Fairy Song

時雨青葉

文字の大きさ
100 / 257
第11歩目 嘘はつけない

ルーウェル大興奮

しおりを挟む

「……い……ろ……」
「う……ん……」


「おい。」
「うう……」


「起きろって。」
「え…?」


 何度も呼びかけられ、ルーウェルは薄く目を開いた。
 ぼやけた視界が、徐々に像を結ぶ。


「シュルク……フィオリアちゃん…?」


 こちらを覗き込んでいる二人の名を呟き、ルーウェルはぱちくりと目をしばたたかせる。


 どうして、自分はこんな所で寝転がっているのだろう。


 記憶を手繰たぐっていたルーウェルはあることを思い出し、途端に血相を変えて飛び起きた。


「シュ、シュルク!?」


 大慌てでシュルクに飛びつくルーウェル。


「な、なんだよ?」


 焦るルーウェルに詰め寄られ、シュルクは眉をひそめて首を傾げた。


「だっ……だって、お前、お…落ちっ……落ち……」
「落ちたな。」


 気を動転させるルーウェルの言葉を、躊躇ちゅうちょせずに認めるシュルク。


「だ、大丈夫なのか!? 生きてる!? 本物!?」
「本物だよ。落ち着けって。」


 早くもルーウェルが鬱陶うっとうしくなったシュルクは、その頭に拳を叩き落とす。


「いってぇ…」
「な? 夢でも幻でもねぇだろ。あのくらいじゃ、くたばらねぇよ。」


 そう言って呆れたように息を吐くシュルクに、ルーウェルは数度まばたきを繰り返す。


 そのまましばらく無言の時が続き、そして―――


「よかったぁ……」


 ルーウェルは大きく肩を落とした。


「ほんっとうに、心臓が止まるかと思ったよ。」
「心配させて悪かったな。」


 素直に謝るシュルク。
 すると、ルーウェルはほっとしたような気の抜けた笑顔を見せた。


「無事ならいいんだ。さすがはシュルクだよ。ところで、あの時何が起こったの? シュルクが落ちかけたところまでは覚えてるんだけど、いつの間にか記憶がなくて……」


「さあ? 俺は単純に足を滑らせただけだけど、お前がいつ倒れたかは分からないな。穴から上がってきたら、お前がここで倒れてた。」


 ヨルのことを伏せて言うと、ルーウェルは特にこちらを疑う素振りもなく首をひねった。


「うーん?」
「もしかして、運悪くガスを吸ったとか? 体、変なとこないか?」


「うん。特にはないかな。なんか、オレの方が心配させたみたいでごめんな。」
「別に。」


 シュルクがルーウェルに話を合わせて言葉を返すと、彼はしばらく不可解そうな顔をしていたが、やがて眉間みけんに込めていた力を抜いた。


「思い出せないもんは仕方ないか……」
「そうだな。考えても仕方ないだろ。」


 ルーウェルが自らそういう結論に至ってくれたので、シュルクはその言葉を後押しする。


 さすがはヨルだ。
 ルーウェルには一切姿を見られていないらしい。


 ルーウェルも思い出すことを諦めたようだし、こちらにいらぬ疑いをかけられるようなことはないだろう。


 とはいえ、ルーウェルは未だに納得しきっていない様子。
 これは、彼がまた悩み始める前に、話題を別の方向へ誘導した方がいいと見た。


 そんなことを考えながら、シュルクはポケットに手を突っ込んだ。


「ほらよ。」


 ルーウェルの頭の上に、二つの袋を乗せてやる。


「ん? 何これ?」


 不思議そうな顔で頭上を仰ぐルーウェル。


「穴の中にあるライトマイトのサンプルが欲しかったんだろ? 落ちたついでに、持ってこられるだけ持ってきた。」


 研究バカのルーウェルのことだ。
 これを渡せば、些細な疑いなんてあっさり忘れるだろう。


 シュルクの推測は外れることなく、その言葉を聞いたルーウェルの顔が一瞬で輝いた。


「えっ!? ちょっ……見せて!!」


 シュルクの手から袋をひったくり、ルーウェルはその中に入ってるライトマイトの一つを取り出す。


「お、おお…っ。でも、こんなに大きな結晶をどうやって……」
「その辺に落ちてるの拾ってきた。」


 何食わぬ顔で嘘をつくシュルク。


 フィオリアをなだめている間に霊子がまた集まってきてしまったので、それらを散らすために霊神召喚で手頃な大きさのライトマイトを爆破してきたというのが実情。


 ライトマイトの採掘にも回収にも割と高位の霊神を使ったので、すぐに霊子は見えなくなった。


 だからこうして、ルーウェルの前に来られたわけだ。


 だが、そのことを一から説明すれば面倒なことになるのは必至。
 このライトマイトは、偶然と幸運の産物ということにしておけばいい。


「そっかぁ。すっげー……帰ったら即行で解析するわ。うわぁ……」


 子供のようにキラキラとした表情でライトマイトの一つ一つを観察しているルーウェルは、こちらの話など耳半分でしか聞いていないようだ。


 期待を裏切らない反応で助かる。


 これで彼もしばらくは研究に没頭するだろうし、それがひと段落した頃には、自分たちもこの町を出ていることだろう。


 真実は、上手い感じに闇の中にほうむれそうだ。


「うわっ! なんだこれ!?」


 二つ目の袋を開けたルーウェルが、弾んだ声をあげる。


 そちらを見ると、ちょうどルーウェルが霊子を封じ込めたライトマイトを取り出したところだった。


「こんなの、どこでってきたんだよ!!」


「ああ、それか。実は、奥にちょっとした洞穴ほらあながあって、そこで採ってきた。時間的な要因なのか、環境的な要因なのか知らないけど、そこだけはガスがなかったみたいで。」


「はっ!? どこどこどこ!?」


「うわわわわっ」


 大興奮のルーウェルに飛びかかられ、シュルクは思わずけ反ってしまう。


「ちょ……落ち着けって。」


「これが落ち着いていられるか!? シュルクが無事ってことは、安全なのが時間的な要因だとしても、今なら大丈夫ってことだろ!? 今すぐ行こう! チャンスは今しかないんだよ!!」


「わ、分かった。分かったから離れろ!」


 焦るシュルクは、どんどん距離を縮めてくるルーウェルを強く押し戻す。


 想像以上に効果がありすぎた。
 まさか、ここまで食いついてくるとは。


 妙な展開になってしまったが、こうなったのは紛れもなく自分のせいなわけで……


(めんどくせ……)


 心の中だけで呟き、シュルクは大きく息をついた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

【完結保証】科学で興す異世界国家 ~理不尽に死んだ技術者が、「石炭」と「ジャガイモ」で最強を証明する。優秀な兄たちが膝を折るまでの建国譚~

Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。 それでも、組織の理不尽には勝てなかった。 ——そして、使い潰されて死んだ。 目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。 強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、 因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。 武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。 だが、邪魔する上司も腐った組織もない。 今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。 石炭と化学による国力強化。 情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。 準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。 これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、 「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、 滅びの未来を書き換えようとする建国譚。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...