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【番外編2】嵐との出会い
第19の嵐 自分にとっての正解であることを―――
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ジョーが言う〝面白いこと〟。
それは―――
「アイロス君、ドラゴン殲滅部隊への異動願を提出したらしいよ。」
というものだった。
「へ…?」
おれは、ぽかんと口を開けてしまう。
「マジで?」
「うん。本人から聞いたから確実。」
ジョーはくすくすと笑い声をあげた。
「とりあえず、ちょっと脅せば情報を零してくれそうなアイロス君を問い詰め……もとい、話を聞きに行ったんだけどね。」
言い直す意味もなく、真相がダダ漏れだ。
おれの脳裏に、ジョーに詰め寄られ、顔を真っ青にして震えているアイロスの姿がありありと浮かぶ。
今頃、また胃痛と格闘していそうだ。
「まあ、さすがにアイロス君も詳しい事情は知らないってさ。辞令が貼り出されるまで、ディアラント君に怪しいところもなかったって話。でもアイロス君ったら、ディアラント君が国防軍管理部に連行されるのをたまたま目撃しちゃったらしくて、辞令が出される現場に野次馬に紛れて潜んでたんだって。上から大会五連覇の条件を出された時、ディアラント君がなんて言ったと思う? 『え? 五年だけでいいんですか?』だって。」
今さら驚くようなことではない。
あいつなら、言ってもおかしくはない言葉だ。
呆れて半目になってしまうおれにジョーも苦笑を呈し、さらに先を続ける。
「アイロス君は、ディアラント君を疑ってなかったよ。ディアラント君がはめられたってことも、確証はなくてもそうだって確信はしてたみたい。で、アイロス君が言うわけだよ。ディアラント君の目は、他人のことも自分のことも深く見抜いてしまう。だから、彼は自分にも他人にも本当の意味で嘘はつけないんだって。」
そういや、ディアラントが何かの折に『オレ、嘘つくのが超下手なんですよー』なんて言っていたか。
それは、自分自身の才能故のものだったと。
「あんなひどい条件の辞令を出されて、それなのに文句の一つも言わずにそれを受け入れたってことは、そこにはディアラント君の強い意志と目的がある。たくさんのことを見抜けるからこそ、ディアラント君は無意味な選択を絶対にしない。そんな正直すぎるディアラント君が、理に反したことをするわけがないんだって。」
「だから、ディアラントの味方になるために異動願を…?」
「そういうことらしいよ。」
グラスの縁を指でなぞりながら。
語るジョーの瞳に、少しだけ影が差す。
「自分はディアラント君を信じてる。だから、堂々と彼の味方だという姿勢を示す。連帯責任だなんだっていう脅しで味方が減るほど、ディアラント君の人間性は腐ってない。……これが、アイロス君の言い分。あんなに毅然としたアイロス君は初めて見たな。不覚にも驚いちゃった。僕には……そこまで強く、人を信じられる気持ちが分からないや。」
話を聞いて、おれもジョーに同感だった。
とても、あのアイロスの台詞だとは思えない。
おれの記憶の中のアイロスは、何よりも場の調和と平穏を大事にしていた人間だ。
進んでドラゴン殲滅部隊への異動願を提出するなど、おれが認識していたアイロスなら絶対にやらない行動だった。
「本当に怖い子だよね。ディアラント君って。」
ジョーは言う。
「前にディアラント君について調べた時も思ったけどね、あの子に関わった人たちはみんな、自主的にディアラント君の味方についてるんだよ。怖いくらい真剣にね。さてさて……彼の何が、そんなに人を惹きつけるのかな。確かに、この引力は味方につければ百人力だけど、敵としては笑えない脅威だ。」
「なるほど…。奴らとしては、ディアラントを懐に入れようとしたけど失敗して、それなら脅威になる前に潰そうとしたが……結局、宮殿にいたディアラントの味方によって、譲歩の今に持ち込まれたってとこなのかね…?」
今のおれが立てられる仮説としては、これが一番有力か。
情報が足りなすぎるせいで、たくさんの〝何故?〟が残るけれど。
「現状では、そうかもしれないとしか言えないね。……で、どうやら僕たちも、その脅威レベルの引力に巻き込まれてるようだね。こうして、ディアラント君を疑う余地もなく、当然のように彼を擁護する立場で話をしてるんだからさ。」
「あ…」
その言葉で、おれは初めて自分の認識の偏りに気付かされた。
確かにそうだ。
ディアラントに辞令が下ってからこの数日間、ディアラントがこんな理不尽な立場に置かれるに至る多くの可能性を考えてきた。
しかし、その中にディアラントが姑息なことをしたのだという考えは綺麗になかった。
ジョーの言うとおり、おれたちは無意識で、ディアラントが正しいことを確定事項として議論を進めていたのだ。
こうして改めて考えると、少しぞっとする。
ディアラントが放つ力の、圧倒的な強さに。
そして、それを客観的に把握してなお、ディアラントを疑おうと思わない自分の心に。
「さあ、ここからはミゲルの選択だよ。」
ジョーは歌うように言い、おれの胸にとん、と指を立てた。
「きっと、この選択がミゲルの今後を大きく左右する。何をどう判断しても、ミゲルの自由だ。僕もディアラント君も、ミゲルの選択を受け入れる。だって、人生における選択に正解も不正解もないからね。」
笑みを深めた親友は、最後にこう言った。
「ただ……その選択が、ミゲルにとっての正解であることを祈ってるよ。」
おれにとっての、正解…?
自分が望んでいることすら分からないおれに、そんな選択ができるとは思えない。
結局お前は、おれに〝ディアラントの味方になってやれ〟って言いたいんだろ?
なら、はっきりとそう言ってくれよ。
どうして最後で、おれに選択権をぶん投げるんだ。
動きたいのに、身動きが取れないもどかしさ。
自分のことなのに、まるで他人のことのように心を見通せない違和感。
それらを流し込むように、おれは再び酒を呷り始めるのだった。
それは―――
「アイロス君、ドラゴン殲滅部隊への異動願を提出したらしいよ。」
というものだった。
「へ…?」
おれは、ぽかんと口を開けてしまう。
「マジで?」
「うん。本人から聞いたから確実。」
ジョーはくすくすと笑い声をあげた。
「とりあえず、ちょっと脅せば情報を零してくれそうなアイロス君を問い詰め……もとい、話を聞きに行ったんだけどね。」
言い直す意味もなく、真相がダダ漏れだ。
おれの脳裏に、ジョーに詰め寄られ、顔を真っ青にして震えているアイロスの姿がありありと浮かぶ。
今頃、また胃痛と格闘していそうだ。
「まあ、さすがにアイロス君も詳しい事情は知らないってさ。辞令が貼り出されるまで、ディアラント君に怪しいところもなかったって話。でもアイロス君ったら、ディアラント君が国防軍管理部に連行されるのをたまたま目撃しちゃったらしくて、辞令が出される現場に野次馬に紛れて潜んでたんだって。上から大会五連覇の条件を出された時、ディアラント君がなんて言ったと思う? 『え? 五年だけでいいんですか?』だって。」
今さら驚くようなことではない。
あいつなら、言ってもおかしくはない言葉だ。
呆れて半目になってしまうおれにジョーも苦笑を呈し、さらに先を続ける。
「アイロス君は、ディアラント君を疑ってなかったよ。ディアラント君がはめられたってことも、確証はなくてもそうだって確信はしてたみたい。で、アイロス君が言うわけだよ。ディアラント君の目は、他人のことも自分のことも深く見抜いてしまう。だから、彼は自分にも他人にも本当の意味で嘘はつけないんだって。」
そういや、ディアラントが何かの折に『オレ、嘘つくのが超下手なんですよー』なんて言っていたか。
それは、自分自身の才能故のものだったと。
「あんなひどい条件の辞令を出されて、それなのに文句の一つも言わずにそれを受け入れたってことは、そこにはディアラント君の強い意志と目的がある。たくさんのことを見抜けるからこそ、ディアラント君は無意味な選択を絶対にしない。そんな正直すぎるディアラント君が、理に反したことをするわけがないんだって。」
「だから、ディアラントの味方になるために異動願を…?」
「そういうことらしいよ。」
グラスの縁を指でなぞりながら。
語るジョーの瞳に、少しだけ影が差す。
「自分はディアラント君を信じてる。だから、堂々と彼の味方だという姿勢を示す。連帯責任だなんだっていう脅しで味方が減るほど、ディアラント君の人間性は腐ってない。……これが、アイロス君の言い分。あんなに毅然としたアイロス君は初めて見たな。不覚にも驚いちゃった。僕には……そこまで強く、人を信じられる気持ちが分からないや。」
話を聞いて、おれもジョーに同感だった。
とても、あのアイロスの台詞だとは思えない。
おれの記憶の中のアイロスは、何よりも場の調和と平穏を大事にしていた人間だ。
進んでドラゴン殲滅部隊への異動願を提出するなど、おれが認識していたアイロスなら絶対にやらない行動だった。
「本当に怖い子だよね。ディアラント君って。」
ジョーは言う。
「前にディアラント君について調べた時も思ったけどね、あの子に関わった人たちはみんな、自主的にディアラント君の味方についてるんだよ。怖いくらい真剣にね。さてさて……彼の何が、そんなに人を惹きつけるのかな。確かに、この引力は味方につければ百人力だけど、敵としては笑えない脅威だ。」
「なるほど…。奴らとしては、ディアラントを懐に入れようとしたけど失敗して、それなら脅威になる前に潰そうとしたが……結局、宮殿にいたディアラントの味方によって、譲歩の今に持ち込まれたってとこなのかね…?」
今のおれが立てられる仮説としては、これが一番有力か。
情報が足りなすぎるせいで、たくさんの〝何故?〟が残るけれど。
「現状では、そうかもしれないとしか言えないね。……で、どうやら僕たちも、その脅威レベルの引力に巻き込まれてるようだね。こうして、ディアラント君を疑う余地もなく、当然のように彼を擁護する立場で話をしてるんだからさ。」
「あ…」
その言葉で、おれは初めて自分の認識の偏りに気付かされた。
確かにそうだ。
ディアラントに辞令が下ってからこの数日間、ディアラントがこんな理不尽な立場に置かれるに至る多くの可能性を考えてきた。
しかし、その中にディアラントが姑息なことをしたのだという考えは綺麗になかった。
ジョーの言うとおり、おれたちは無意識で、ディアラントが正しいことを確定事項として議論を進めていたのだ。
こうして改めて考えると、少しぞっとする。
ディアラントが放つ力の、圧倒的な強さに。
そして、それを客観的に把握してなお、ディアラントを疑おうと思わない自分の心に。
「さあ、ここからはミゲルの選択だよ。」
ジョーは歌うように言い、おれの胸にとん、と指を立てた。
「きっと、この選択がミゲルの今後を大きく左右する。何をどう判断しても、ミゲルの自由だ。僕もディアラント君も、ミゲルの選択を受け入れる。だって、人生における選択に正解も不正解もないからね。」
笑みを深めた親友は、最後にこう言った。
「ただ……その選択が、ミゲルにとっての正解であることを祈ってるよ。」
おれにとっての、正解…?
自分が望んでいることすら分からないおれに、そんな選択ができるとは思えない。
結局お前は、おれに〝ディアラントの味方になってやれ〟って言いたいんだろ?
なら、はっきりとそう言ってくれよ。
どうして最後で、おれに選択権をぶん投げるんだ。
動きたいのに、身動きが取れないもどかしさ。
自分のことなのに、まるで他人のことのように心を見通せない違和感。
それらを流し込むように、おれは再び酒を呷り始めるのだった。
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