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【番外編2】嵐との出会い
第11の嵐 〝直接見たくなった〟
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駅の喧騒が、やけに遠く聞こえる。
駅の改札口に吸い込まれていき、そして吐き出されていく人々。
おれはそれを、ぼうっと見つめていた。
何をこんなにイライラしているのだろう。
自分は自分、他人は他人と割り切ったのは随分と前のことだったはずなのに。
他人と比べて自分を嫌うのはやめたはずなのに。
それなのに、なんでここに立つおれは、こんなにも自己嫌悪に苛まれているのだろう。
あいつに会えば、このよく分からない不快感にも答えが出るのだろうか…?
自分でもいまひとつ理解が及ばないまま、おれは改札口を出入りする人々を見つめ続けていた。
そうしてしばらく待っていると、おれが呼び出したそいつが人混みに紛れて改札口から出てくるのが見えた。
そいつはきょろきょろと周囲を見回し、おれに気付くと無邪気な笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。
「すみません、お待たせしました。」
「いや、気にすんな。呼び出したのはおれだしな。とりあえず、飯でも食いに行くか。」
「わーい。オレ、腹ペコなんですよー。」
おどけた口調で腹をさするディアラントを引き連れ、おれは適当に見繕った店に入る。
電話で呼び出したのが昨日。
昨日の今日でフィロアまで出てくるのだから、随分とフットワークが軽いことだ。
こいつの故郷のレイミヤといったら、電車を使っても移動に二時間以上はかかるド田舎らしいが。
「それにしても、夏休みにミゲル先輩からお誘いを受けるとは思いませんでしたよ。なんかあったんですか?」
「まあ、ちょっとした野暮用に付き合ってもらおうと思ってな。」
「野暮用?」
「その時になったら話すわ。忙しかったのか?」
「全然? やることも特になくて、近所の子供と遊んでたくらいなんで。あ、そうそう! 前に話したオレのお気に入りなんですけどね、この間久々に相手をしてやったら、また剣の腕を上げててー……」
緩い表情でペラペラとしゃべり出すディアラントの話を、おれは意識半分で聞き流していた。
―――どうしておれは、ディアラントを呼び出したのだろう。
実のところ、ディアラントをこうして引っ張り出した理由は、おれ自身にもよく分かっていなかった。
衝動的に携帯電話を手に取り、衝動的にディアラントへと電話をかけていた。
今にして思い返せば、約束を取りつけるまでの間、よく冷静な口調を保てたものだ。
おれは、こいつから何を見出だしたいのだろうか。
どうして本当の力を隠していたのかと問うことは簡単だ。
なんなら、この場で問い詰めたっていい。
だが、何故かおれの心はそれをしようとはしない。
おれの中で、こいつに対する行動は不思議なほど明確に決まっていた。
―――それをして何になる?
もう一人の自分が問うてくる。
ディアラントを問い詰めたところで、その答えを得たところで、果たしてどんな意味がおれにあるというのか。
おれは何を求めているのか。
ディアラントを直接前にしてなお、おれにはそれが分からなかった。
「ふぅ、ご馳走様でした! この後どうするんですか?」
「まあついてこいよ。」
店を出た後、おれはディアラントを連れて駅に戻った。
首を捻るディアラントを完全に無視して改札を抜け、電車に乗って二駅移動。
到着した駅から十分ほど歩いて辿り着いたのは、町中にある一つの道場だ。
「ここは?」
「おれが高校生の時まで通ってた道場。今日は貸し切りにしてもらった。」
「ふーん……」
物珍しそうに道場を見上げるディアラントを横目に、おれはあらかじめ借りておいた鍵でドアを開ける。
ディアラントと共に中に入ってきっちり鍵を閉め、普段は開け放している内扉も閉めて、そこにも鍵をかける。
「よく手入れされてますけど、すごい古い道場ですね。」
「まあな。ここの先生も、もうかなりじいちゃんだから。」
ディアラントの感想に適当な相づちを打ちつつ、おれは道場の端に寄って作業を始める。
「おい、ディア!」
おれは、手に取ったそれをディアラントに向かって投げた。
それがディアラントの手に収まる一歩手前で、おれは無言で床を蹴る。
「おっと……なんです、急に―――っ!?」
ディアラントの言葉が途切れる。
それも当然だ。
ディアラントが剣を手にした時のおれは、すでにディアラントに向かって剣を振りかざしていたのだから。
ディアラントは受け取った剣を素早く構え、迫っていたおれの剣を受け止めてさっと身を引く。
「はっ、なるほどな。」
おれは短く吐き捨てた。
今の一撃で十分だ。
普通なら、あのタイミングで襲ってきた剣など、かすり傷を受けてでもギリギリで避けられれば立派な方だろう。
それを、ディアラントはきちんと受け止めてみせた。
それだけで、こいつの剣の腕が並外れていることが分かる。
「まんまと騙されたぜ、まったくよ。」
「……あーらら。ここに連れてこられた時点でなんとなく察してはいたんですけど、どこで知ったんです? 根回しは、抜かりなかったはずなんですけどね。」
ディアラントはあっさりと認めた。
食えない奴だ。
自分に注目が向かないように細心の注意を払っておきながら、ばれたらばれたで嘘を貫き通すことはしないなんて。
なんなんだ。
こいつに漂うこの余裕は。
「………誰にも言うつもりはねぇよ。」
急激に膨らんでいく、劣等感を伴った不快感。
それを全身で感じながら、おれは極力衝動を抑えて口を開いた。
そんなおれの言葉を聞いたディアラントは、意外そうな顔で目をまんまるにしている。
「なんでわざわざ、ここまで連れてきたと思ってやがる。ばらすつもりなら、大勢の前で化けの皮を剥がしてやってるよ。」
「じゃあ、先輩の目的は何なんですか?」
ディアラントは不思議そうな顔でおれを見ている。
正直、それを訊かれるとおれにも答えようがない。
こうしてディアラントに剣を向けているのも、半分以上が衝動的なのだ。
ただ……
「お前の本当の剣を、直接見たくなった。」
その思いが、おれの中にわだかまっているだけで。
「………」
ディアラントはおれのその言葉に、何故かひどく驚いたような顔をした。
しばし黙り込んでじっとおれを見つめ、次にゆっくりとおれから投げられた剣に目を落とす。
「―――分かりました。いいですよ。」
ふと、その唇が笑みの形を作る―――
駅の改札口に吸い込まれていき、そして吐き出されていく人々。
おれはそれを、ぼうっと見つめていた。
何をこんなにイライラしているのだろう。
自分は自分、他人は他人と割り切ったのは随分と前のことだったはずなのに。
他人と比べて自分を嫌うのはやめたはずなのに。
それなのに、なんでここに立つおれは、こんなにも自己嫌悪に苛まれているのだろう。
あいつに会えば、このよく分からない不快感にも答えが出るのだろうか…?
自分でもいまひとつ理解が及ばないまま、おれは改札口を出入りする人々を見つめ続けていた。
そうしてしばらく待っていると、おれが呼び出したそいつが人混みに紛れて改札口から出てくるのが見えた。
そいつはきょろきょろと周囲を見回し、おれに気付くと無邪気な笑顔を浮かべて駆け寄ってくる。
「すみません、お待たせしました。」
「いや、気にすんな。呼び出したのはおれだしな。とりあえず、飯でも食いに行くか。」
「わーい。オレ、腹ペコなんですよー。」
おどけた口調で腹をさするディアラントを引き連れ、おれは適当に見繕った店に入る。
電話で呼び出したのが昨日。
昨日の今日でフィロアまで出てくるのだから、随分とフットワークが軽いことだ。
こいつの故郷のレイミヤといったら、電車を使っても移動に二時間以上はかかるド田舎らしいが。
「それにしても、夏休みにミゲル先輩からお誘いを受けるとは思いませんでしたよ。なんかあったんですか?」
「まあ、ちょっとした野暮用に付き合ってもらおうと思ってな。」
「野暮用?」
「その時になったら話すわ。忙しかったのか?」
「全然? やることも特になくて、近所の子供と遊んでたくらいなんで。あ、そうそう! 前に話したオレのお気に入りなんですけどね、この間久々に相手をしてやったら、また剣の腕を上げててー……」
緩い表情でペラペラとしゃべり出すディアラントの話を、おれは意識半分で聞き流していた。
―――どうしておれは、ディアラントを呼び出したのだろう。
実のところ、ディアラントをこうして引っ張り出した理由は、おれ自身にもよく分かっていなかった。
衝動的に携帯電話を手に取り、衝動的にディアラントへと電話をかけていた。
今にして思い返せば、約束を取りつけるまでの間、よく冷静な口調を保てたものだ。
おれは、こいつから何を見出だしたいのだろうか。
どうして本当の力を隠していたのかと問うことは簡単だ。
なんなら、この場で問い詰めたっていい。
だが、何故かおれの心はそれをしようとはしない。
おれの中で、こいつに対する行動は不思議なほど明確に決まっていた。
―――それをして何になる?
もう一人の自分が問うてくる。
ディアラントを問い詰めたところで、その答えを得たところで、果たしてどんな意味がおれにあるというのか。
おれは何を求めているのか。
ディアラントを直接前にしてなお、おれにはそれが分からなかった。
「ふぅ、ご馳走様でした! この後どうするんですか?」
「まあついてこいよ。」
店を出た後、おれはディアラントを連れて駅に戻った。
首を捻るディアラントを完全に無視して改札を抜け、電車に乗って二駅移動。
到着した駅から十分ほど歩いて辿り着いたのは、町中にある一つの道場だ。
「ここは?」
「おれが高校生の時まで通ってた道場。今日は貸し切りにしてもらった。」
「ふーん……」
物珍しそうに道場を見上げるディアラントを横目に、おれはあらかじめ借りておいた鍵でドアを開ける。
ディアラントと共に中に入ってきっちり鍵を閉め、普段は開け放している内扉も閉めて、そこにも鍵をかける。
「よく手入れされてますけど、すごい古い道場ですね。」
「まあな。ここの先生も、もうかなりじいちゃんだから。」
ディアラントの感想に適当な相づちを打ちつつ、おれは道場の端に寄って作業を始める。
「おい、ディア!」
おれは、手に取ったそれをディアラントに向かって投げた。
それがディアラントの手に収まる一歩手前で、おれは無言で床を蹴る。
「おっと……なんです、急に―――っ!?」
ディアラントの言葉が途切れる。
それも当然だ。
ディアラントが剣を手にした時のおれは、すでにディアラントに向かって剣を振りかざしていたのだから。
ディアラントは受け取った剣を素早く構え、迫っていたおれの剣を受け止めてさっと身を引く。
「はっ、なるほどな。」
おれは短く吐き捨てた。
今の一撃で十分だ。
普通なら、あのタイミングで襲ってきた剣など、かすり傷を受けてでもギリギリで避けられれば立派な方だろう。
それを、ディアラントはきちんと受け止めてみせた。
それだけで、こいつの剣の腕が並外れていることが分かる。
「まんまと騙されたぜ、まったくよ。」
「……あーらら。ここに連れてこられた時点でなんとなく察してはいたんですけど、どこで知ったんです? 根回しは、抜かりなかったはずなんですけどね。」
ディアラントはあっさりと認めた。
食えない奴だ。
自分に注目が向かないように細心の注意を払っておきながら、ばれたらばれたで嘘を貫き通すことはしないなんて。
なんなんだ。
こいつに漂うこの余裕は。
「………誰にも言うつもりはねぇよ。」
急激に膨らんでいく、劣等感を伴った不快感。
それを全身で感じながら、おれは極力衝動を抑えて口を開いた。
そんなおれの言葉を聞いたディアラントは、意外そうな顔で目をまんまるにしている。
「なんでわざわざ、ここまで連れてきたと思ってやがる。ばらすつもりなら、大勢の前で化けの皮を剥がしてやってるよ。」
「じゃあ、先輩の目的は何なんですか?」
ディアラントは不思議そうな顔でおれを見ている。
正直、それを訊かれるとおれにも答えようがない。
こうしてディアラントに剣を向けているのも、半分以上が衝動的なのだ。
ただ……
「お前の本当の剣を、直接見たくなった。」
その思いが、おれの中にわだかまっているだけで。
「………」
ディアラントはおれのその言葉に、何故かひどく驚いたような顔をした。
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