Fairy Song

時雨青葉

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第7歩目 生き物を拒む山

売ります、買います! 喧嘩上等!!

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 物音の正体は、シュルクがとっさにドアを蹴破った音だった。


 その余韻も消えぬうちに、シュルクは誰もが目をみはる速さでフィオリアとルーウェルの間に割り込む。


「嫌がってんだろうが。」


 フィオリアを自分の背後にかばい、シュルクはひどく冷めた目でルーウェルを見下ろした。


 ぴょんぴょんと跳ねたヘーゼル色のくせっ毛。
 無駄に自信に満ちた、強気の茶色い瞳。


 椅子にどっかりと腰かけた彼は、自分は偉いのだというオーラを全身から放ちまくっている。


「シュルク……いつの間に…?」


 後ろのフィオリアを始め、集会所の人々が突然現れたシュルクに目を丸くする。


「ああ?」


 ルーウェルの声のトーンが、明らかに落ちた。


「てめえ、オレが誰だか分かってんのか?」


「いーや? 生憎あいにくと、俺はガガールの出身じゃないんでね。そっちの都合なんか知るか。」


 明らかな敵意を向けてくるルーウェルに、シュルクは一切怯まずにそう告げた。


「お前、馬鹿なのか? この空気を見て、オレに逆らうことが恐ろしいって伝わんないかな?」


「お前が非常識だってことしか伝わってこないな。」


 別に悪意でもなんでもなく、ただ単に感じたことを口に出す。


 とりあえず、ルーウェルの意識がフィオリアから逸れればそれで構わない。
 この時はまだ、そう思えたのだが……


「なんだと!?」


 ルーウェルが机を蹴飛ばしながら立ち上がる。
 その拍子に、机に乗っていたコップが床に落ちて割れた。


 記憶している限り、繊細な模様があしらわれたそのコップは、この店で一番上等なものだったはず。


「―――……」


 堪忍袋の緒が切れた瞬間だった。


「ふざけんじゃねえ!」


 ルーウェルが乱暴な手つきでシュルクの胸ぐらを掴む。


「知らねえなら教えてやるよ。オレはな―――」
「悪いが、わがままなガキの名前になんか興味ないんだよ。聞くだけ無駄だ。」


「はあ!?」
「ちょ……ちょっと、シュルク…っ」


 さっきまでの強気な態度はどこへやら。
 フィオリアが眉を下げて、シュルクの服のそでを引っ張る。
 セルカたち含む集会所の面々も、彼の身を案じてざわめき始めた。


 しかし―――


「てめえ、喧嘩売ってんのか!?」
「お望みなら、売ってあげますけど?」


 周囲の心配などそっちのけで、シュルクは遠慮なくルーウェルの怒りを煽っていく。


「言ったな!」


 ルーウェルが拳を振り上げる。


 しかし、その拳をいとも簡単に受け止めたシュルクは、ルーウェルに驚く隙を与えずにその腕を背中にひねりあげた。


「いてててて!」


「おい。」
「ふえっ!?」


 急にシュルクから声をかけられ、フィオリアは思わず飛び上がる。


「そこの窓、開けとけ。」


 シュルクは、店の南側にある大きな窓をあごで示した。


「なんで…?」


「いいから。窓を開けたら、即行でそこから離れとけ。お客さん方、申し訳ないんですが、その辺の机とかをすみっこにけといてもらっていいですか? 俺の周りのやつは触らないでいいんで。」


 シュルクの指示に不可解そうな顔をしながらも、店の中にいた人々は言われたとおりに店内の備品をすみに移動させ始める。


 これだけの人数がいるなら、備品の移動もすぐに終わるだろう。


 皆は最初から安全のために壁際に避難してくれているし、これである程度は周囲に気を配らなくても大丈夫なはずだ。


 シュルクは人々の様子を確認して、ようやくルーウェルを解放してやる。


「ほんっとうに、常識がない奴だな。」


 心底呆れた口調で言いながら、シュルクはさりげない動きで自分の側にあった机と椅子を動かした。


「てめえ…っ。許さねえからな!!」


 肩を押さえていたルーウェルは、勢いよくシュルクに飛びかかる。


 次々と繰り出される、攻撃の数々。
 なるほど、筋は悪くない。


 チェルが能力だけは一級だと言っていたのを考えると、リューリュー山への入山資格を得るのに求められるのは、頭脳だけではないのかもしれない。


 シュルクは涼しい顔でルーウェルの攻撃をけ続ける。


 ルーウェルの攻撃は止まる様子が一向にないが、そんな連撃の最中さなかでも、シュルクは近くにあった備品を器用に回収しては被害が届かない場所に避難させていた。


 これではまるで、幼子おさなご猛者もさのお遊びである。


「くそっ、なんで当たんねぇんだよ!?」


「そりゃあ、お前が遅いからだよ。あと、次に何を仕掛けてくるつもりなのか、分かりやすすぎ。」


「はあ!? んなわけねえし!! オレ、今まで負けたことねぇから!!」


「ふうん。じゃあ、お前の周りの奴らは相当弱かったんだな。それか、お前の機嫌を損ねるのがめんどくさいから、手を抜かれてたんじゃないのか?」


 シュルクは、ルーウェルのしゃくさわるだろう言葉をズバズバと突きつけていく。


 筋は悪くないが、こっちは彼の攻撃を避けながら備品を避難させる余裕まであるのだ。


 ルーウェルが今まで喧嘩に負けたことがないと言うなら、その理由は十中八九後者だろう。


「めんど…っ」


「事実、めんどくさいだろうが。」


「そ、そんなことねえよ! みんな、オレが一番だって褒め称えてた!」


「一番、ねぇ…。そう言い張ってお前のやっすいプライドが守れるなら、別にそれでいいんだけどさ。」


 そこで意味ありげに低くなる、シュルクの声音。


「―――じゃあ、気付いてるのか? さっきから、俺にいいように誘導されてるって。」


「はっ…?」


 間抜けな顔をしたルーウェルの拳を真正面から掴み、シュルクは一瞬で目元を険しくした。


「俺がお前に常識がない奴だって言ったのはなぁ……こんな場所で暴れんなって意味なんだよ。」


「はっ……わっ!?」


 ルーウェルが驚きの声をあげる。




「これ以上、店の備品を壊すんじゃねええぇっ!!」




 渾身の一喝と共に、シュルクはルーウェルの体を思い切り投げ飛ばした。

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