんたが私を頼りにしてくれてるのは知ってる。大事に思ってくれてることも知ってる。だから私も、あんたが可愛いのよ。」
「レティシア……」
「私もちゃんと、キリハが好きよ。ロイリアと一緒で、まだまだ知らないことばかりの可愛い子。なんだったら、今度から私のことを〝お母さん〟って呼んでもいいわよ?」
最後に茶目っ気を含めてウインクをしたレティシアは、翼を大きくはためかせて臨戦態勢を整える。
「……いっそのこと、ユアンに初めて出会ったのがあんただったなら、未来は変わっていたかもしれないわね。」
誰にも聞こえない声で呟いたレティシアは、一瞬だか浮かんだ憂いをすぐに引っ込める。
「さてと…。そういうわけで、私はロイリアを不幸にしようとするあんたが心底憎いのよ。ドラゴンとか人間とか、そんなの関係なくね。」
「………っ」
「無駄話もこれでおしまい。お互いに満身創痍だし、そろそろ決着をつけましょうか。」
目元を険しくしたレティシアは、最速を出してレクトへと襲いかかった。
0
あなたにおすすめの小説
雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~
朽縄咲良
ファンタジー
――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」
魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。
残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。
だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。
――そして、二十分後。
不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。
シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。
「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」
『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!
哀れな魔王の、明日はどっちだ……?
(表紙イラストは、ペケさんから戴きました)
*小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる