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【番外編3】伝説が生まれるまで
カウント15 違和感のある提案
しおりを挟む「留…学?」
まさかの提案に、オレは目をまたたいた。
「そうとも。」
ジェラルドは大きく頷く。
「セレニアからはかなり離れるが、北方のルルアという国に、剣術に特化した研究所がある。ルルアが武術に力を入れていて、剣技の平均水準が桁外れだということは、君も耳にしたことがあるだろう。この研究所から輩出される各国お抱えの剣術家も多い。この大学に入学できている時点で剣の腕は保証されているし、一度勉強に行ってみるつもりはないかい? 国内では初の、ルルア国立剣術研究所への推薦留学だ。名誉なことだよ。」
「ルルア……」
オレは呟きながら、パンフレットを手に取った。
ルルア国立剣術研究所の名前は、剣術研究専攻科にいる人間なら誰でも聞いたことがあるだろう。
世界的にいい意味では重宝され、悪い意味では危険視されている諸刃の剣のような機関だ。
ルルアの人々との交流試合の映像も見たことがある。
ジェラルドの言うとおり、確かにあの国の剣技はレベルが違う。
それはもう、オレでも見惚れてしまうくらいに。
そんな機関への留学のチャンス。
本当なら、オレには願ってもみない展開だ。
なのに……この胸のもやもやはなんだ?
「ちょっと……考えさせてください。」
一通りパンフレットに目を通したオレは、静かに首を振ってそれを机の上に戻した。
「ほう…。何か不満でも?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
「では、何を躊躇うんだい?」
ざわり、と。
また、オレの胸を不快感がかすめていく。
「なんで、オレなんです?」
オレは、微笑みを浮かべるジェラルドを真正面から見つめた。
「オレよりも適役はたくさんいるはずでしょう。ルルアなんて強豪国に留学生として送るなら、教師志望のオレじゃなくて、国防軍として期待をかける実技優等生を選ぶのが筋なんじゃないですか? お言葉ですが、オレがあなたの立場ならそうします。どうして、わざわざ、オレを指名するんですか?」
気に入られての推薦じゃない。
それは、他でもないオレ自身が理解している。
なんのために、今の今まで目立たないように息を殺してきたと思っている。
こういう展開を何よりも恐れていたからに決まっているじゃないか。
代役は腐るほどいるはず。
それなのに、はいと頷くのを急かすようなジェラルドの物言い。
何か裏がある。
この時点で、それは確信していた。
「……賢い子だ。最近は賢者と愚者の二極化がひどいが、まさか学生の段階でここまで差が歴然とは。」
ジェラルドは、わずかに笑みを深めただけだった。
「ランドルフ、次のものを。」
ジェラルドがランドルフへ目配せをし、頷いたランドルフが鞄の中をまさぐる。
次に出てきたのは、中身がぎっしりと詰まった封筒だった。
「開けてみたまえ。」
促され、オレは渋々と封筒を取り上げる。
ずっしりと重たい封筒。
その中を開くと―――
「!?」
「足りなければ、言い値を出そう。」
封筒の中に詰まった札束に目を剥くオレに、ジェラルドはなんでもないことのようにそう言った。
「な、なんのために……」
「手切れ金だ。」
「手切れ金って―――」
オレの言葉は、途中で切れる。
まるで、オレの反応を計算したかのようなタイミングで机を滑ってきた一枚の写真。
そこに映るのは、日曜日に出かけた時のオレとターニャだった。
「いつどこで知り合ったかは知らないが、この方がどんなお方か、まさか知らないわけではないだろう?」
「………」
オレは絶句して、写真を凝視するしかない。
そんなオレに……
「今のやり取りで、君に国防軍を敵に回す気がなかったのは分かった。だから一度だけ、見逃してあげよう。」
ジェラルドが、ねっとりと絡みつくような声で囁いてくる。
「自分の身が可愛いなら、彼女から手を引きなさい。今ならまだ、若気の至りで済む。」
話は終わったと言わんばかりに、ジェラルドたちが席を立った。
「…………余計、訳分かんないですよ。」
通り過ぎていこうとしたジェラルドたちを、オレは思わず呼び止めていた。
「なんで、こんな回りくどい方法を取るんですか? ただ、あの人と学生の間に交流があったってだけでしょう? 随分と警戒が過ぎませんか?」
納得いかない。
オレが名だたる権力者の家系に連なるなら、まだ合点もいく。
だが、現実はこうも歪だ。
「賢い割に、根本的なことが抜けているね。」
ジェラルドは眉をひそめた。
「どんな形であれ、あの忌々しい一族に味方がつくのは不愉快なのだよ。この国に生まれたからには、深く言わずとも分かるだろう?」
「―――っ!!」
「君にとっては、美味しい話じゃないか。一時の感情に流されずに、的確な判断を下しなさい。賢者となるか愚者となるか……それは、君次第だ。」
オレの答えを待たず、ジェラルドたちはドアを閉じて応接室を去っていった。
後に残されたのは何も言えずに立ち尽くすオレと、そんなオレの手に握られた大金だけだった。
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