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第12歩目 海を臨む街
思いやられる先行き
しおりを挟む「この詩に形容されている場所は、ものすごく霊子の濃度が高いっていう特徴がありまして……」
「ほう? 確かにそれは、ヨルが食いつきそうな事実だ。」
シュルクを切り出しを聞いたアジェールは、きらりと目を光らせた。
よかった。
ヨルが食いつきそうだということは、話の方向性はこれで間違ってはいないらしい。
「まだ二ヶ所しか回っていないので、単なる偶然である可能性はまだ捨てきれないんですけどね。でももし、この詩にまつわる場所が同じ共通点を持つのなら、この詩は単なる絶景スポットを記したものじゃないのでは、というのが俺の考えです。」
「ふむ、続けて?」
「………っ。前々から、個人的に疑問だったんですけど―――」
さすがは教育分野に関心が深いと言われているだけのことはある。
学問に関わる話においては、ちょっとやそっとじゃ満足しないようだ。
自分が蓄えてきた知識という知識を絞り出し、もはや気合いだけでアジェールの質問攻めをさばき続けること三十分。
「いやはや、お見逸れした。こんな有意義な話は久方ぶりだ。」
アジェールは愉快そうに手を叩いた。
「お気に召していただけたなら光栄です。」
営業スマイルをたたえて答えるも、内心はまったく穏やかじゃない。
頼むから、これ以上は何も訊かないでくれ。
即興で話を組み立てるのも、そろそろ厳しくなってきた。
声には出さずにそう願うシュルクの前で、すっかり機嫌をよくしたアジェールが鷹揚に笑う。
「その堂々とした態度と豊富な知識。あなたがフィオリア殿下の片腕となってくれるなら、我が国も安泰だ。」
「はあ……そうですかね…?」
「そうでしょうとも! ……失礼、話がすっかり脱線してしまいましたな。お二人がお探しの、橙水晶についての話をしましょうか。」
(ようやく本題に入ってくれた…っ!)
シュルクは、ほっと胸をなで下ろす。
「ヨルがお二人に見せてやってほしいと言っていた水晶は、カイム家の持ち物ではなく、ローム家の持ち物なのです。」
「ローム家?」
「カイム家の分家です。もちろん、私が口添えすることはできるのですが……まあ、その……」
アジェールの笑顔に影が差す。
「何か問題でも?」
シュルクが冷静に訊ねると、アジェールは言いにくそうにしながらも頷いた。
「お恥ずかしい話ですが、ロームの当主を務めているヒンスは、かなりの偏屈者でして。仕事の腕は申し分ないのですが、とかく人付き合いが嫌いなのです。私の紹介とあらば、あなた方を拒否はしないと思いますが……一応、居心地がよくないであろうことは、先にご了承願いたい。」
なんだ。
そんなことか。
どんな無理難題が来るのかと警戒していたシュルクだったが、想像していたほど深刻な問題ではなかったので、息をつきながら肩を落とした。
「そのくらいなら問題ありません。無理を通しているのは俺たちの方ですから、多少の当たりの強さなら受け流しますよ。彼女のことも俺がフォローしますんで、心配しないでください。」
おそらく、アジェールが不安がる大部分の理由は、居心地が悪いと分かりきっている場所に王族であるフィオリアを送ってしまうことにあるのだろう。
それを察したシュルクが当然のように告げると、アジェールは明らかに安堵した様子で表情を和ませた。
「なんと心強い。しからば、すぐにローム家への紹介状をしたためましょう。明日までに諸々の手配を済ませますので、今日はぜひこちらにお泊りください。客室を準備させますので、もう少々お待ちくださいね。」
そう言ったアジェールが、周囲に音符でも飛ばしそうなほどに軽い足取りで応接室を出ていく。
どうやら、自分は随分と彼に気に入られてしまったらしい。
さっきの話がそんなに面白かったのだろうか。
そんなことはともかく……
「つ、疲れた……」
アジェールの気配が遠くに消えるのを待ち、シュルクはソファーにもたれかかって全身の力を抜いた。
「あー、ストレスで死ぬかと思った! こんちくちょう! ヨルの野郎、俺をなんだと思ってやがる!!」
「お、お疲れ様…。私、ほんとに黙ってることしかできなかったよ。」
「それでいい。あんな口からの出任せに乗られたら迷惑だ。」
頭を抱えるシュルクに、フィオリアは苦笑いを浮かべる。
「出任せって…。そう言う割には、しっかりした話だったと思うけど。」
「ああ…。今日ほどこの体質に感謝した日はないわ。霊子とか霊神についてなら、体質制御のために腐るほど勉強したからな。」
まさか、この知識がこんなところで役に立つことになるとは。
身につけられる知識は好き嫌いせずに、詰め込めるだけ詰め込んでおけ。
意味がないように思えても、その知識が自分の身を裏切ることはない。
ザキが普段から教壇で口酸っぱく言っていたことが、本当に正しかったんだなと思い知る時間だった。
「出だしでこれだと、先が思いやられるな……」
ぽつりと呟くシュルク。
この呟きがこれから起きる出来事の核心を射ていたとは、当然ながらこの時には気付いてなどいなかった。
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