Fairy Song

時雨青葉

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第11歩目 嘘はつけない

旅立ちの前夜

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 長いルーウェルの質問攻めから解放されて山を下り、集会所に戻ってすぐに、セルカたちにここを出る旨を伝えた。


 元々、滞在予定は規制が緩和されるまでという話。


 セルカもランディアも残念そうにはしたものの、無理に引き止めるようなことはしなかった。


 本当は翌日にでも出立したかったのだが、それはとある事情により叶わず、ようやく出発の日取りが決まったのは、それから一週間ばかりが経過した後だった。


「…………はあ。」


 机に向かい、シュルクは溜め息を零す。


 視線の先には、小さな木箱が一つ。
 以前セルカに頼まれてひねり出したお礼というやつだ。


 これの出来上がりを待っていたせいで一週間が経ったわけだが、いざ受け取ってみると、その後の対処に困ってしまう。


『注文したのはシュルクちゃんなんだから、ちゃんとシュルクちゃんが処理しなさい。』


 直接受け取ることを渋った自分に、セルカが告げた言葉だ。


 こうなるんだったら、頼まなければよかった。


 面倒だからと特に深く考えもせずにこんな注文をした、二週間ばかり前の自分の判断が悔やまれる。


 さて。
 受け取ったはいいものの、これをどうするべきか。


 自分には別に必要のないものだし、ふところにしまっておくにしても、こういった物の保管方法はよく分からない。


 それ以前に、しまっておいて使わないというのも、町の人々に失礼だろう。


 さっきちらりと木箱の中を見てみたが、どれだけの金と手間をかけたのか、かなり豪華な仕上がりになっていた。


 結局は、自分が羞恥しゅうち心に耐える覚悟をしなければならないようだ。


「マジか……」


 机に突っ伏して視界を闇に閉ざせば、脳裏にフィオリアの顔がちらつく。


 次に彼女と顔を合わせるのが気まずい。
 そんなことを考えている時に限って―――


「シュルク。今、大丈夫?」


 こうなるわけで……


 小さなノックの音と控えめな声が耳朶じだを打ってきて、シュルクは深く息を吐いた。


「……入れよ。」


 気まずいとはいえ拒否する理由はないので、ドアに向かって言ってやる。


「ごめんね、夜遅くに。」


 細く開いたドアの隙間からぴょこんと顔を出したフィオリアは、ドアを閉めていそいそとこちらへ向かってきた。


「どうした?」


「えっと、あのね……明日にここを出るって聞いたから、どこに行くのかなって思って…。それとね……」


 フィオリアはほのかに顔を赤らめる。


「明日からまたバタバタするだろし、ゆっくり話せるのって今日くらいかなって…。その……だからね………少しだけでいいから、一緒にいてもいい?」


「………」


 そんな恥ずかしそうに言われると、こっちまで恥ずかしくなってくるではないか。


 複雑な気分になったシュルクは、フィオリアから顔を逸らし……


「ベッドの上。」


 指だけで、ベッドを示した。


 フィオリアはシュルクに従ってベッドまで移動し、その上に広げられた紙の一枚を手に取った。


「これは…?」
「今後の目的地の手がかり。」
「え…」


 シュルクの答えを聞いたフィオリアは、意外そうに目を丸くする。


「でも…」


 資料から顔を上げたフィオリアは、おそるおそるといった様子で口を開いた。


「これって、ヨルの字だよね…?」
「お前がそう思うなら、そうなんだろうな。確かに、あいつから受け取ったもんだし。」


 シュルクは、フィオリアの指摘を素直に認めた。


「そう…。なんか、この量はヨルらしいな。あの人ってちょっと完璧主義なところがあるから、自分が納得するまで手を止めないのよね。」


 どこか懐かしそうに、そして寂しそうに。
 フィオリアは、淡く微笑みながら資料の文字をなぞっていた。


 あそこまで露骨に自分のことを憎む母親を、純真に助けたいと思えるフィオリアだ。
 きっと、ヨルのことも大切な家族だと思っていたのだろう。


 丁寧な手つきで紙をめくるフィオリアの様子が、そんな感情を滲ませていた。


「………」


 シュルクは眉を寄せる。


 ……なんとなく、気に食わない。


 どうして自分がそんな風に感じたのかは分からないが、胸の辺りがもやもやとして仕方なかった。


 衝動のような不快感。
 それに突き動かされ、シュルクは椅子から立ち上がってフィオリアへと近付く。


 そして。


「―――フィオリア。」


 初めて、その名前を呼んだ。

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