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第1歩目 出会い
運命石
しおりを挟む「パパ、シュルクを回収してきたわよー。」
集会所の裏口から中に入ってきたシュルクとルルンに、ルルンの父親であるグレーはにかっと歯を見せて笑いかけた。
「おー、ご苦労さん。」
客の対応中だったらしいグレーは相手に一言断りを入れ、シュルクたちの方へと近付く。
「まーったく。昼寝するのは止めねぇが、せめて見える所にいろっての。そのうち、これに鎖でもつけて店にくくっとくぞ?」
「そんなことされるなら、バイト辞める。」
意地の悪い顔で首のチョーカーを引っ張ってくるグレーに、シュルクは間髪入れずそう返す。
すると、途端にグレーが顔色を一変させた。
「冗談だって! うちの金銭管理できるのお前だけなんだから、抜けられたら困るって!!」
「そんなの、親父さんがきっちり管理できるようになればいいだけだろ。単純に、無駄を省くだけなんだから。」
「それができれば、今頃オレは大豪邸に住んでるわ。」
「はーい。今まで、ありがとうございましたー。」
「待ってくれ、シュルク様ー!!」
光の早さで土下座をしたグレーは、去っていこうとするシュルクの足にしがみつく。
「ちょっ……離して!」
「頼む! 昼寝でもなんでも許す! 許すから、店を見捨てないでくれー!!」
「客の前!!」
グレーの束縛から逃れようとシュルクがもがいていると、集会所の中がどっと笑いに包まれた。
「いつものことながら、賑やかな店だねえ。」
「お兄さーん。ここ評判いいんだから、潰さないであげてよー。」
「そうそう。私たち客の顔に免じて、ね?」
「店長、飲み物切れたー。」
「はーい! ってことだ。午後もよろしくなー。」
感心するような変わり身の早さで情けない顔を引っ込めたグレーは、シュルクとルルンの肩を叩くと、颯爽とカウンターへ戻っていってしまった。
「俺は、親父さんと漫才をしてたつもりはないんだけどな……」
「ごめんねー、シュルク。パパが節約ってものを知らないばっかりに……」
「じゃあ、お前が金の管理をしろよ。」
「お客様ー、何かご注文はございますかー?」
父親譲りの切り替えの早さで客席へと駆けていくルルン。
その後ろ姿が、明確すぎるほどに答えを物語っていた。
「結局こうなるのね。」
大きく溜め息をつき、シュルクは会計の席に座る。
そして机に置かれた大量の発注リストを手に取り、そこに記された数字一つ一つに目を凝らし始めた。
こんなことになるなら、迂闊に経営の無駄を指摘するんじゃなかった。
上手いことグレーの口車に乗せられて発注作業や会計処理を手伝っていたら、今ではこの集会所の財産は自分の手の中である。
この会計の席も、すっかり自分の特等席だ。
こうして発注リストと睨み合いながら客の会計にも対応するので、常連には顔と名前をばっちり覚えられてしまっている。
シュルクは慣れた様子で発注リストにさらさらと修正を加えていく。
何故か、こういった発注業務は自分のチェックを通さないと発注不可という暗黙の了解までできあがっている始末。
これは確かに、自分がバイトを辞めたら集会所の経営が傾くかもしれない。
そろそろグレーを徹底的にしごくか、自分の後釜になりそうな人材を探した方がいいだろう。
頭の隅でそんなことを考えながら、シュルクは次々にリストをめくっていく。
どれほどの間、そうしていた時だろうか。
ふと、集会所の扉が開いた。
入ってきたのは小柄な女性。
身につけているのは、全身をすっぽりと隠す大きなローブ。
どうやら、旅の道中のようだ。
彼女は人見知りをするように、きょろきょろと周囲を見回しながら数歩進む。
すると。
―――リリリンッ
集会所のインテリアに溶け込むようにして天井からぶら下がっていた水晶が、仄かに発光しながら涼やかな音を集会所内に響かせた。
「!!」
途端に変わる、集会所の空気。
幾人もの男性が慌てたように立ち上がり、次いで落胆したように席につく。
その中に一人だけ、立ち尽くしたままの男性がいた。
彼は、どこか茫然とした表情で女性を凝視している。
そんな彼のことを、女性の方も食い入るように見つめていた。
女性は、震える手でローブの中に手を入れた。
彼女が取り出したのは、淡い黄色の石があしらわれたネックレスだ。
それを見た男性が、ゆっくりと右手を掲げる。
彼の手首には、瑠璃色の石でできたブレスレットがはまっていた。
彼らが互いに見せ合った石は柔らかく発光し、前方へと光の筋を伸ばす。
光の筋は互いを一直線に目指し、互いの光に触れ合うと一際強い光を発して消えた。
しん、と静まり返る集会所。
皆の視線を一身に受ける中……
「―――っ」
女性が顔を歪め、弾かれたようにその場を走り出す。
それに触発されるように男性も駆け出し、二人は集会所の真ん中できつく抱き合った。
「よっ。おめでとう、お二人さん!!」
グレーが感極まった様子で手を叩く。
すると、集会所の中も歓声と暖かな拍手に包まれた。
「おめでとうございます。」
キッチンの中に引っ込んでいたルルンが、豪華な花束を持って二人に近付く。
「ありがとうございます。」
女性はルルンから花束を受け取り、目の端に涙を浮かべながら満面の笑みをたたえる。
「………」
たくさんの笑顔で埋められている集会所。
それを、シュルクは会計の席から立たないまま、無言でじっと見つめていた。
無意識のうちに、手が自分の首元の石に伸びる。
自分たちは必ず、一人一つの運命石を持って生まれてくる。
運命石には対になる石が一つだけあって、対の運命石を持つ相手は、自分と同じ瞬間に生まれ落ちているとかいないとか。
皆、いずれ旅立つ。
対になる運命石を持つ、運命の相手を捜して。
この集会所は、そんな風に運命の相手を捜す人々に向けて解放された休憩所兼宿の一つだ。
こういった集会所には運命石の結びつきを感知する共鳴鈴が設置されていて、同じ空間に対となる運命石が存在すると、先ほどのように音を立ててそれを知らせる。
「はあ……やっぱり、何度見てもあの光景って幸せになるわよねー。」
いつの間に来ていたのか、自分の隣でルルンが両手を組んでうっとりと目尻を下げていた。
「いいなぁ。私も早く、運命の人を捜しに行きたいなぁ。」
「………」
シュルクは黙り込む。
生憎と、自分はルルンの言葉に返せる言葉を持っていない。
「あっ…」
シュルクの沈黙の意味を正確に悟ったらしく、ルルンがハッとして顔を青くした。
「ご、ごめん! あたしったら、うっかり……」
「大丈夫だよ。」
慌てるルルンに、ひらひらと手を振るシュルク。
分かっている。
ルルンの発言に非はない。
普通じゃないのは自分の方。
だからきっと―――あの二人の出会いも祝福できないのだ。
(こんな、石ころ一つで……)
祝福を受ける二人の姿を横目で見るシュルクは、自分の運命石を握り締める。
自分には分からない。
本当に、こんな石一つの導きで生涯寄り添っていく相手を決めてもいいのだろうか。
『出会ってみれば分かるよ。』
仲睦まじい両親は、そう言って笑った。
他の皆も、運命石の力を信じて疑わない。
この中じゃ、自分だけが異端者だ。
そう。
自分だけが―――
「………」
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