竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
530 / 598
【番外編1】ディアとカレンのイタズラ計画

早朝、カフェテリアにて……

しおりを挟む
 それは、とある早朝の出来事だった。


 いつもより早く起きてしまった朝。


 特にすることもなかった自分は、深く考えるわけでもなく、カフェテリアに向かった。


 宮殿本部にあるカフェテリアは、朝の五時から営業している。


 早朝から仕事が始まる人であったり、夜勤明けの人だったり、一般的な生活リズムに当てはまらない人に食事を提供するためだ。


「あれ…?」


 カフェテリアに入ったカレンは、目を丸くする。


 人がまばらなカフェテリア。
 その中に、知っている人物を見つけたのだ。


「お師匠さん?」


 近寄って声をかけると、そこで新聞を読んでいたディアラントが顔を上げた。


「あら。おはよう。」


 向こうも、自分と会ったことが意外だったらしい。
 翡翠ひすい色の瞳がまんまるになっていた。


「おはよう。いつもこんな早くから起きてるの?」


 向かいの席に座りながら訊ねると、ディライトは折り畳んだ新聞をテーブルの上に置いた。


 そして、丁寧にこちらに向かい合ってくる。


「そうだな。大体いつもかなぁ~。昔から畑仕事か朝練かで、日が昇る前に起きるのが普通だったもんで。多分キリハも、もう起きてるんじゃないかな?」


「そうなんだ。というか、複雑な立場のくせに、よくこんな人が集まる所でくつろげるわね。」


 これでは、どうぞいつでも襲ってくださいと言っているようなものだ。


 複雑に顔をしかめるカレンだったが、一方のディアラントはけろっとした様子。


「平気じゃなーい? 宮殿にいる奴なら、粗方あらかた返り討ちにした後だし。」


 言うことがこれである。


「さすが、大会四連覇の剣豪は一味も二味も違うわねぇ……」


 規格外にも程がある。
 キリハがあんなに常識外れなのも納得だ。


「そういうカレンちゃんは、なんで一人でこんな所に来たんだ?」
「別に理由なんてないでーす。」


 両手で頬杖をつき、カレンは少し寂しげに微笑んだ。


「あたし、本当は好きなんだよね。こういう、人が多い所にいるの。宮殿に来る前も、フードコートやファミレスによく行ってたわよ。なんかこう、人がざわざわしてる雑多な音が好きっていうか。」


「あー、なんとなく分かるなぁ。」
「ほんと?」


 ディアラントがうんうんと同意してきたので、カレンは小さな笑い声をあげた。


「みんなは危ないからやめなって言うんだけど、実際はそうでもないのよねー。人が多すぎると、大体の人は周りの目を気にして、逆に大人しいもの。下手に揉め事を起こして、警察に通報されるのも嫌だしね。竜使いだって気付かれても、ちょっと煙たい目を向けられるくらいよ。」


 言いながら、やっぱり胸がすかすかとしてしまう。


 本当は昔から、たくさんの人に囲まれていたかった。


 友達だってもっといっぱい欲しかったし、遊園地やコンサートにも行ってみたいと思っていた。


 でも、竜使いということが足を引っ張って、夢は夢のままで実現しなかった。


 まあ、所詮はこんなものか。


 そう思って、特に悲嘆も期待もせずに今まで生きてきた。
 だから正直、キリハのことはかなりうらやましい。


 あんな風に他人と自然に距離を縮めることは、もう自分にはできないから……


「うーん……」


 ディアラントはうなりながら、こちらをまじまじと見つめている。
 それが気になって、カレンは小首を傾げた。


「……どしたの?」
「いやぁ、もったいないなぁーって。」


「何が?」
「オレだったら、カレンちゃんが一人でいたら絶対にナンパする。」


 キラーンと光るその両目。


「………」


 今さら、彼の規格外発言には驚きもしないけども。
 この人は、真顔で何を言っているのだろう。


(ほんと……この人って、竜使いへの偏見が綺麗にないのよね……)


 しみじみと思う。


 出会った最初は、彼が偏見なく付き合っている竜使いは、キリハとターニャだけかと思っていた。


 しかし、すぐに分かった。


 昔から一緒だったからとか、危ないところを助けてもらったからとかじゃない。
 彼にはそもそも、竜使いだから嫌うという発想自体がないのだと。


 今だってディアラントは、新聞を読む片手間に話を聞くのではなく、きちんと真正面からこちらの話に耳を傾けてくれている。


 注がれる視線は純粋に澄んでいて、嫌な感情を何一つ感じさせない。


 本当に、珍しい人だと思う。


 こちらの沈黙を、どういう意味にとらえたのだろう。
 ディアラントが、こほんと咳払いをした。


「ごめん、今の忘れて。ルカ君に殺されそうだから。」
「それこそ何言ってんのよ。」


 今度は即で突っ込んでしまった。
 しかし、ディアラントは大真面目にそう言ったようだった。


「えー…。ルカ君だったら、やりそうだけどなぁ……」


 腕を組んで、眉を寄せるディアラント。


「だってあの子、キリハと真逆で警戒心の塊じゃない。オレだって、未だにちょっと警戒されてるし。そんなルカ君が、カレンちゃんは懐に入れてるわけでしょ? それだけ、カレンちゃんを大事に思ってるってことなんじゃない?」


「まあ……そこは否定しないけど。」


「でしょー? 悪意だろうとナンパだろうと、カレンちゃんに手を出す奴は軒並み成敗しそうだよ。」


「そうかなぁ…?」


 ぽつりと呟いたカレンは、数秒の無言の後……


「そうかなあぁ~♪」


 思いっきり笑み崩れた。


「ええぇ~? あのルカがぁ~?」


「絶対にそうだって。キリハから聞いたんだけど、一度は死ぬのを覚悟で、カレンちゃんをドラゴンから守ったんでしょ?」


「そうなのよぉ~。あの時のルカ、ほんっとにかっこよかったぁ~♪」


「ほらぁ~。やっぱりルカ君、カレンちゃんのことが好きなんじゃ~ん。」


「えへへぇ~…」


 カレンはにやにや。
 それを煽るディアラントもにやにやである。


 そこからしばし、カレンの惚気のろけトークに花が咲いた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...