2 / 257
第1歩目 出会い
平和な一幕
しおりを挟む
ふわふわと風に乗る。
遥か遠くの微かな喧騒を聞きながら、目を閉じて心地よい微睡みに意識を預ける。
いつもと変わらない、欠伸が出るほどに平和な時間だ。
「シュルクー!!」
下の方から、名前を呼ばれた。
だんだんと近付いてくる気配に瞼を上げると、自分の傍で腰に手を当てている少女と目が合った。
「またこんな高いところでお昼寝してる。もうそろそろ、休憩時間終わるよ!」
「ん…」
……もうそんな時間か。
まだ眠気を訴えてくる目をこすり、シュルクは大きく伸びをする。
「お、今日はそんなに流されてないな。」
眼下を見下ろして、暢気に呟くシュルク。
そんなシュルクの様子に、彼を捜しに来たルルンは大仰に息をついた。
「もう…。毎日毎日、よくもまあこんな高いところまで上がるわよね。あたし、羽が疲れちゃった。」
ルルンは、背中から生える半透明の羽を微かに震わせる。
「そうか? 俺は、大して苦じゃないけどな。」
「あんたはね。男と女じゃ体力が違うのよ! ほら、戻るわよ。」
「はいはい。」
腕を引かれ、シュルクは気だるげにそう返しながら下降を始めた。
すると、遠くにあった町並みがゆっくりと近付いてくる。
至る所に噴水や水路が設けられた、水の町ウェースティーン。
人も物も集まり、この辺りでは一番賑わう町だ。
柔らかく降り注ぐ太陽の光が、町の水と町中を行く人々の羽に反射して、きらきらと輝いている。
シュルクはそんな町の景色を見下ろしながら、自分の背を降り仰いだ。
この世界の人々は皆、背中に美しい羽を持つ。
世界のどこかには羽を持たない種族もいると聞くが、自分はこれまでそういう種族には会ったことがない。
それは、おとぎ話のように架空の存在だからなのか。
もしくは……
「もう、毎度捜しに来るあたしの身にもなってよね。」
ルルンは辟易したような息を吐く。
なら、捜しに来なければいい。
―――と言おうものなら殴られそうなので、シュルクは渋い顔であらぬ方向を見やった。
何も考えずにのんびりと空中で昼寝をするのが、毎日のささやかな楽しみなのだ。
ただ、落下せずに眠るという器用な特技を身につけているせいで、風に流された結果、目を開けた時に全然違う場所にいることもしばしば。
ルルンがこうして毎日のように迎えに来るのには、そういった背景がある。
「ほんと、あんたって暢気っていうかなんていうか……」
ルルンはちらりと、シュルクの胸元に目を向ける。
シュルクの首に巻かれた黒いチョーカー。
それに取りつけられた細いチェーンの先では、蝶をイメージさせる形をした若草色の石が揺れている。
まるで宝石のようにきらめいているその石を、ルルンは何故か複雑そうな表情で見つめていた。
「あんたの運命石が蝶の形って、なんか納得よね。あんたって目を離してると、風に飛ばされてふらふらとどっかに行っちゃいそうだもん。」
「うん。その言葉は、飽きるくらい聞いた。」
まるで蝶のようだ、と。
これまで、たくさんの人からそう言われてきた。
……決して、褒められた意味ではないが。
花の蜜を求めながら風に流されてさまよう蝶のように、他人の流れに身を任せて過ごしている。
そうやって自らの確固たる立ち位置を主張しない自分のことを、周囲は蝶のようだと揶揄するのだ。
「蝶……ね……」
ぽつりと呟く。
〝蝶のようだ〟
その言葉を皮肉だと思うのは、きっと自分だけ。
自分は、蝶のようにはなれない。
仮に蝶だったとしても、自分は―――
遥か遠くの微かな喧騒を聞きながら、目を閉じて心地よい微睡みに意識を預ける。
いつもと変わらない、欠伸が出るほどに平和な時間だ。
「シュルクー!!」
下の方から、名前を呼ばれた。
だんだんと近付いてくる気配に瞼を上げると、自分の傍で腰に手を当てている少女と目が合った。
「またこんな高いところでお昼寝してる。もうそろそろ、休憩時間終わるよ!」
「ん…」
……もうそんな時間か。
まだ眠気を訴えてくる目をこすり、シュルクは大きく伸びをする。
「お、今日はそんなに流されてないな。」
眼下を見下ろして、暢気に呟くシュルク。
そんなシュルクの様子に、彼を捜しに来たルルンは大仰に息をついた。
「もう…。毎日毎日、よくもまあこんな高いところまで上がるわよね。あたし、羽が疲れちゃった。」
ルルンは、背中から生える半透明の羽を微かに震わせる。
「そうか? 俺は、大して苦じゃないけどな。」
「あんたはね。男と女じゃ体力が違うのよ! ほら、戻るわよ。」
「はいはい。」
腕を引かれ、シュルクは気だるげにそう返しながら下降を始めた。
すると、遠くにあった町並みがゆっくりと近付いてくる。
至る所に噴水や水路が設けられた、水の町ウェースティーン。
人も物も集まり、この辺りでは一番賑わう町だ。
柔らかく降り注ぐ太陽の光が、町の水と町中を行く人々の羽に反射して、きらきらと輝いている。
シュルクはそんな町の景色を見下ろしながら、自分の背を降り仰いだ。
この世界の人々は皆、背中に美しい羽を持つ。
世界のどこかには羽を持たない種族もいると聞くが、自分はこれまでそういう種族には会ったことがない。
それは、おとぎ話のように架空の存在だからなのか。
もしくは……
「もう、毎度捜しに来るあたしの身にもなってよね。」
ルルンは辟易したような息を吐く。
なら、捜しに来なければいい。
―――と言おうものなら殴られそうなので、シュルクは渋い顔であらぬ方向を見やった。
何も考えずにのんびりと空中で昼寝をするのが、毎日のささやかな楽しみなのだ。
ただ、落下せずに眠るという器用な特技を身につけているせいで、風に流された結果、目を開けた時に全然違う場所にいることもしばしば。
ルルンがこうして毎日のように迎えに来るのには、そういった背景がある。
「ほんと、あんたって暢気っていうかなんていうか……」
ルルンはちらりと、シュルクの胸元に目を向ける。
シュルクの首に巻かれた黒いチョーカー。
それに取りつけられた細いチェーンの先では、蝶をイメージさせる形をした若草色の石が揺れている。
まるで宝石のようにきらめいているその石を、ルルンは何故か複雑そうな表情で見つめていた。
「あんたの運命石が蝶の形って、なんか納得よね。あんたって目を離してると、風に飛ばされてふらふらとどっかに行っちゃいそうだもん。」
「うん。その言葉は、飽きるくらい聞いた。」
まるで蝶のようだ、と。
これまで、たくさんの人からそう言われてきた。
……決して、褒められた意味ではないが。
花の蜜を求めながら風に流されてさまよう蝶のように、他人の流れに身を任せて過ごしている。
そうやって自らの確固たる立ち位置を主張しない自分のことを、周囲は蝶のようだと揶揄するのだ。
「蝶……ね……」
ぽつりと呟く。
〝蝶のようだ〟
その言葉を皮肉だと思うのは、きっと自分だけ。
自分は、蝶のようにはなれない。
仮に蝶だったとしても、自分は―――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~
Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。
それでも、組織の理不尽には勝てなかった。
——そして、使い潰されて死んだ。
目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。
強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、
因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。
武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。
だが、邪魔する上司も腐った組織もない。
今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。
石炭と化学による国力強化。
情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。
準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。
これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、
「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、
滅びの未来を書き換えようとする建国譚。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる