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【番外編2】嵐との出会い
第2の嵐 様子がおかしい後輩
しおりを挟む「もう、ミゲルったら!」
「……ああ?」
肩を叩かれ、おれはふと我に返った。
「さっきは僕が悪かったって。だから、そんなに怖い顔して歩かないでよ。さっきから、アイロス君が萎縮してるよ?」
呆れたように息をつくジョーの隣には、肩を縮ませて居心地悪そうに視線を右往左往させる後輩が一人。
「おお…。わりい、考え事してた。」
「いえ、大丈夫です。俺がなんかやばいことでもやらかしたのかと、ひやひやしましたけど……」
青い顔で、アイロスは胃を押さえている。
こんな性格で、よくこの大学に入れたもんだ。
苦労体質、押し付けられ係とでもいうべきか、アイロスは基本的に断るということができない奴だ。
何か問題が起こるとすぐに自分に原因があるのではと疑うせいか、普段からよく胃痛と戦っている。
今回おれたちに同行しているのも、引き継ぎの意味も含めて誰かついてこいというおれの指示をめんどくさがる他の空気を無視できず、仕方なしに立候補してきたという流れである。
このままだと、調子よく持ち上げられてずるずる流されるまま、こいつが次期委員長になるのだろう。
おれは今の時点で、ほぼそう確信している。
ジョーがもう一つ溜め息を吐き出し、肩を落とす。
「まったく…。ミゲルって、本当に無愛想だよね。笑えば結構親しみやすい顔してるのに、もったいない。」
「うるせぇ、ほっとけ。」
おれの表情は、もう変わりようがないのだ。
愛想をふりまくことも、それこそ笑うことすら忘れた。
そんな器用な立ち回り方ができたなら、きっと今頃もっと気楽に生きている。
「それより、今日はこんなもんか?」
話を引きずられるのも嫌なので、さっさと話題を変える。
すると、ジョーもすぐに頭を切り替えて書類をめくり始めた。
この切り替えの早さとあっさりさが、こいつと一緒にいてもいいかと思える大きな理由だ。
「うん、こんなもんかな。感触はどう?」
「ピンとこねぇな。」
素直な感想を一言。
午前中は推薦入試成績上位の新入生の実技授業を見学し、放課後の今は課外活動の様子を見てきたところ。
しかし、おれたちの代が優秀だという色眼鏡を外したとしても、やはり目を引く奴はいなかったのだ。
「そうだねぇ……」
どうやら、ジョーも同じ感想を持っていたらしい。
彼は言葉を探すように唸り、ふと視線をアイロスへと向けた。
「アイロス君は、どう思った?」
「へっ!?」
まさか、自分に話を振られるとは思っていなかったのだろう。
アイロスが大袈裟なほどに狼狽しながら、慌てて口を開いた。
「ええっと……せ、先輩方の言うとおりじゃないかと思いますよ。どうしても選ばなきゃいけないとなると……今日見た新入生からは、この子とかこの子とかが妥当……でしょうか?」
ジョーが持つ書類を覗き込み、アイロスは何人かの顔写真を指差す。
こんな頼りない性格であるが、人を見る目と空気を読む力は人一倍あるアイロスだ。
おれは少し感心する。
アイロスの人選は的確だった。
今日見た新入生の中でも比較的優秀な人間を抽出し、なおかつおれが気に食わんと思った奴をきっちり省いている。
「そうだね、妥当だと思うよ。この子とかは腕はまあよかったけど、露骨にゴマ擦ってきたしね。」
おれが内心で気に食わんと思っていた新入生の内の一人を差し、ジョーがその答えを述べる。
卒業後の進路を保証される、学生代表委員会の存在。
そして、戦国世代の〝覇王〟と〝君子〟たるおれたちが、今の委員会を取り仕切っていること。
ちょっとのコネと悪知恵があれば、すぐに知れることだ。
少しでも早く足場を固めたいと思っている新入生は、おれたちに取り入ろうと必死だった。
そんな下心丸見えな奴らを推薦するほど、おれもジョーも愚かではないが。
「そ、それよりですね……」
アイロスが話を切り上げ、何かを言いたげにジョーを見上げた。
流され気質のアイロスにしては、珍しい行動だ。
「そろそろ、委員会室に戻りません? 俺、明日までのレポートが結構あるんですよね、あはは…。そ、それにこっちはもう、研究専攻棟ですよ。研究専攻を見に行くのは、明後日でしたよね?」
この大学は入学した後、技術専攻と研究専攻の二つから専攻科目を選択することになっている。
それぞれの専攻で必要な施設が異なるので、どちらを専攻するかで主に活動する建物も変わるのだ。
おれたちが今いるのは、技術専攻棟と研究専攻棟の間に位置する渡り廊下だった。
そんな大学の都合はともかく……
おれはアイロスをじっと見つめる。
本人もこれで必死なのだろうが、なんとまあ嘘をつくのが下手なことか。
真面目を絵に描いたようなこいつが、前日までレポートを溜め込むことなどまずありえないというのに。
「あれれー? アイロス君も、レポートを溜めることがあるんだ。珍しいねー。」
ジョーが爽やかな笑顔を浮かべた。
「それとも……なーんか、僕たちに今日研究専攻棟に行かれるとまずい理由でもあるのかなぁー?」
「へっ!? い、いや、まさかー……」
確信犯だ、こいつは。
ジョーは、引くほどの笑顔でアイロスを追い詰めていく。
おれには何がどうなっているのか分からないが、どうやらジョーにはアイロスから引き出したい情報があるようだ。
ああなったジョーは、おれでも止められない。
仕方なく、おれは二人の話に決着がつくまで気長に待つことにした。
ちょうどその時のことだ。
件の研究専攻棟の方から、賑やかな声が聞こえてきたのは。
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