竜焔の騎士

時雨青葉

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【番外編3】伝説が生まれるまで

カウント26 高らかな宣言

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 オレを信じて、自分の部隊を委ねるだなんて。


 この人は、なんて嬉しいことを言ってくれちゃってるんだろう。


「その任、謹んで拝命いたします。」


 オレは深く頭を下げた。


 ルルアへ行く以外の道。


 確かにそれは、命の危険を伴う道だった。
 でも、こんなにも心が満たされる道が他にあるだろうか。


 だって、堂々とターニャのことを支えることができるんだ。
 しかも、限りなく彼女に近い場所で。


 この存在の全てを懸けて、この人とこの人が愛している国を守ることができる。
 辞令なんかなくたって、オレは自分の意志でこの道を選ぶ。


 どんなに苛酷でも、ターニャもオレも笑える未来を―――


「……そんなに甘く、事が運ぶとは思わないことだね。」


 低く地を這うような声が耳朶じだを打ったのはその時。
 顔を上げると、ジェラルドが忌々いまいましげに顔を歪めていた。


「君の隊長就任と同時に、現在のドラゴン殲滅せつめつ部隊は解散する。隊員探しは自分でやりたまえ。」


「分かりました。」


 間髪入れずに頷いたオレに、ジェラルドがぐっと言葉につまる。


「……それと、君が率いる部隊に入った者には連帯責任を課す。もしも君が宮殿を追われるようなことになったら、その時は部下たちも同じ道を辿ると思いたまえ。」


「いいですよ。その責任も負いましょう。」


 総督部が孤立させたい人間は、もうターニャだけではない。
 だが、それがなんだ。


 どんなに重たい責任でも、どんなに苛酷な条件でも、遠慮なく押しつけてこればいい。
 オレは、正々堂々と全部背負ってやる。


「……ふふ。よほど自信があるのだね。いい心がけだ。」


 ジェラルドは、まだかろうじて笑顔を保っている。


「では、ターニャ様の評価と君の自信を証明してもらおうじゃないか。」


 そら来た。
 さあ、どんな条件を突きつけてくる?


 オレは、挑むような目でジェラルドの言葉を待った。


「毎年夏に行われる、国家民間合同親善大会は知っているね? この大会は毎年競争が激しくて、未だに大会連覇者は出ていないんだ。その大会で、五年連続優勝してみたまえ。そうしたら、君の実力を認めて手を引いてやろう。途中で一度でも負けたなら、その時は大人しくこの国を去ってもらう。」


「え? 五年だけでいいんですか?」


 オレは思わず、ぱちくりと目をまたたいていた。


 言ってしまった後で失言に気付いたが、するっと無意識で出てしまったのだから仕方ない。


「……君はあの大会に出場したことがないから、そんなことが言えるんだ。思い知るがいい。身の程というやつを。」


 ジェラルドの表情から、どんどん余裕がなくなっていく。


「まあ、どうせ五年が経つ頃には……君など、この世にすらいないかもしれないがね。」


 おーおー…
 それが、あなたの精一杯の強がりですかい?


 オレは、緩みそうになる頬をなんとか真顔にとどめる。


 なんだか、だんだん楽しくなってきたぞ?
 どうしようもなく、心が躍る。


 ……ああ、そうか。
 別に、遠慮する必要なんかないのか。


 オレは、はたとそのことに思い至る。


 辞令は下った。
 この先、乗り越えねばならない壁も分かった。


 ならば、いつまでも周囲の顔色をうかがう必要などない。


 彼らは今をもって、れっきとしたオレの敵になったのだから。




 「―――どんな手でも使ってくださいよ。」




 オレは途端に、我慢することをやめた。


 打って変わったオレの口調に、ジェラルドを始め、他の連中も困惑の表情を浮かべる。
 そんな彼らに向けて、オレは不敵に笑ってやった。


「いいですよ。今までの話、全部受けて立ってやりますよ。後悔しないでくださいね? オレは、正々堂々と勝ちにいってやりますから。」


 室内がどよめく。
 肩を震わせるジェラルドの後ろから、ひそやかにオレへの侮蔑の言葉が囁かれた。


「身の程知らず? それはどうでしょうね?」


 ジェラルドも言っていたその単語を自分でも繰り返したオレは、声高らかにこう宣言。


「オレは、自分の実力を誰よりも分かっているつもりです。だから、できないことをできるとは言いません。」


 そうだ。
 もう一つ、やることがあったっけ。


 とあることを思い出し、オレはジェラルドたちへと近付いた。
 眉をひそめるジェラルドの前で、ズボンのポケットに忍ばせていたものを取り出す。


「これ、お返ししますね。オレにはいらない代物ですので。」


 以前に渡された現金入りの封筒を机に置いて、オレは笑みを深めた。


 皆様を煽るだけなのは分かってるんだけど、ごめんなさいね。
 オレは嘘がつけないんで、言わせてください。




「楽しみにしててください。退屈はさせませんから。」




 これは、オレからの宣戦布告。


 憎たらしそうに顔を赤くするジェラルドには一切目もくれず、オレはその場から颯爽さっそうきびすを返したのだった。

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